世迷い言

2024年08月07日 | 日記

世迷い言


極楽の門は地獄の扉
地獄の門は極楽の扉

菩薩の顔が鬼の顔
鬼の顔が菩薩の顔

方便の嘘も方便の真実も
嘘の嘘 真実の嘘
方便 方便

陰惨な苦痛の死こそ法悦
安穏な臨終が地獄の苦痛

酷烙天獄
慈国浄土

悪鬼の化けた金襴袈裟の大僧正の方便
菩薩が化けた賤しき首切り役人の方便
方便 方便

老いて呆けた痴れ人の
この世の事やら
あの世の事やら
世迷い言にて候


幸いな人生

2024年08月05日 | 日記

幸いな人生

いつ死んだって
幸せな人生だったと言えるが
同じ人生を もう一度生きるのは
まっぴらごめんだ

幸せな人生だったのは
その時を 何とかようやくやっと
しのげてきた幸いを思うのであって
この先 その時をしのげるかどうか
自分には到底知れないし 自信も無い

父や母を見送れたのが
私の人生の最大の幸せだ
父や母について
悔いに思うことは たくさんたくさんあるけれど
思っても仕方ない
父や母を見送ることが 私の人生の全てで
父と母を見送れたことは
私の人生の最大の幸せだった

地球も人間も日本も
この先
しのげるとは思えない

若者たちも子供たちも
これからを
私のように 何とかようやくやっと
しのげるとは思えない

たとえわずかの者がしのげたとしても
しのげる側に加わわることは難しい
加われることが 幸いであるとも思えない

最後の審判を仰ぐまでもない
すでに審判は下され
我々は地獄のまん中に立っている

毎日のニュースやイベントは
地獄巡りの豪華なカタログだ
偽善と業つくと嘘偽りプログラム

地獄の中で さらに悪事を謀り 業つくの限り
虚名と虚業と虚飾の争いの世界オリンピックだ
すでに喰うにさえ事欠くというというのに

この先 何とかようやくやっと
しのげる幸いはない

この先 何とかようやくやっと
しのげる幸いは 誰にもない

いつ死んでも好い私の人生は 幸いな人生だ
間もなく地獄を逃れる私の人生は 幸いな人生だ


幻滅

2024年08月02日 | 日記

幻滅


幻滅と言うものを始めて体験したのは
万華鏡を壊した子供の時だった
小さな筒の中に広がる無限の空間の不思議さに
買ってもらったその日のうちに 
私は その万華鏡を分解した
中は三枚の鏡と刻んだ千代紙の数片だけで
いかにも即物的な正体とともに
無限の空間の不思議な幻と謎は 消えてしまった
アラビアの魔法使いの仕掛けた特別な秘密や呪文は
いくら探しても見つからなかった
そして壊した万華鏡は 元には戻らなかった

私は本を読むようになった
スティーブンソンの「宝島」に夢中になった
長い物語の途中から 私は
挿絵に描かれた宝箱に取り憑かれた
鋲で打たれた鉄枠の古びて汚れた木箱
屋根型の頑丈な蓋に 錆を含んだ大きな錠が架けられ 
その箱の中身を匿している

私は その箱に憧れた 
私は その箱に恋をした
私の求めるものが その中にある
私の願いが その中にある
私の夢が その中にある
私の望みが その中にある
古びて汚れて 決して美しくはない頑丈に鎖された匣
それが私の恋人になった

そしてついに私は 終わりに近づいた物語の挿絵に
洞窟に隠された宝箱が開かれるのを見た
無数の金貨や宝石指輪首飾りがあふれこぼれ 散らかっているのを見た
私は醒めた
宝箱のいかにも即物的な中身に 私は冷めた
物語のぞくぞくするような冒険のときめきと共に
恋い憧れていた私の恋人は 褪めてしまった

宝箱を探し求め やっと発見し錠を解いて  ついに蓋を開けたとき 
私は恋人を失ったのだ
私の恋人は幻だった

歳老いた今
思い出は 万華鏡に似てると思う
思い出は 玉手匣と言う宝箱に似てると思う

行き過ぎる制服の女学生がまとう透明の風を想うとき
私は思い出という万華鏡の幻を覗いているのかも知れない

思い出の詰まった玉手匣を 開こうとしてはならない
その数々の美しい刻の幻を 確かめようとしてはならない
玉手匣を開けたら きっと
制服の女学生は 刻の煙に曝されて たちまち白髪の老婆に変わる
詰襟の少年は 刻の煙に曝されて たちまち白髪の老爺に変わる

思い出の中の初恋の娘の今は
決して死にみやげにはならない
思い出の中の初恋の少年の今は
決して貴女の死にみやげにはならない

思い出という玉手匣は 開けてはならない宝箱
そのままそっと 塚に埋めよう


老婆独言

2024年07月30日 | 日記

老婆独言


この世は 幸福地獄 罪業天国

光のお姿が 影の衣を纏っているように
闇の怪体も 綺羅の光の衣を纏っているものじゃ

人の生というものが 死でもってようやく成るように
死というものも 生の中にこそ 姿を顕すものじゃて

弱肉強食の世の中じゃ
弱肉の者たちの赴く慈国
強食の者たちの行く天獄

金の上に金を積み上げる業つく者の貧しさよ
足らぬを なお施しあう貧しき者の豊かさよ

人さまの目には 哀れみじめに見えようが
世間の業つく者よりは わしゃ豊かじゃわい

わしゃ独りで死ぬが
誰だって死ぬときゃ 一人じゃないかい

心中でもせん限り
不幸な事故にでも 合わん限り
一人で死ぬのが あたりまえ
一人で死ぬのは 好い事じゃ

身体も腐れば 悪臭を放つ
それもしばらくの事
少しは 我慢して下され

骸のお世話は お互いさまじゃ
少しくらいお世話になったとて
バチは当たるまい

こちらは 放っておいてくれたに 
さわりがあるわけも無し
誰も 弔ってもらおうとも 思っておらぬわい

まだ息があろうが無かろうが
わしの骸を汚がり
迷惑がるのは そちらの勝手

嫌なら 川へ流すなり 鳥や獣に喰わせるなり
わしには どうでも好いことじゃ

誰も わしを弔おうと思うて下さるな
経や戒名なんぞ まっぴらじゃ

そちら様の都合は
わしが目に触れなければ好いだけのこと

分かっておるわい
せいぜい わしを哀れと思し召せ
鏡に映る己が姿と気付かずに

己が葬式と墓のために
せいぜい 余生と蓄えた財を費やしなされ
もとめて尽きぬ心の貧しさに
死ぬまで追われて行きなされ

わしゃ 貧しい御仁は嫌いじゃ
老い先短い刻の間を
独りでゆたかに過ごしたい

ひと様の自まん話は 聞きとうない
ひと様の手がら話は 聞きとうない
ひと様のありがたい話は 聞きとうない
ひと様の悩みや心ぱい事は 聞きとうない

わしゃ 貧乏人じゃが
ひと様に 哀れがられる覚えはない

わしゃ もうすぐ死ぬ身じゃ
誰に 覚えておいてくれとも思わぬ身じゃ

 


僕たちの青春は Beatlesと共に始まった

2024年07月23日 | 日記

僕たちの青春は Beatlesと共に始まった


それぞれの人に それぞれの青春がある
それぞれの時代に それぞれの時代の青春がある

僕たちの青春は Beatlesと共に始まった
そして僕たちの青春は Beatlesと共に終わった

僕たちの出合いは Beatlesと共に始まり
そしてその出合いは Beatlesと共に終わった

僕たちは Beatlesだけではないさまざまな音楽を浴びながら
時代の光と影の中に 青春という季節を生きていた
そしてその光と影の中で 青春という季節は過ぎていった

Beatlesが流れていた時代に 青春という季節を過ごせたことは
奇跡のような幸いだった
Beatlesが流れていた時代に 青春という季節を過ごせたことは
歴史の中で 特別のことだった

戦争の時代に 青春という季節を生きた人がいる
戦争に時代に 青春という季節の中で死んでいった人がいる

不況の時代に 青春という季節を生きた人がいる
不況の時代に 青春という季節の中で死んでいった人がいる

今という時代を どう呼べばいいのか 自分には分からない
しかし僕たちが青春を生きた時代より 
幸せではないだろうことに違いはない

今の時代にBeatlesはいない
Beatlesのいない今という時代に 青春という季節を生きる若者たちを
自分は 気の毒に思う

Beatlesが流れていた時代に 青春という季節を過ごせた自分は
奇跡のような幸いだった
Beatlesが流れていた時代に 青春という季節を過ごせた自分は
歴史の中の 特別な光と影の刻に 生きていた