陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の巫女精察─かそけきロボット、愛に準ずべし─(三)

2015-07-23 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
ここで、いまさら言うまでもないことですが、「神無月の巫女」を構成する諸要素をあらためて確認しておきましょう。

まず、やはり第一に百合、GL(少女愛)。この作品は来栖川姫子と姫宮千歌音、十六歳の少女ふたりの愛情が紆余曲折を経て固まっていくまでのラブストーリーです。第二にロボットアクション。勇者・大神ソウマがオロチ衆を叩き潰す果敢なブレイブストーリー。第三に、兄弟愛、BL(少年愛)。ソウマと敵方にある実兄ツバサとの熱闘と和解。第四に主従愛。如月乙羽という存在は、千歌音の懊悩を語らせる上で欠かせない人物なのです。なぜことさらに千歌音と乙羽についての淡い関係(あくまで一方通行ですが)を、百合に含めないのかはのちほど明らかにするとしましょう。第五に学園ドラマ。姫子たちには高校生としての日常があり、ときには早乙女真琴はじめとした親友たちの葛藤もあります。そして最後に、巫女というタイトルからいちばんに期待されるはずですが、古代神話ファンタジーとしての舞台設定。いわゆる伝奇もの。いちおう、古事記にあるヤマタノオロチ伝説が下敷きになっています。さらには輪廻転生という要素もあるのですが、前世としての人格がかならずしも物語上(漫画版はともかく、アニメのほうではなおさら)、あまり意味をもたないので、ここでは省きます。

こうやって六つの要素を書き出してみました。これは「神無月の巫女」という物語を構成する太い六本の柱です。
さて、いかがでしょう。組み上げた積み木のひとつをそっと引き抜くように、このなかでどれかひとつだけ柱を外してみるとしましょうか。そうすると、どうしても物語それ自体を全壊させないようにするには、ロボット要素を削りたい、そんな要素に駆られることでしょうね。なにせ、百合だとか、兄弟愛だとか、主従愛なんて、ロボットバトルでなくても、あっさり十分に成立しちゃうんですから。そんな愛憎劇が見出されるステージは、場所を選ばない。スポーツものとか、王国ファンタジーとか、もっと言えば、実写ドラマであるような社会人ストーリーでもいい。ひと生まれるところに感情が生まれるのだから。恋愛のハラハラ感を増すためなら、ホラーやサスペンスもあっていいでしょう。要するにどのような人間ドラマも、愛憎劇も、いかなるジャンルにおいて成立してしまえるのです。そして、恋愛の図面を使い回しているにすぎない。

ところが、「神無月の巫女」には巨大な二大ジャンルがせめぎあっているがために、ときに狂おしいほどのアンバラスさを見せることがあります。その二大ジャンルとは、はたして「百合」と「ロボット」だったのでしょうか。「恋愛」と「アクション」だったのでしょうか。いいえ、そうではありません。ここで対立軸にあるのは、じつは「ロボットアクション」と「古代神話ファンタジー」なのです。より正確にいえば、「ロボット」と「巫女」との組み合わせ、というべきなのかもしれませんね。巫女装束、すなわち和装した少女たちがロボットに乗る…かつて、こんなぶっ飛んだ寄り合わせのアニメがあったでしょうか。ロボットのパイロットと言えば、宇宙服を連想させるようなモビルスーツが定番であったはずでは?

ロボットアニメというジャンルそれ自体の創発は日本であったかもしれませんが、そこで描かれる舞台はおそらくは近未来。つまり大和文化にはなかったものでした。ロボットアニメの代表格とされる「機動戦士ガンダム」シリーズはいずれも宇宙をステージにした、SFテイスト満載のものですね。ところが、「神無月の巫女」ときたら、どうでしょう。戦闘の舞台は東京でも大都市圏でもなく、西日本のとある、頭に「ど」のつくほどの田舎。人口が密集する大都会にとつぜん現れたモンスターが大暴れといったパニック仕立てで、敵方ロボットの脅威をもり立てることすらしません。破壊工作のシーンはなきにしもあらず、なのですが、特撮ロボのようにお約束に表現されてはいません。そして、この敵方、なぜかとてもユーモラス。世界を滅亡させる巨悪の組織とも思えないほどに、お気楽ぶりです。

なぜ、こんな田舎くさい舞台でロボットなんぞを動かしてしまったかというと、それはこの物語上では、「ロボット」イコール「神」という扱いをされているからなのですね。この神は宇宙人でもなんでもなく、日本古来の神という扱い。詳しくはわかりませんが、古事記や日本書紀に出てきそうな日本の神々の名にあやかったのではないかと思われる呼び名が、各機体に付されています。私などは、ロボットが神と呼ばれる、このこと自体がとてもとても理解しがたいのですね。べつに偶像崇拝を禁じている宗教の信者というわけではありませんけども、巫女にロボット、というのがどうしても、馴染めない。巫女とロボットが同時に主要素で出てくる作品って、そうそうないのでは、と思われます。

しかし、かようにどんなに軽薄に扱われようとも、違和感が募ろうとも、「神無月の巫女」という作品において、ロボットが存在する、いやぜひとも存在せねばならない、間然するところなき理由があるのです。


神無月の巫女精察─かそけきロボット、愛に準ずべし─(目次)
アニメ「神無月の巫女」を、百合作品ではなく、あくまでロボット作品として考察してみよう、という企画。お蔵入りになった記事の在庫一掃セールです。

【アニメ「神無月の巫女」レヴュー一覧】


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本映画「ゆれる」 | TOP | 蝶の舞う日 »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女