東京地下道1949■第10回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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「鉄。どこにいるの、鉄、、」
恵は思わず叫んでしまった。
この長い通路の中で鉄とはぐれてしまったのだ。
地下壕はトウキョウ市のすみずみに、はりめぐらされている。
一つまちがえば、迷路のような地下道を堂堂巡りしかねない。
恵は鉄とはぐれてだいぷの時間がたっていた。ろうそくも短くなっていた。
恵はしかたなく自分達のアジトに帰ることにした。
アジトには、兄達はまだ帰っていないようだ。
寂しく恵は竜たちの帰りを待つ。遅い。いつもはこんなでない。不安がよぎる。
足音がした。恵はドアを急いで開け、叫んだ。
「兄さん」
目の前には190cmを越すムサシの姿がそびえたっていた。
その眼はにくしみと悲しみをたたえて、静かに恵をながめていた。
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恵の兄、戦争孤児のグループの頭、竜もかろうじて、攻撃からのがれていた。
爆弾のショックで地面が割れ、地下壕に半死半生でふきとばされていた。
竜は、トウキョウ市じゆうに攻防戦用に地下壕が存在していることを、恵から聞いていた。
恵は地下壕を知悉していた。
ひまがあれば地下壕を歩きまわっていたようだ。
今、ここに恵がいれば、竜は弱音をはいた。
他の奴は助かったろうか。いや恐らく。あんなに激しい攻撃を受けのだ。
助かっているはずがない。
自分が助かったのも不思議だ。
竜は、はるか、昔のこる、そう、もうはるか昔、御伽噺のような昔だ。
その時期をを暗やみの中で思い知こしていた。
彼は幼い恵を背中に負い、怒濤の様なソ建軍の攻撃をのがれたのだ。
何回も兄、恵介からさずかった守り袋をにぎりしめ、つぷやいていた。
「兄さん、助けてくれ。』と。
兄は特攻隊で音信不通の状態だった。
父や母と会うこともないだろうと竜は考えた。その代り、この恵を守り通さねばならぬ。
唯一の肉親だから。そう竜はおもっていた。
トウキョウ市は戦後、アメリカとソ建により分断された。
両軍共、トウキョウ市周辺に強大な部隊を集結している。
東西陣営の対立が、この日本のトウキョウ市で顕在しているめだ。触発の状態にある。
定期会談がいく度となく聞かれているが、雲行きがあやしい。
そんな中で、竜は恵を守り、生きていかねばならなかった。力が総てだった。
ポケットをさぐると、ジッポー・ライターがあった。
火をともし、出口を捜し始めた。どこまで続くか、わからない。
永久に外にでられないかもしれない。武器も手にしていない。
前に光がみえたような気がする。急いでライターを消す。
光がゆっくりとこちらの方へ近づいてくる。
竜は身をふせた。
ろうそくを前に、ナイフの鉄がかずむずと歩いてきた。
かなり疲れている。鉄は人の気配に気づき、
ろうそくを捨て、ナイフを身構えた。
「誰だ。そこにいるのは。」
「さすがだな、鉄。俺たよ、竜だ」
「お前こんなところに、なぜ。」
「アメ公にやられたんだよ。米軍トラック襲撃に失敗し、このざまさ」
「かれも似たようなものさ。お前も出口を披し困っているようだな」
「そのようだ」
「しかたがない。ここは共同戦線といくか」
2-3時間ほど歩き回った後、ようやく、ろうそくの炎が風でゆらいだのだ。
風の吹く方向へ進み巧妙に隠された出口へと導かれた。
竜は、妹の恵のことが心配だったのでアジトヘ帰ることにした。
鉄はしぶっていたが、やがて、それに同意した。鉄も恵の事が気になっている。
しかし、‥保安部につかまっていて、襲撃の情報をもらしたのが、鉄だと、竜にばれてしまう。
その危惧が、鉄を不安にする。
続く090901改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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