「奇跡の歌姫 渡辺はま子」という演劇が上演された。
主催は、女優の五大路子さん率いる横浜夢座。
渡辺はま子さんは横浜の人で、戦前、戦中、戦後を通じて
トップ歌手であり、歌謡史に残るヒット作を多く残した大歌手。
気骨の人、信念の人、勇気の人でもあった。
戦中は政府や軍から請われ、何度も戦地へ慰問に訪れた。
終戦時にはその慰問で中国にいたため、あわや日本には
戻れないかも、という危機もあった。
終戦から数年経ったある時、フィリピンはモンテンルパの
刑務所に、日本人兵士がBC級戦犯として数多く収監され、
次々と死刑が行われていることを、彼女は知る。
A級戦犯は軍や政府のトップクラス。戦争を指揮した者。
これは名前がはっきりしている。
BG級戦犯はその下にいて、戦地で暴行をはたらいたり、
捕虜を虐待したりした兵士たち。戦勝国を中心に各地で
おびただしい数の容疑者が逮捕され、その裁判が行われた。
横浜地裁でも行われたが、もちろんアメリカが全面的に
主導権を握った上での判決だった。
冤罪の者、上官の命令に従うしかなかった者もいたはずだ。
その人たちにも、証拠などないまま無期懲役や死刑の
判決が下されていたという。
この事実を知ったはま子さんは深い罪悪感に襲われる。
戦地で戦った兵士たちを戦犯と呼ぶのなら、軍歌を歌ったり、
何度となく戦地へ赴き、兵士たちの戦意高揚を促した自分も
「戦犯」ではないか。
兵士たちも自分も、それがお国のためだと信じて疑わなかったのだ。
(当時は有名作家、有名芸能人、上流階級の夫人などが
国威発揚の役目を担ったが、はま子さんのような悔恨と反省に
かられた人が何人いただろうか)
はま子さんとモンテンルパの囚人たちの文通が始まった。
そしてクリスマス、国交もなく、反日感情の嵐が吹き荒れて
いたフィリピンへ、彼女は周囲の大反対を押し切って単独行を
決行する。囚人達を励まし、なんとか救うために。
もちろん「売名行為」「歌手風情が!」とののしる声、
嫌がらせにもさらされた。
だがその一途な行動が、後に起きた「108名の
日本人戦犯全員釈放、帰国」という「奇跡」の、
重要な一端となったのである。
五大さんからの依頼を受け、私はこの実話をもとに
「奇跡の歌姫 渡辺はま子」の舞台脚本を書いた。
ありがたいことにたいへん好評で、何度か再演された。
ショートバージョンも上演された。
が、五大さんはそれで満足しなかった。
なんと、この劇のリーディングバージョンをも
作ってしまった(元の脚本を上手に切り取り、せりふを
一切変えずに脚色してくださったのは、あべゆかりさん)。
リーディングは「読み芝居」ともいうが、
五大さんを含めた3人の役者さん達が舞台に立ち、
台本を持って読みながら物語を進める。
一人で読む「朗読」とも異なり、「聴く」と同時に
「観る」感覚になる。
音楽はひとりのバイオリン奏者のみ。
五大さんが渡辺はま子を演じ、歌も数曲披露する。
二人の役者さんはそれぞれ何役も掛け持ち。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/65/f3/8a085a2cc2675cbbe5a7cc8daf334c83.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/8a/e9425ec25199ba4f8ce787ba77369f2d.jpg)
私はその舞台の後に五大さんとこの作品についてトーク。
物語の時代背景や、次回、このブログに書かせていただく予定の、
思いがけないS村暮らしとのご縁などを語らせていただいた。
終演後、役者さんやスタッフ、ボランティアの
皆さんと記念写真。
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にぎわうロビーで思いがけなくこの方と遭遇!
鎌倉にある英国アンティーク博物館の館長、土橋正臣さん。
なんと観客のお一人だったのだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/67/af3c079b723a381f3467b4bf4449b06a.jpg)
この素晴らしい博物館にあるのは、ビクトリア朝時代を
中心に、すべて本物のアンティーク。すべて土橋さんが
収集されたもの。
白眉はシャーロック・ホームズの部屋。
なんとも見事な再現!
で、この館のどこかに、私が江戸川乱歩賞受賞時にいただいた
シャーロック・ホームズ像が置かれている。
大英帝国のアンティーク世界にどっぷりと浸りながら、
見つけていただけると嬉しいです。
英国アンティーク博物館
https://www.bam-kamakura.com/
とんぼ帰りであわただしい横浜行だったが、
リーディングを堪能させていただき、友人知人とも
この機会を通じて会えた。
五大さん、皆様、ありがとうございました。