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義経黄金伝説●第7回

2005年01月04日 | SF小説と歴史小説
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■義経黄金伝説■第7回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
http://www.geocities.jp/manga_ka2002/

第2章1 一一八六年 鎌倉・頼朝屋敷

 驟雨が鎌倉を覆っている。頼朝の屋敷の門前に僧衣の
男が一人たっている。
老人である。その老人を尋問する騎馬が二騎現れていた
。二人は、この僧を物乞いかと考え、追い払おうとして
いる。
「どけどけ、乞食僧。ここをどこと心得る。鎌倉殿頼朝
公の御屋敷なるぞ。貴様がごとき乞食僧の訪れる場所で
はない、早々に立ち去れい」
語気荒々しく、馬で跳ねとばさんばかりの勢いである。
「拙僧、頼朝公に用あって参上つかまつた」
「何を申す。己らごときに会われる、主上ではないわ。
どかぬと切って捨てるぞ」
ちょうど、頼朝の屋敷を訪れようとしていた大江広元が
、騒ぎを聞き付けて様子を見に来る。
「いかがした。この騒ぎは何事ぞ」
広元が西行に気付く。
「これは、はて、お珍しい。西行法師殿ではござらぬか

「おお、これは広元殿、お久しゅうござる。みども乞食
僧と呼ばれおるか。何卒頼朝公にお引き合わせいただき
たいのです」
「何と。天下の歌詠み西行殿とあれば、歌道に詳しい頼
朝様、喜んでお会いくだされましょう」

 広元が武者に向かい言う。
「この方をどなたと心得る。京に、天下に有名な歌人、
西行殿じゃ。さっさと開門いたせ」
広元は西行の方を向かい、
「重々、先程の失礼お詫び申す。なにしろ草深き鎌倉ゆ
え、西行殿のお名前など知らぬやつばら」
「拙僧は、頼朝殿に東大寺大仏殿再建の勧進のことお頼
み申したき次第でございます」
「何を南都の…東大寺の…」
広元の心の中に疑念が生じた。その波は広元の心の中で
大きくなっていく。
「さよう、拙僧、東大寺勧進重源上人より依頼され、こ
の鎌倉に馳せ参じました。何卒お許しいただきたく」

 頼朝と西行が体面している。横には広元が控えていた

「西行殿、どうでござろう。この鎌倉の地で庵を営まれ
ましては」
「いやいや、私は広元殿、程の才もありませんでな」
「それは西行殿、私に対するざれ言でござりますかな」
「いえいえ、そうではございません」
「西行殿、わざわざこの頼朝が屋敷を訪れられたのは、
歌舞音曲の事を話してくださるためではありますまい」

西行の文学的素養は、絢爛たるものがあった。母方は
あの世界史上稀に見る王朝文学の花を開かせた一条帝の
女房である。西暦一千年の頃、一条天皇には「定子」「
彰子」という女房がいたが、定子には「枕草子」を書い
た清少納言が、また彰子には「源氏物語」を書いた紫式
部などが仕えていて、お互いの文
学的素養を誇っていた。

「さすがは頼朝殿、よくおわかりじゃ。後白河法皇様か
らの書状もっております」
頼朝に書状をゆっくり渡す。頼朝は、それを読んだ。
「さて、この手紙にある義経が処置いかがいたしたもの
か。法皇様は手荒ことなきようにおっしゃっておられる
が」
「義経殿のこと、頼朝様とのご兄弟の争いとなれば、朝
廷・公家にかかわりなきことなれど、日々戦に明け暮れ
ること、こ
れは常ではございますまい」
「それはそれ。このことは私にまかされたい。義経は我
が弟なればこそ、命令に逆らいし者、許しがたいのです
。……」

頼朝は暗い表情をしたが、しばらくして、急に表情が変
わった。
「西行殿、これから行かれようとしている平泉のことだ
が……」

 西行は、平泉のことを意を決してしゃべりはじまた。
「ようぞ聞いてくだされた。秀衡殿は、平泉に将兵を集
めて住まわせることなどはしておりませぬ。よろしゅう
ございます
か。奥州藤原氏の居館は、城ではございません。平泉の
町には、軍事施設はないのでございます」
「では兵はどうするのじゃ」
「いざ戦いがあれば、平泉に駆けつけると聞き及びます
。秀衡殿、頼朝殿に刃向かうつもりなどないのでござい
ます」
 頼朝は、この西行と藤原氏の関係をむろん疑っている
。聞ける情報はすべて聞き出そうと考えていた。広元も
先刻、西行と会う前に、耳元で同じ旨を告げていた。こ
の西行、果たして何を企む。頼朝は、頭をひねりながら
、西行の話を聞く。平泉は城ではないというのか。まる
で平泉全体が大きな寺ではないか、と頼朝は思った。
「初代清衡殿は中尊寺、二代基衡殿は毛越寺、三代秀衡
殿は無量光院をお造りになったと聞いております」
「それでは、すべて寺院ばかりではないか」
「さようでございます。平泉は仏都でございます。中尊
寺建立の供養には、こう書かれているのでございます。
これは初代
清衡公のお言葉。長い東北の戦乱で、多くの犠牲者が出
た。とくに俘囚の中で死んだものが多い。失われた多く
の命の霊を弔って、浄土へ導きたい。また、この伽藍は
、この辺境の蕃地にあって、この地と住民を仏教文化に
よって浄化することである。こう書かれているのでござ
います」
頼朝は、冷気を浴びせるような視線を、西行に浴びせて
いる。
「西行殿は平泉がお気に入っておられるか」
頼朝のその質問に、西行の頭の中に、あるイメージが浮
かんでいた。平泉・束稲山の桜ある。
「私は花と月を愛しますがゆえに」

 頼朝屋敷はすでに夕刻を迎えている。
「が、なぜ、西行殿、秀衡殿を庇いなされる。ただ東大
寺がために勧進とはおもわれぬ。聞くところによれば、
西行殿と、秀衡どのとは浅からぬ縁あると聞くが……」
 頼朝は矛先を、藤原氏と西行とのかかわりに向けてき
た。この質問に、西行はいささか足元をすくわれる感じ
がした。この頼朝という男、さすがである。
「いや、それは単なる風聞でございましょう。私は唯の
歌詠み。東大寺のために、沙金をいただきに秀衡様のと
ころへ参る
だけでございます」
「それならば、そういうことにしておきましょうか。で
、西行殿」
頼朝はかすかに冷笑した。その笑いの底に潜む恐ろしい
ものを感じ、わずかに言葉がかすれている。
「何か」
「西行殿は、昔は北面の武士。あの平清盛殿と同僚だっ
たとも聞き及びます。なにとぞ、この頼朝に弓の奥義な
どお聞かせいただきたい」
「よろしゅうございます」
 話の矛先が急に変わったことに、西行は安堵した。頼
朝は、これ以上、西行を追い込むことを避けたのだ。あ
まりに西行を追及すれば、この場所で西行を殺さねばな
るまい。殺さずとも、閉じ込めねばなるまい。今、それ
は政治的にはマイナスであろう。無論、広元もその案に
は賛成すまい。
 ここは少しばかり話を流しておくことだと頼朝は思う
。一方、西行は虎穴に入らずにはと考えたが、頼朝とい
う男は虎以
上に恐ろしかった。このことすぐさま、法皇様に書状を
もって報告せねばなるまい。この男の扱い方は、義経殿
のようにはまいらぬ、そう考えていた。頼朝は、西行が
ある程度、義経の行方を知っていると考えている。
(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
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