A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

バラードプレーの極めはWith Stringsで・・・

2014-12-31 | PEPPER ADAMS

Gary Smulyan with Strings


先日紹介した長部正太のアルバムでもう一つ紹介し忘れたことがある。
印象的な火消し法被姿の錦絵をデザインしたジャケットだ。タイトルのHappy Coatと絡めたのも洒落っ気があるが、そのデザインの秀逸さが光る。怪しげな日本風のデザインというのは沢山あるが、本物らしさを感じさせるのは数少ない。というのも、このジャケットデザインは火消し錦絵を書く岡田親氏の作品。このデザインの良さもアルバムの価値を高めている。いい演奏には、良いジャケットデザインが似合う。ジャズのアルバムの鉄則だ。

この岡田氏の展覧会も時々行われているようだが、気に掛けていないと見逃してしまう。

このような伝統に根差した職人技というものは、何の世界でも是非根絶やしにせず伝承していきたいものだ。そして、伝統を引き継いだ弟子が親方を超えた時に新たな世界がまた広がる。

さて、ペッパーアダムスの後継者というとゲイリースマリヤン。直接手ほどきしたことは無かったようだが、アダムスの良い所を確実に引き継いで多方面で活躍してきた。そのスマリヤンももうすぐ還暦を迎える。次の後継者が気になる年回りになった。

スマリヤンは、サドメルの後継オーケストラであるメルルイスオーケストラ,そしてVJOでアダムスの後釜として長年その任を果たし、さらにミンガスビッグバンドにも加わり、着実にアダムスの軌跡を辿ってきた。そして、アダムスのなし得なかった事をクリアすることで、師を超えることになるにだが・・・。

アダムスの、アルバムを聴き返してみると、アップテンポの切れ味の良いバリトンがどうしても印象に残るが、実はアダムスのバラードプレーというのも捨てたものではない。Museに残した2枚のアルバムでも、ソフィスティケイテッドレディーやチェルシーブリッジのバラードプレーは秀逸だ。

アダムスは、デトロイトからニューヨークに来てすぐにスタンケントンオーケストラに加わった。この駆け出しの頃、ケントンオーケストラですぐに「マイファニーヴァレンタイン」でアダムスのソロがフィーチャーされていた。この時のスコアはケントンがパーカーのバックを務めた時のビルホルマンのアレンジを使用したそうだ。
この時(26歳)すでに、アダムスはバラードプレーでも実に枯れた味わい深いプレーをしていた。
ライブでの録音が残されているが、ケントンに紹介されプレーを始めるが実に堂々としたプレーだ。此の頃からマリガンには負けていなかったと思う。



そして、アダムスのバラード物のアルバムはというと、これは残念ながら作られることは無かった。一方で、ライバルのマリガンはナイトライツというアルバムを残している。今でも人気のあるアルバムだ。

バラードというとウィズストリングス物だが、ジャズの世界ではパーカーのwith stringsが何といっても有名である
60年代になると、メジャーレーベルでは有名プレーヤーによるこの手のアルバムは結構数多く作られた。しかし、お金のかかるこのようなアルバムはアダムスには尚更無縁だった。

しかし、スマリヤンは、彼のバリトンを大フィーチャーしたWith Sringsアルバムを作ることができた。バリトンのストリングス物はハーリーカーネイのアルバムがあるようだ。しかし、それ以降は作られたことは無いという。スマリヤンは先輩達がなし得なかった、このバリトンの音の美しさを伝えるアルバムを作りたかったそうだ。念願かなってこのアルバムができたが、弟子が、師匠の壁を乗り越えて夢を実現したという事になる。

ストリングスを含むアレンジを担当したのは、ボブベルデン。スマリヤンがウディーハーマンの所に居た時に一緒にプレーをしたメンバーでテナーとアレンジを担当していた。その後は、めきめきとアレンジで頭角を現し、ジョーヘンダーソンやマッコイタイナーのビッグバンドでもアレンジを担当していた。

オーケストラをバックにすると、そうしてもプレーもバックに負けないようにソロにも力が入ってくる。曲によってはオーケストラが張り切りすぎるとマイナスになることもある。特にバラード物では。ウェスモンゴメリーのアルバムなどでは、カルテットの演奏を引き立たせるために、後でオーケストラのバックをオーバーダビングする手法もとられた。

特にストリングス物は、ソロを引き立たせる役に徹した方が、いい結果がでる。という点では、このベルデンのアレンジは、時に存在感を感じさせなくなるようなこともあり、なかなか勘所をついていい感じだ。このストリングスをバックにアダムスのバラードアルバムがあったらと思うのは、自分だけか?

1. The Bad and the Beautiful      David Raksin 2:49
2. Lush Life             Billy Strayhorn 3:43
3. Thanks for You   B. Hanighen / Marvin Wright 4:20
4. It Happens Quietly     Kaye / Dankwarth 6:25
5. Don't Follow the Crowd          B.Lee 5:25
6. (We've Got A) Sure Thing J. Burke / J. Van Heusen 6:02
7. Beware My Hear            Sam Coslow 4:58
8. The Moment of Truth     T.Satterwhite / Frank Scott 6:12
9. Yesterday's Gardenias N. Cogane / S. Mysels / D. Robertson 6:36
10. Two for the Seesa           André Previn 5:56

Gary Smulyan (bs)
Mike Kedonne (p)
Peter Washington (b)
Kenny Washington (ds)
Mark Feldman, Laura Seaton, Jon Kass, Regna Carter, Genovia Cummins (violin)
Ron Lawrence (viola)
Erik Friedlander, Tomas Ulrich, Clay Ruede (cello)

Arranged & Conducted by Bob Belden
Produced by Gerry Teekens
Engineer : Max Bolleman

Recorded at RPM Studio, New York on December 23, 1996


GARY SMULYAN WITH STRINGS
Gary Smulyan
CRISS CROSS
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ペッパーアダムスを相手に単なるガーシュインソングブックにならないところがヘレンメリルの凄い所・・・

2014-12-31 | PEPPER ADAMS


Chasin’ The Bird sings Gershwin / Helen Merrill

日本で一番人気があるジャズボーカリストは?というと、ひょっとするとヘレンメリルかもしれない。いわゆる本格派御三家(エラ、サラ、マクレー)と比較すると、あのハスキーでたよりない歌い方だが、それがかえって良いのかもしれない。
彼女は有名なクリフォードプラウンとのアルバムがそうであるように、有名ジャズプレーヤーとの共演アルバムも多い。いずれも、彼女の歌のバックを務めているというよりも、歌と一緒にプレーをしているといった感じだ。彼女の歌が楽器的なのかも。

今年も来日して、トランペットプレーヤーを日替わりで替えるという面白い企画のライブ予定があったが、残念ながら病気でキャンセルとなってしまった。ベニーゴルソン同様、クリフォードブラウンとの共演を私事として語れるミュジシャンも数少なくなったが、彼女もその一人だ。1930年生まれ(ペッパーアダムスと同い年であった)なので、今年で84歳。まだまだ、元気に活躍してもらいたいものだ。

彼女は、1960年代に結婚して日本に長く住んでいた時期がある。それもあって大の日本贔屓である。その後、ニューヨークで復帰をしたが、日本のトリオレーベルがアルバム制作を行っていた。その頃、60年代から70年代にかけての彼女のアルバムは、ピアニストのディックカッツと組んだものが多い。単なるボーカルアルバムというより、彼女も演奏者の一人としてのジャズアルバムを作るのには、このカッツが良き相談者であったのだろう。
このアルバムもその中の一枚となる。

このアルバムのテーマは、「メリルsingsガーシュイン」であるが、単なるガーシュインソングブックとはなっていない点がこのアルバムを特徴だ。それは、このアルバムタイトルの’Chasin’ The Bird”の意味するところでもある。

パーカーやガレスピーなどがビバップの全盛期にバップの名曲を多く生み出したが、それらはスタンダード曲といわれるミュージカルなどのヒット曲のコード進行に新たな曲を作ったものが多い。

このアルバムでは、メリルが歌うガーシュインの原曲に、バックがそれを元曲にしたジャズの有名曲をバックで演奏するというチャレンジをしている。この大役を務めたのがペッパーアダムスであった。パーカーの好んだ曲というとアルトサックスが良さそうだが、ハスキーなメリルの歌にはアダムスのバリトンの低音が良く似合う。それに、加えてバップスタイルでゴリゴリ吹くとなるというとアダムスはこの企画には適任あった。この試みの2曲以外でもアダムスの出番は多く、ソロで他の曲のメロディーを引用することも多い。

このアルバムの制作にあたっては録音の前に、録音当日以外にもリハーサルが一か月前から何日も行われてた。かなり曲の構成にも配慮すべき点が多かったということだろう。
肝心のアダムスは、実は1月の始めからにヨーロッパに出掛けていた。2月6日この録音の為にニューヨークに戻り、3月9日の最後の録音が終わると、またヨーロッパに旅立った。

実は、このアルバムが先日紹介したアダムスのアルバム”Reflectory”がグラミー賞にノミネートされた翌年ノミネートされたヘレンメリルのアルバムだった。
アダムスのこのアルバムへの関わり方も、単なるバックのバンドに加わったというのではなく、完全にメリルの共演者であった。アダムスはこのアルバムがノミネートされた時、メリルのボーカルと共に自分のプレーも選ばれた二重の喜びを感じていただろう。

残念ながらこのアルバムも、最終選考ではエラのアルバムに敗れ、アダムスのプレーも Bill Evans - I Will Say Goodbyeに敗れたが、メリルのファンが多い日本であったら、多分このアルバムが選ばれていただろう。メリルの特徴が生かされ、バックとのコラボレーションも上手く計算され、それが上手く噛み合ったジャズボーカルアルバムだと思う。



1. It Ain’t Necessarily So
2. Embraceable You (Cuasimodo)
3. I Can’t Be Bothered Now
4. Summertime
5. I Got Rhythm (Casin’ The Bird)
6. I Love You, Porgy
7. My One And Only Love
8. Someone To Watch Over Me

Helen Merrill (vol)
Pepper Adams (bs)
Dick Katz (p)
Joe Puma (g)
Rufus Reid (b)
Mel Lewis (ds)

Produced by Spicewood Enterprises
Musical Direction by Helen Merrill & Dick Katz
Recording Engineer : Paul Goodman
Recorded at RCA Studio, NYC, March 6 & 9 1979

チェイジン・ザ・バード(HQCD)
Helen Merrill
SOLID
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