社会が過剰な診断を認め、構成員のかなりの割合を「病気」として扱ったら、その社会は強靱な回復力のある社会ではなくなり、人為的に病んだ社会になるのではないだろうか。
診断インフレが直接、間接にもたらす金銭的損失の合計は誰も計算していないが、膨大な資源が無駄になっていることは、間違いがないであろう。
まず、不必要なのにもかかわらず高価すぎる薬たちと、それらを処方するために必要な診察に伴う損失がある。
これに加え、薬の過剰な使用がもたらす数多くの合併症も高くつくので、それが二次的な損失となる。
短期的には、過量服薬による高額な救急医療や入院などが挙げられ、長期的には、服薬によって引き起こされた内科や精神科の合併症(→二次性肥満、糖尿病、心臓病がその最たる例である)を治療するという、隠れた、莫大な損失がある。
さらには、不必要な薬の有害な短期的、長期的影響によって早死にしてしまったひとたちの失われた人生は、どれほどの損失になるのだろうか......。
次に、労働生産性の低下による損失も計算に入れなければならない。
精神科の診断と就業不能が結びつくと、そのどちらもが、不自然なまでに増加するのである。
確かに、間違ったレッテルを貼られた人生は、仕事を休むか、働くことを完全にやめてしまいがちである。
オランダとデンマークのデータでは、精神科の診断や仕事のストレスが働かない理由として簡単に認められるようになると、病気で欠勤する人や就業不能になる人が急増してしまったのである。
また、さらに、「間違って」精神疾患のレッテルを貼られた人たちに対する他のサービスも損失になる。
精神保健対策と診察、学校での支援や教育プログラムの追加などである。
間違った診断にしても、これらを出し惜しみするのは残酷に思えるし、個々の例でも、「面倒見のよい」臨床医は患者が恩恵を得やすいようにと積極的に診断する誘惑に駆られるのかもしれない。
しかし、予算は、 ゼロサムゲームであることが普通である。
だから、助けをさほど必要としていない人を助ければ、なんとしても必要としている他の人に助けが及ばないことになってしまうのである。
最後に、診断のインフレによる法廷や矯正に関連した損失が挙げられる。
アメリカでは、死刑の審理の度に、ありそうもない精神障害の有無をめぐって不毛な論争が延々と続き、500万ドルが費やされている。
また、性的暴力犯に関する法律に基づいて、適切な理由もないのに、犯人を精神科病院に収容したときの年間費用は、ハーバード大学の1年の学費をゆうに上回る。
精神的ダメージを根拠し、あの手この手で主張する民事訴訟はいつ終わるとも知れないほど長引き、莫大な弁護料と専門家証人への相談料が消尽される。
(後の回でまた少し触れるが、)精神医学と法律は得てして馬が合わない。
しかし、精神医学と法律が絡み合うときはいつでも大きな損失がもたらされるのである。
診断インフレによる巨額の浪費が野放しになっているのは、これを抑えるフィードバック制御のシステムや、慎重な診断を促す経済的インセンティブがないからである。
DSMの作成者も利用者も、それでたくさん稼いでいる製薬企業も、浪費のことはまったく考慮はしていない。
いつだって誰かがツケを払ってくれるので、理に適った公正な資源の分配には誰も気に留めていないように見える。
その最終結果は決まり切っている。
診断のインフレの生み出す無用の要求が、無駄な出費をもたらし、それが原因で、本当に困っている人々が十分なサービスを受けられずにいるのである。
診断インフレは公衆衛生と公共政策の難題である。
速やかな解決が必要なことは、言うまでもないであろう。
アメリカでは、医療費負担適正化法により、保険が拡大適用され、損失がさらに増えているようである。
この法律が、精神障害の包括的ケアに保険を適用するように定めているとなるとなればなおさらであろう。
これは歓迎すべき政策変更かもしれない。
ごまかしに満ちていても、精神保健のシステムを補強するために、大きな投資が必要であることは確かなのである。
しかしながら、どれだけの追加費用がかかるのかは、見当も付かないし、たぶん毎年巨額の金が必要となるでだろうが、診断インフレのせいで、その巨額の金も極めて効果の薄い使われ方をするであろう。
診断インフレを解消するというのは苦しい戦いになるであろう。
しかし、まず、私たちが理解しなければならないのは、過去の精神医学で診断の流行が演じてきた大きな役割であり、現在それが与えている深刻な損害であり、近い将来に新しい流行が破壊的行為をもたらしうるという重大なリスクではないだろうか。
ここまで、読んで下さり、ありがとうございます。
ニュースでは、都知事選の公約が発表されていることが取り上げられています。
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今日からまた日記を再開いたします、よろしくお願いいたします( ^_^)
今日も、頑張りすぎず、頑張りたいですね。
では、また、次回。
*見出し画像は途中から壁画の植物です(*^^*)