インターネットは、現代ポピュリズムのツールであり、検閲の厳しい国々を除く各国ですでに力強い勢力を動員してきた(アラブの春、ウクライナのオレンジ革命、ブレグジットなど)。
正式な選挙が行われるのは、たいてい数年置きであるが、インターネットなら数秒で影響を及ぼすことができ、コストはごく僅かで済む。
アメリカのツイッター好きの前大統領が執務室に座っていられたのは、
政策に関する詳細な声明文よりも140文字の方が、集団の気持ちを操る上で、ずっと重要だということをわかっているからに他ならない。
進歩的ポピュリズムは、まだまだ、発展途上かもしれないが、インターネット上に独自の効果的な武器を持っている。
しかし、これまでのところ、SNSにおける戦いでは、ティー・パーティーに負けている。
インターネット上で最古かつ最大のポヒュリスト団体であるMoveOn.orgは、1998年にシリコンバレーの2人の技術者が、ふとしたきっかけから、立ち上げた組織であり、予算もないところから活動を開始した。
彼らは議会に対し、
「クリントン大統領を非難せよ。政治を前に進めよう」
と求めた嘆願を議会に対して投稿した。
これが、インターネット上で拡散されると、彼らはこうした取り組みに手応えを感じた。
2人が最初の署名者リストとテクノロジーを活用して立ち上げた組織は、すぐさま多様な活動を繰り広げ、うまく組織化されたオンライン上の強大な勢力となった。
民主党がブッシュに反対する責任から逃れると、MoveOnがおのずとイラク戦争反対の旗振り役を担うことになった。
MoveOnは、オバマ大統領選出および再選の鍵となった存在だとも言える。
過去20年間、MoveOnによるテクノロジーを活用した選挙運動やリサーチ能力は多いに進んでいて、常に草の根に寄り添い、うまく振る舞っているが、ティー・パーティーにとって重要な対抗勢力となるほど十分な成果は上がっていない。
その1番の理由は、MoveOnの草の根に支援が、都会に住む知的エリート層に限定されすぎていることである。
99%の人々が、1%の人々に対して成功をおさめるためには、99%が結束する必要があるのだが、MoveOnは、これまでのところ、その結束に繋がることをあまり成し遂げているとは言えないであろう。
ところで、
バラク・オバマはインターネットを活用したアメリカ初の大統領と言って過言ではないであろう。
ロースクールを卒業したバラク・オバマの初仕事は、
シカゴでのコミュニティ・オーガナイザーだった。
彼が大統領に選ばれたのは、ポヒュリストが集まるインターネット上のコミュニティ=MoveOn.orgの尽力によるところもあった。
彼が大統領退任後、以前よりはるかに大きな規模でコミュニティ・オーガナイザーとして活動しているのは当然かもしれない。
しかし、オバマにとっても、アメリカにとっても、それを取り巻く世界にとっても不幸なことは、彼が、大統領に就任したあと、コミュニティ・オーガナイザーであることも、ポピュリストの指導者であることもやめてしまったことである。
オバマは政界の泥沼にはまり込んでしまった。
いまだに理由はよく解らないのであるが、オバマは、フランクリン・デラノ・ルーズベルトを明らかに意識しているにもかかわらず、政治家と戦うことよりも、国民を引きつける方が大事であるということを理解していないようであった。
確かにオバマは雄弁な演説家だったかもしれない。
しかし、ルーズベルトは、自分のラジオ番組「炉辺談話」でアメリカ国民と直に繋がるような強い絆を作り上げたが、オバマはそうしたことを1度もしなかったのである。
哀しいことに、真実を主張する人は、自動的にその真実が受け入れられるという、暢気で誤った考えを持ってしまう、
しかし、さらに哀しいことに、他方で意識して誰かに嘘を吹き込んでいる人は、完璧に信じ込ませようとさらに努力を重ねるのである。
オバマは政治家との終わりのない戦いに、身動きが取れなくなり、自分がその泥沼から抜けだすことにも、それに巻き込まれた国民を救うことにもあまり成功したとは言えないように感じる。
もし、ルーズベルトの「炉辺談話」のように、国民を引きつける方にオバマのカリスマ性が発揮されていたら、
アメリカ国民が抱える問題に対して、もっと組織的で公共心に富む取り組みが導かれていたのかもしれない。
そして、歴史に「もし」も「だって」ないのであろうが、今のアメリカが抱える問題と、それを取り巻く世界の問題も変わっていたかもしれない、と考えると、残念な気持ちにもなるのである。
不思議な偶然だが、(前回取り上げた)ソウル・アリンスキーが多くの活動を行ったシカゴの地域は、ミシェル・オバマが育ち、のちにバラク・オバマが初めて仕事をした場所だった。
さらに偶然なのは、ヒラリー・クリントンがかつてアリンスキーから仕事を依頼されたことがあり、アリンスキーの功績について大学の卒業論文を書いていたことである。
対決姿勢を指南するアリンスキーの著書から、もし、オバマがもっと教訓を得ていたならば、彼はもっとうまく行動したかもしれない。
しかし、気質の点から、オバマは(前々回取り上げた)マーティン・ルーサー・キングに近く、自分とは絶対に妥協しないとあからさまに表明した者たちにも歩み寄りたいと願っているように見える。
意外な、とき、ところ、人の組み合わせがあるから、化学反応のような出来事があるのかもしれないと思うとともに、またその逆もまた然り、かもしれない、と、私は、思うのである。
ここまで、読んで下さり、ありがとうございます。
明日から、また、数日間不定期更新になりますが、よろしくお願いいたします。
菜種梅雨というのでしょうか、東京では、雨が続くようです^_^;
体調管理に気をつけたいですね。
今日も、頑張りすぎず、頑張りたいですね。
では、また、次回。