学生時代、大学の教官に、映画は1000本以上観ないと面白さがわからないと言われたことがあります。正確に数えたわけではないのですが、ブログに掲載と未掲載分をふくめても1000作は超えているので、まがりなりにも基準は満たしています。面白さが分かったのかどうかは判じかねますが、数をこなすと、自分のなかで肌が合う作品、合わない作品が出てきます。
私は本をよく読みますが、どちらかというと事実を書いたもののほうが理解しやすいので、おそらくは映画ほど小説を読んではいないでしょう。漫画に至っては、さらに少ない。好きなアニメの原作と知った漫画家を除くと、純粋にそのひとの漫画に心酔して今も新刊を購入している漫画家は数えるほどしかいません。つまり、数うちゃあたるで読みこなしてはいないので、漫画の良し悪しを語るにも説得力にかけるきらいはありますね。
漫画の面白さについては、以下の視点があります。
・絵が好みである
美醜というものはひとの価値観によるものですから、一概に標準化できません。たとえば、多少なりともデッサンが狂っていても、癖が強くても、味わいのある絵はあります。逆にキレイ目に見えるのだけど、いつも同じような表情やポーズばかりのハンコ絵は飽きますよね。イラストでもそうですが、顔だけやたら気合入れているのに、手足がおざなりで、動きで語らせない、行儀のよすぎるというか大人しすぎる絵は退屈です。あと、絵がうまくても、そこらのアニメ絵に近い絵柄だとか、その作家性があまり感じられないものは好きではありません。あと、美男美女ばかりでも飽きますね。
・人物の年齢や性別、個性がはっきりしている
アニメでもそうなのですが、中学生と大人の区別がつかないものや、男女間の骨格の違いがわからないものとか、ありますよね。そういう作風だといえばそうなのですが。それと、老人や醜悪とされる敵キャラや怪物などもリアルに描いてあるほうが私は好きです。画力に幅があると感じますので。
・画面の密度が濃い
恋愛もので心情を細やかに描いたと女性に評判の漫画を読むと、たしかに人物ひとりひとりは魅力的なのだけど、薄味で物足りないことがあります。その多くは、背景が白いこと。効果線や擬音なども減らしているので、想像力を入りこませる余地はあるんですけど、すごく寂しいんですよね。昔の少女漫画なら花を背負ったりしているところなのですが。もちろん、水彩画みたいにわざと余白の美を活かした構図もないではありませんが。漫画って、別に人物を描いていないコマでも話になることはありますよね。作画が苦しいのか、見開きページで顔のアップもありますが、多用してほしくないです。
・健全なエロスは、多少はあったほうがいい
肉体関係があったほうがいいというのではなくてですね。医療漫画とかスポーツとかバトルとか、別に全脱ぎするわけではないけれど、美しさとしての色気がある絵ってありますよね。逆にいちいちヌードにしているけれど、うっとおしい裸というのもあります。制服ではなしに着物とか時代がかった洋服を名画のポージングみたく肌脱ぎしてるのはいいですが、JKの下着が覗いてるのはポルノなので嫌ですね。
・ストーリーに謎がある
これは小説でも同じだと思うのですが、読者の期待に応えつつ、いい意味で裏切るお話づくりがなかなか難しいわけですね。最初のほうに読者に疑問を抱かせてひきつけておく。たとえば『名探偵コナン』なんかは、いつ主人公が元に戻るかという楽しみがありますよね。
・あとがきが出しゃばっていない
あとがきでさかんに自己語りをする方。それがとても味わい深い場合もあるのですが、自分のデビュー前のこととか、担当編集やアシスタントとの内輪話とか、もはや作品の中身と無関係なのもあります。漫画家である自分にしか興味がなくて、自己ブランド化に熱心すぎる人ですね。
・漫画やアニメ以外にヲタクである
私が子どもの頃ハマった『美少女先生セーラームーン』の原作者は、天文学や鉱物に興味があるらしく、作品にも反映されています。キラキラした少女漫画なのに、やたらと陰鬱な廃墟の描写や敵の断末魔の腐敗のしかたがリアルなのも魅力でしたね。バトル漫画の瓦礫って描くのが大変なのです。漫画家になる前になんらかの専門を極めたり、興味があるものを突き詰めたことがあったりするひとの作品は、知識の裏付けや特異なこだわりがあって面白いですね。
・日常を超えたテーマがある
最近、仕事で疲れた大人向けの癒し日常系アニメが受けているようです。たしかに、しちめんどくさいSF設定がごちゃごちゃでてくるような話は脳のリソースを食うので疲れますよね。でも、ありきたりなサラリーマンやOLが出てきて恋愛したりするのは漫画では読みたくないです。学園の部活ものでも、身体性を伴うものならいいけど、文芸サークルの話だったら、別に小説でいいのでは、と思う。百合とかBLとか、あるいは年の差恋愛とかにそういう話が多いのですが、コミックスを何巻も費やしたわりには、出された結論が誰と誰がくっつくか否かとか、恋愛観だけの話だったら、自分としては少々物足りないです。要するに自分の頭のなかで妄想できそうなものに、わざわざお金を払って読みたくないと思うのはあたりまえなのではないでしょうか。
なにか上から目線でごちゃごちゃ書きましたが。
上記の点、必ずしもパーフェクトに満たしていなくてもいいです。ちなみに私は同じような話や傾向の漫画を重複して所有するのは嫌なので、たとえば、百合漫画といわれるものならばあのロボットがでてくるもの(と、その派生作品)しか持っていません。あの漫画、おそらく生粋の百合マニアからは純度の高い
百合だとは認定されていないでしょうけれど。そのジャンルでいちばんベストだと思うものを持ってさえいればいいので。『少女革命ウテナ』は百合というよりも、作家買いで買っていますね。 ただし、歴史上の好きな偉人のものだと複数の作家の描いたものを買います。
漫画の面白さはどこにある?(前)
休載続きで鉛筆下書き絵を載せても、なぜか反響を呼んでしまう漫画家さん。ベテランになると理を詰めすぎて、描けなくなってしまうこともあるのではないでしょうか。