山之上もぐらの詩集

山之上もぐらの詩集

風の強い夜

2025年02月07日 | 日記

    風の強い夜

風の強い夜は 絶望の夢をくり返し見る

風は 河の方から吹いてくる
母親にくびり殺された男の子が 
置き捨てられた河原の方から 吹いてくる
風の泣き声は いつまでも止まない
風のうめき声は いつまでも止まない

風は 橋の方から吹いてくる 
母親に突き落とされた女の子の
河に掛かる橋の方から 吹いてくる
風の叫び声は いつまでも止まない
風の泣き声は いつまでも止まない

冷たい風は 地蔵を凍らせる
石の地蔵は 氷よりも冷たい
救いの無い風の声は 
闇の中の地蔵を絶望させる
地蔵は 悲痛の塊で出来ている

風の音が雨音に変わって
忘れたはずの顔がよみがえる
惨めな記憶がよみがえる

見返す値打ちも無い
思い出す値打ちも無い
強がるつもりもない
少しの望みも無かったはず
思いもしなかったはず
夢を見ることさえしなかったはず
ただ夢に過ぎないただの夢だったのに

風の強い夜は 絶望の夢をくり返し見る

何を夢見ていたのか
思い出せもしないのに


金持ちになる秘訣

2025年01月29日 | 日記

金持ちになる秘訣


金持ちになる秘訣は
人と付き合わんことです

お断りします 悪しからず
こう言えることです

しかし
世の中無事に生き延びるには
お金持ちの仲間に入らず
貧しいままでおることです

お断りします 悪しからず
こう言えることです

世の中無事に生き延びるには
お偉いさんにはならず
権力に近寄らんことです

お断りします 悪しからず
こう言えることです

世の中無事に生き延びるには
善人ぶらずに
性格の悪い変わり者でおることです

お断りします 悪しからず
こう言えることです

世の中無事に生き延びるには
群れに入らず
村の八分におることです

お断りします 悪しからず
こう言えることです

世の中無事に生き延びるには
楽しい仲間を作らず
独りでおることです

お断りします 悪しからず
こう言えることです

時代は 時代に裁かれる
時代は 時代に覆される
時代は 時代に騙される
時代は 時代に殺される

世の中無事に生き延びるには
お断りします 悪しからず
こう言えることです

そんな時代です


老人の務め

2025年01月25日 | 日記

 老人の務め

老人は 枯れていなければならない
老人は 呆けていなければならない
老人は 口が重くなければならない
老人は 耳が遠くなければならない
老人は 目がかすんでいなければならない
老人は 腰が曲がり杖をついていなければならない
老人は 若者に介護されなければならない
老人は テレビの前に座っていなければならない
老人は ありがとうを言わなければならない
老人は 優先席に座らなければならない
老人は 生涯学習の教室に通わなければならない
老人は 老人は保証人を求められねばならない
老人は 老人保険に加入させられなければならない
老人は 詐欺電話に騙されなければならない
老人は 強盗犯の餌食にならなければならない
老人は 介護施設に送られなければならない
老人は 車椅子に乗っていなければならない
老人は 貧しくなければならない
老人は 孤独でなければならない
老人は 投票に行かなければならない
老人は 利権の為に利用されなければならない
老人は 弱者でなければならない

老人は 過去を忘れていなければならない
老人は 本当の事を言ってはならない
老人は 昔のことを言ってはならない
老人は 本音をもらしてはならない
老人は 世の中の仕組みを話してはならない
老人は 自分の見聞きしてきたことを口にしてはならない
老人は 自分がしてきたことを知られてはならない

老人は 老人を装わなければならない
老人は 老人を演じなければならない
老人は 老人のフリをしなければならない

老人は 老人の務めを忘れてはならない


時代の風

2025年01月22日 | 日記

時代の風

風は どっちへ向いて吹くか知れない
時代は どっちへ向いて流れるか知れない
気まぐれなのか 悪質なイタズラなのか
それとも無邪気な戯れなのか
望みを抱かせ 触れようとしたまさにその時に
性悪の小娘のように その身をひるがえす

時代の風に 胸をそびやかせていた者も
時代の波に  快走していた者も
時代の目に  羨望されていた者も
時代の口に  もてはやされていた者も
その風に吹き飛ばされ 波の底に沈む

時代の寵児は やがて時代の鼻つまみ
時代の勝者は やがて時代の敗者
時代の富は やがて時代の負債
時代の喜びは やがて時代の悩み
時代の幸福は やがて時代の不幸

風は どっちへ向いて吹くか知れない
時代は どっちへ向いて流れるか知れない

貧しかった時代が 幸せだったような気がする
敗者であったことが 幸いだったような気がする
富を蓄えることなど及びも付かないが
負債を持たないことは 何より富んでいることだと思う
病を得ることは 老いて死ぬことの道程にすぎない
老いて死ねることは 何より幸いだと思う

時代の風は 乱れてさらに強くなりそうだ
時代の波は 揺り返しさらに大きくなりそうだ
時代の性悪の小娘も老いる
老いて病を得る
時代も 俺たちと共に死ぬ


犯罪する老人

2025年01月15日 | 日記

犯罪する老人

犯罪する老人が街の中に増殖する
私はそのうちの一人
今は町内に住む変わり者ではあるが普通の老人
ふと見上げたまだ青い夕空の白い満月に
理由も理屈も無い涙を流すように
理由も理屈もない憤懣に
いつだってキレる恐れは充分にある

自制心 我慢 理性 それは同義語
決心 行動 犯罪 それは同義語
現実 理不尽 法律 それは同義語
罰則 テロ 正義 それは同義語
自殺 他殺 死 それは同義語

生きがいの無い人生に
老人は死にがいを探している

老人は 若者が大嫌いだ
若い奴らを見ると
未熟で傲慢で卑怯者だった自分を想起して 背筋に鳥肌が立つ
若者たちに未来などはない
未来を夢見た若者のまま死ぬか
自分を裏切って老いぼれるかだ
若者のまま死んだ奴の生きがいも死にがいも 若い分だけ傷ましく虚しい
かって若者だった俺たちが言うことだ

若い愛人に 毒殺される老人も
コンビニでおにぎりを盗んで 逮捕される老人も
何十億もの金をくすねて 不出来な息子に残そうとする老人も
八十過ぎた夫の浮気に嫉妬して 包丁で刺し殺そうとする老人も
深夜の道で 帰宅途中の女性の胸を触ろうとする老人も
負えなくなった介護に 親や伴侶や子供に手を掛ける老人も
それが生きがい それが死にがい 

生きがいと死にがいを求めて
私もやがて 犯罪する老人