冬桃ブログ

雨の中のひなげし

 
 雨が降ってて寒かったけれど、「ポーラのクリニック」へ。
 待合室にいる私を山中先生が見つけ「おお、ちっとも来ないから
孤独死してるんじゃないかと思ってたんだよ!」と声をかけてくれた。
 診察室へとって返し、「この本、読んで待ってて」

 杉原美津子著 「ふたたび、生きて、愛して、考えたこと」

 著者は新宿西口バス放火事件の被害者である。加害者との交流を描いた
著書を、昔、読んだことがある。
 全身の80パーセントという火傷からの生還、夫の介護、自身の癌と、
じつに凄絶な人生だ。帰ったらネットで注文して買おうと決め、読んでいると、
20分ほどで私の番がきた。

 相変わらずの、情けない「心の問題」を手早く訴える。
 じっくり聞いてもらいたいのだが、患者さんがほかにも大勢待っている。
 
 昨日、ある人と会って話した。それはとても楽しかったのだが、その人が
私を励ます意味で言った言葉に、傷ついてしまった。
 鬱状態で自分のこの世における居場所を見失っている人間には、
「頑張って」とか「そんなことはないでしょ、あなたみたいな人が」
というたぐいの言葉がぐさりとくる。
 駄目な自分、弱い自分をそのまま受け入れて欲しいのに、拒否された
ように感じるのだ。
 
 主治医が心の問題まで受け止めてくれるというのは、ほんとうに
ありがたい。ことに山中先生とは、出会った当初は医師と患者ではなかった。
 お互いの私的な事情を知っているので、形式張った診察にはならない。

 「よし、近々、飯を一緒に食おうよ。それでじっくり話そう」

 そう言ってもらい、その言葉だけでなんだか安心してクリニックを出た。

 帰り道、昔、遊郭のあった真金町を通った。鳳神社に向かって通りを
貫いている並木の縁に、オレンジ色の「ひなげし」がたくさん咲いていた。
 細い茎の上に、はかなげな花がちょっと首をかしげて揺れている。
 その風情が、ここに昔、あまたいたお女郎さん達と重なった。
 
 
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