風の吹くまま

18年ぶりに再開しました。再投稿もありますが、ご訪問ありがとうございます。 

★少女と母

2024-08-20 | 忘れえぬ人々
毎朝、自宅を出て東急田園都市線T駅に向かう途中、多くの小学生達とすれ違う。

彼らは、僕と逆方向に向かい、約5-10人のグループを組み地元の小学校に通う児童達である。彼らの背丈は、丁度麦くらいでの高さで、列を成した彼らとすれ違うたびに、なにやら麦畑でも歩いているような錯覚になる。

どれもがだいたいは、5-6年生と思われる子供と、1-2年生と見られる幾人かの低学年のグループで構成されており、高学年と思われる児童は、真っ直ぐ小学校向い歩きながらも、時折低学年の子供達が気になるのか、時折振り返っては年下の子供を気にかけながら歩いているが何とも微笑ましい。

そして、そんな子供達とすれ違ったあと、ほぼ必ずあう一人の少女がいる。

彼女は、他の子供達のようにグループで登校せず、母親とみられる女性といつも一緒に歩いているのである。なぜならば、彼女の両足には、ギブスがはめられ、両足共に曲った彼女の足を支えている。一歩歩くたびに彼女の両膝は大きく左右に揺れ、その度に彼女の体全体が大きく不安定に揺れている。

彼女の歩くスピードは、非常に遅く、通常の子供であれば数秒で歩く距離を、彼女の場合数分は掛かっているのではないかと思われる。僕の見る少女の目はいつも真剣で、彼女の額にはいつもうっすらと汗が浮んでいる。

母親と思われる女性は、少女の腕に軽く手を添えながらも少女と同じ歩調で歩き、決して少女の歩行を手助けをしない。少女がどこから通っているのかはわからないが、僕のすれ違う場所に辿り着くだけでも相当の時間を費やしているのだろうと思う。

僕は、この二人が会話を交わしているのを見たことがない。母親と思われる女性は、ただ黙って少女の歩くスピードに合わせて歩いているだけである。少女とすれ違い、暫くして振り替えってみても、彼女は先ほどすれ違った場所とほとんど同じ場所を歩いている。

あなたにとっての通学生活は、随分と過酷なものなんだろうと思う。毎朝他の子供たちより早く家をでて、それでも途中でどんどん抜かれながら学校への道を歩く。しかし、僕には一歩一歩ゆっくり足を進めるあなたが、他の子供たちよりもずっと早く大人への道を駆け上がっているように見えるのです。そして、その6年間の学校生活の中で、学校での授業以上に登校下校の道が与えるものが、いずれあなたにとって大きなものとなるように思えるのです。歩き続けたという自信と、寡黙に支え続けるあなたとあなたの母親との絆・・・。

そんなことを考えながら、僕はまた寝坊してしまったため、早足でT駅に向かうのである。

「人に魚を与えると一日食べることができる。人に魚を釣ることを教えれば一生生きてゆくことができる」
中国故事

2005年に書いたものです

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