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■義経黄金伝説■第38回

2005年02月18日 | SF小説と歴史小説
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■義経黄金伝説■第38回(60回完結予定) 
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第6章  1189年(文治五年) 平泉

■2 1189年(文治五年) 平泉  
 平泉ちかく北上川の川縁にいる西行が、吉次の方に向って言った。
吉次は小船を用意している。
「さて、吉次殿。義経殿の逃げ先、よろしくお願いいたします」
「わかりました。すべておまかせを。して静殿は、いかがいたします」
「吉次殿、この手配りは、静殿には話していない。供を付けて京都に帰って
いただくか」
「わたしもそのほうがよいと考えます……」
吉次も首肯した。静は気を失って倒れている、
 遠くやけくすぶる高殿、義経屋敷跡の煙が巻きあがっている…。

 二日後、北上川の船上に、ゆったりとすわっている義経がいた。
 吉次が姿を見せる。気付いた義経が話しかける。
「のう、吉次殿、十五年前もお主の船で、だったな」
「さようでございますなあ。なつかしい限りでござます」
 吉次は、遠くを見透かすような目をする。
「あの折りは、ものもわからぬまま、お主に連れられ、摂津大浦(尼崎)から
多賀城まで一航海じゃった。が、あの頃の俺は、意気に燃えておった」
「何をおっしゃいます、義経様。これから、まだまだでございます。これから
の行き先、蝦夷には、新天地が待っていましょうぞ」
義経にとって平泉は新世界であったが、まだ、その先の新世界へ行こうという
のだ。

「吉次殿、お前もあの頃に比べると、偉くおなりだな」
「あの仕事で、私に運が開けました。お陰様であの縁で、藤原秀衡様にかわい
がっていただき、このような身代が築けました」
「ああ、そうか、すべては西行法師殿のお陰だなあ」
「さようです。西行様のお陰でございます」
「残念ながら、私は西行殿の役には立てなんだ」
 義経はすこし寂しそうな顔をした。

「西行様の思いとは…」
「あの平泉を、第二の京都、陰都とするとする事じゃ。そして崇徳上皇をお祭
りする事だ。平泉王国を、北のそなえとして仏教王国として、平和郷を作るこ
とだった。その将軍が私だ。また、主上を、平泉お招きするという案だ。この
企みは、後白河法皇も気に入っておられたのだ」
「仏教の平和郷ですか。もう、それもこの日本にはございますまい。すべては
鎌倉殿の思いのままになりましょう」
「藤原泰衡殿が、兄上頼朝殿と何とかうまくやってくれればよいが」
「それは、やはり、むつかしゅうございましょう」
吉次は冷たく突き放した。

北上川の水面も寒々と、月光をあびて澄み渡っている。

■1189年文治5年・京都
「なに、義経、自刀したとな」
後白河法皇がうめいた。
「今、多賀城国府より知らせが入りました」
藤原(九条)兼実が答えた。
「しかたがないのう。後は頼朝が動き注意せねばなあ。ところで、義経が家
来、皆、討ち死にいたしたか」
後白河が、兼実に不安げに尋ねた。
 後白河の顔色を見て、藤原兼実が意地悪く尋ねる。
「院がお気になさっているのは、弁慶の事でございましょう」
兼実は、うれしげに返事を待っていた

「そうじゃ、あやつは朕が手先。が、途中で義経に寝返ってしまいよった。せ
っかく熊野の山で見つけた、朕がための闇法師だったのだが」
「さようでございましたな。院が熊野へ参拝なさったのも、もう三十回になり
ましょうかや」
「そうなのだ。弁慶は十度目の熊野参拝の折り、朕が、眼につけたのだ」
後白河はそのおりを思い返すように言った。

 この時期、蟻の熊野詣といわれるくらいに、熊野詣は流行っていた。我も我
もと、皇族や貴族が和歌山の熊野に詣でるのである。京都から淀川をくだり、
渡辺津から泉州をぬけて…
熊野は旧き日本の時から、1つの王国勢力であり無視できぬ。それゆえ、特別
の配慮が行われている。熊野三社は伊勢神宮と
同格とされている。大和朝廷統一以前の勢力がいまでも残滓として残ってい
る。山伏もこの地域を勢力範囲とした。

当時の海の交通には熊野の海商が、海の侍が大きな役割を果たしている。
熊野三社の供御人(くごにんー神社に属する人間)が、遠く奥州まで船を運ん
でにぎわっている。
熊野、伊勢の回船や船人をいかに把握するかが、この時期の日本の支配者には
是非とも必要であった、山伏もまた、この時期の日本にひとつの勢力である、
が、頼朝と広元は、日本全国に守護地頭という制度をつくり、板東のご家人を
送り込む事により統一しょうとした。

 十度目かの後白河法皇の熊野巡幸。その折りに山法師が後白河法皇の宿所に
願を願っていた。
「殿下、弁慶とか申す山法師、ぜひともお目にかかりたいと申しております」
「どんな奴じゃ」
「いや、それは化け物のような…」
「化け物のようじゃと、おもしろい」
「朕が会ってみようかのう」
「お止めください。危のうございます」
 が、その返事の前に、向こうで騒ぎが興り、何かが法皇の前に飛び出して来
ていた。雑色を振り切り、弁慶が雑色たちの人垣を跳躍して来たのである。恐
るべき膂力であった。
「私が、その化け物の弁慶でございます」
 悪びれずに、その大男は言う。後
白河は思わずたじろいでいたが、
「くはは、お主が弁慶か。ふふふ、おもしろい奴よのう」
 が、一瞬、後白河は、弁慶の顔に何かを見たようだった。
「いかがなされました、法皇様」
「いや、何でもないのじゃ。汗が目に入ってのう」後白河は顔をつるりとなで
た。
「それでは、私の考え、お聞きください」
 護衛の武士が追いついて来た。
「恐れ多いぞ、何者ぞ。主上の前なるぞ。いかがいたした」
「よいよい、しゃべらせてやれ」
「よろしゅうございますか。法皇様、この世の中は、断じて間違ごうてござい
ます」
「何をぬかす」
「よいよい、しゃべらせてやれ」」
「平家がごとき世の中を支配するとは、必ず法皇様、天を御所に取り戻してく
ださいませ。これらは我らが願いにございます」
「我らじゃと、我らとは誰じゃ」
「我々、山法師でございます」
「ほほう、気にいったぞ。お主の心根、面構え、名は何と申す」
「はっ、武蔵坊弁慶と申します」
「弁慶とやら、朕の闇法師を申し付けるぞ」
 ちらりと後白河は笑ったように見えた。が、弁慶は
「ありがたき幸せ」
 と深々と頭を下げているので、その表情が見えない。
「して、お主の母、ご鶴女殿は息災か」
「法皇さま、わたしの母親の名前をなぜご存じか…」
「うむ、昔あったことがな、あるのじゃ」

(続く)
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