ロボサムライ駆ける■第1回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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■第1章 胎動
(1)
巨大な島が動いている。その島が瀬戸内海を航行しているのだ。まろやかな陽光たなびく中、その島は動く。空母ライオンであった。
「風光明媚なところでございますなあ」
バイオ空母ライオン、排水量一〇万トン。甲板の幅五〇メートル、全長弐〇〇メートル。新生ドイツ帝国に属する貴族、ロセンデール卿の私物である。
ロセンデールの秘書官のクルトフが、空母ライオンの鑑橋から、瀬戸内海を見渡しながら言った。
今年六十になるクルトフは、鷲のような顔付きをしている。赤く思慮深い眼、大きない鼻梁は高くいかつい感じをましていた。長い白髪は仙人を思わせる事がある。
ヨーロッパの首相級を思わせる華麗な宮廷服を着ていた。
「クルトフくん。ここ、美しき国、日本が手にはいるわけですから。心して計画にかかねばなりませんね。それでどうですか。大阪シティの受け入れ体制は」ロセンデールは言った。
ロセンデールはいかにもヨーロッパ的な顔立ちであり、言葉使いも優しく、一見やさ男であるが、よく観察すると、野望を秘めた目と高貴な育ちを表す高い鼻と、力強い意志をもつ顎が見えて来る。
そして、体全体からは権力を持つ男のオーラが発されているようであった。今年三七才になるが、二〇代後半にしか見えなかった。
長い金髪を後ろで束ねて垂らし、ビロードでできた古代ペルシア風のチュニックとショートコートを来ていた。
「万全のようです。これも卿けいの深慮遠謀のお陰」
「くくくっ、ともかくも、世界史上誰もなし得なかったことをしようとするわけですからねえ。ところでクルトフくん、例の霊能師の方は大丈夫なのですか」
「その方の準備も万全でございます。西日本都市連合議長の水野なりが、餌をまいておりましょう」
「ロセンデール卿陛下、皆の用意ができました」
聖騎士団長のシュトルフが言った。
シュトルフは、戦のなかで生まれたような男だった。赤ら顔で首は太く、胴は樽のようだった。その樽の上に乗っている顔はどちらかというと愛嬌があった。眼は小さく、鼻は団子鼻で大きく、口もまた大きかった。ロセンデールいわくジャガ芋顔である。
大きな戦いを生き残ってきた四五才の精鋭だった。
光る電導師の制服を着ていた。そのコスチュームは、昔の十字軍を思わせた。
「よーし、君たち、そう聖騎士団の諸君、電導師たちの力を見せていただきましょうか」
ロセンデールは剣を引き抜いていた。
ゲルマンの剣である。切っ先が陽光を受けてきらりと光る。
「殿下、さすがに見事でございます」
「ほれぼれとするお姿じゃ」クルトフが言った。
ロセンデールの後ろには、うすぎぬを着た巫女たちが戦いの歌を歌い始める。一五才から一八才の美女ばかりだった。
ロセンデールの歌姫たちだ。
ゲルマンの剣はわざわざ、ルドルフがロセンデールに渡したものだった。
「皇帝ルドルフ猊下、この剣にて帝国の領土をひろげましょうぞ」
こう見栄をきったロセンデールだった。
ロセンデールはヨーロッパの某国で生を受け、霊戦争後のし上がってきた貴族である。現在、新生ドイツ帝国ルドルフ大帝の右腕とすらいわれている。
「シュトルフくん、例のものを合体してみせて下さい」
「殿下、ここでですか」
「まだまだ、大阪港へつく時間ではありませんよ。ここでね、姿と力を見てみたいのですよ、おわかりですか」
「わかりました。殿下のおおせのままに」
「飛行士の諸君、甲板にバイオコプターを集めよ」
バイオコプターは生体を形どった機械飛行機で、大きな羽根で羽ばたくことにより揚力を得ていた。この生体とは、とんぼとか兜虫とかの昆虫である。
「よーし、動かせ」
バイオコプターが一点に集まっていた。
そのバイオコプターの群れが別のものに変化した。
何か巨大なものが、ロセンデールたちの前に立ち上がっていた。
瀬戸内海の陽光を受けて、それはきらきら輝いている。
「陛下、まことに見事です。これでもって、日本人どもの肝を冷やさせるでしょう」
続く2016年改定
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所