冬桃ブログ

飛べなくたって生きられる

 片翼しか開けない蝶が羽化したのは、6月23日のことだった。
 もうちょっと前のブログにそのことを書いた。
 飛べなくても、蝶は高いところを目指す。
 うちの中に入れると、カーテンをせっせとよじ登る。
 上まで行くと、空へ到達した、と思うのか、
安心したようにじっとしている。
 でも、よく落ちるのだ。
 人間と違ってふわりと落下するから、怪我はない。
 あちこち折りたたまれたままの翅をばたばたさせ、
またカーテンをよじのぼる。
 
 

 片翼だけ開いて、バットマンかドラキュラみたいなみたいなポーズ。


 しかしこのままでは干からびる。
 どうにかして水分を……と思案していて、ふと
Facebookの仲間の一人が「霧吹きで水をかければ?」
とコメントしてくれていたのを思い出した。
 いや、そんな乱暴なことを……と首をかしげながらも
他に方法がないのでやってみた。
 「なにすんだよ!」というように、蝶は翅をばたつかせたが
それがマイナスに作用することはなく、むしろ元気になった。
 だよねえ、外にいれば雨も降るし、夜露がかかることもあるもんねえ。

 次にまた考えた。 
 体の表面を潤すだけではなく
なんとかして飲ませることはできないだろうか。
 蝶はけっこう水を飲む。必要なのだ。

 ずっと前、「きらきらと闇に墜ちて」という小説のために、
マレーシアのキャメロンハイランドへ取材旅行した。
 そこはタイのシルク王だったジム・トンプソンが
謎の失踪を遂げた場所だ。
 松本清張さんが「熱い絹」という作品で書いておられる。
 私の小説はそれと何の関係もないのだが、じつはここ、
蝶コレクターにとってのメッカでもある。
 案内人が連れて行ってくれた渓流では、水辺に
南国のカラフルな蝶がおびただしく群れているのを見た。
 蝶たちは吸水しているのだ。
 同行の昆虫カメラマン海野和男さんが、腹ばいになって
シャッターを切っていたのを思い出す。

 が、わがやの蝶に水を飲ませるためには、蝶みずから
普段は小さくまるめている口吻を伸ばし、水に差し込んで
くれなければどうにもならない。
 あまりにも細くて繊細なその口吻を、人の手で伸ばすことはできない。

 とにかくやってみようと、メープルシロップを水に溶き、
小さな器に入れて、そこに蝶をそっと置いてみた。
 でもこれは大失敗。口吻だけを器に差し込んでくれたらいいのだが
体ごと飛び込むから、翅もシロップ液まみれ。

 で、シロップをティッシュに含ませ、そこに蝶を置いてみた。
 これも失敗。こんなもんから吸い出すことはできないよ!
とばかりに口吻を伸ばさない。


 私の方が水分補給を必要とするほど大汗かいた後、
やっと思いついた。
 床に直接、垂らしてみよう、と。
 シロップ液でなくてもいい。
 とにかく水を飲んでほしいのだ。

 大成功!
 口吻を伸ばしている! その口吻が「水を探り当てたぞ!」と
ばかりに、ぴくぴく動いている!


 それからは2日に一度、床垂らし水を蝶は飲んでくれている。
 揚羽蝶が羽化してからの寿命は約二週間。
 この子はもう11日間生きている。
 おとといから、亡き祖母のご神体(と私が勝手に決めた)を収めた
小さな指ぬきが気に入り、そこを離れない。
 「元気?」と話しかけると、私の息を感じるのか、
ぱたぱた、と翅を振り、「だけどここがいいんだからね!」
というように「ご神体」にしがみつく。
 


 祖母がこの蝶を抱き取ってくれているのかもしれない。
 人生には時々、不思議なことが起きるのだ。

 

 

 

コメント一覧

yokohamaneko
酔華さん

 ほんとに今年は、うちの山椒にもアゲハが
卵を産みません。蜂蜜もあまりとれないようです。
 これも酷暑のせいでしょうか。
 この子は飛べないけど、他所からうちへ
養子に来た子。
 大切に命を見届けたいです。
 カナダ産はメープルシロップもおいしいですよ♪
酔華
なんだか夏休みの観察日記みたい♪
今年の我が家のプランターには蝶も蜂も来ません。
それと関係ないですが、カルディでカナダ産の蜂蜜を買ってきました。
美味しいです。
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