あるネットニュース界隈を覗いていると、定期的に話題になってしまう大物漫画家さんがいます。あえて名前を挙げませんが、バトル漫画で国民的人気を博し、しかも、同年代のこれまた世界的ヒットアニメの原作手掛けた少女漫画家さんとご夫婦なので、なにかと私生活まで騒がれてしまう方です。ここまで書くと誰だかバレバレですが、仮にT先生としておきます。
このT先生が20年来連載を続ける人気バトル漫画の最新回が、2018年秋ごろ、またしても、物議をかもしたようです。理由はコマのほとんどを字で埋めたため。これまで鉛筆の下書き絵のまま雑誌掲載され、コミックスでペン入れされているなどの苦肉の策はあったようですが。とうとう、漫画すら描かなくなったのでは、と言われている。これに対し、T先生はネームが素晴らしいので、ないしは、これも新しい表現であるなどの好意的な見方もあるようです。ちなみに、このT先生のアニメは観たことありますが、原作漫画はあまり読んだことはありません。奥様のT先生のほうは、代表作のコミックス持っていますけどね。個人的には、嫌いな絵柄ではないですね、すくなくとも某海賊漫画よりは(笑)。かなり白いですが(爆)。
休載続きで体調不良でもあるため、漫画家生命まで心配されてしまうT先生ですが。
往年の名物漫画家がいまだに連載をもっていることに価値がある雑誌もあるわけですから、お節介というものでしょう。そういえば、子どもの頃、『なかよし』誌に赤塚不二夫の『ひみつのアッコちゃん』が掲載されて、なんでこんな可愛くない(酷)絵柄が載るんだと思っていたものですが、いまなら、その理由もわかるというものです。イチローが打席には出ないけれど、現場にいるようなものですね。
今や、全世界の子どもからお年寄りまで読んでいる漫画。
漫画の面白さは世間話のネタになりやすい。私の子どもの頃はネットがありませんでしたから、学校の友だちと共有する話題は、もっぱら漫画でした。で、若気の至りといいますか、いや、今でもそうだと思うのですが、子どもは楽しいもの、楽しくないものの線引きに容赦がありませんよね。当時のアニメ好き友だちと、ドラゴンボールやセーラームーンの作画崩れ回を、あの作画監督の時はだめだなどと名指しで批評していました。いまだったら、ツイッターで書き込んでしまうわけですから、制作者の皆さんも気が気でないでしょう。アニメファンの質なんて、昔から変わりっこないのです。
当時ライトノベルを原作にした漫画がありまして、「あの女性漫画家は絵しか描けない、話は自分でつくれない」とうっかりこぼしたら、きょうだいで取っ組み合いの喧嘩になったこともあります。私はその漫画版の絵も嫌いではなかったのですが、やはり、原作の小説のほうが好きでしたから。原作付き漫画でもヒットしたものもあるし、そもそも、幅広く人気を得る漫画は専門家の監修が入ったものもあり、編集の口添えがあり、アシスタントとの共同作業でもはや工房の仕事であるし、漫画をひとりで描いているわけではないのですが。子どもというのは、そういう大人の仕事の苦労を知りませんから、ひとりで何もかも完成させてしまう仕事がすごいのだと、ふしぎに思い込んでいたわけです。
そこで、今回は。
面白い漫画はどんなものか、を自分なりに考察してみることにしました。その論考は次回に譲るとして。
このT先生のみならず。
10年ぐらい前まで爆発的な人気作を手掛けていたけれど、もう新作を発表しなくなった、もしくは事実上断筆に近い状態の漫画家さん、多いのではないでしょうか。座りっぱなし作業での健康状態の悪化とか、家庭生活上のぬきさしならない事由ですとか、創作意欲の停滞とか、いろいろな事情はありますが。そもそも、毎週、毎月ごとの締切りをまもって漫画家業を20年、30年現役で居続けることがかなり努力を要することでもあると思います。
ベテランの漫画家さんの絵は、いまから眺めてみれば、どうしても古くさく野暮ったく見えてしまったりもしますが、漫画というものがもはや最新最先端技術の表現媒体でなく、すでにそれ自体の歴史の位相をもつものになってしまったことを考えると、時代がかってしまうことは宿命ではないでしょうか。
漫画の面白さはどこにある?(後)
数を読みこなせば、自分の好きと嫌いとが見えてくる。好みの絵柄で、人物の差異がはっきりしていて、画面の描き込みが濃密で、ストーリーにちょっとした謎かけがある。そんな作品が好きだったりもします。