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陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「プライベート Attacker」(十七)

2011-10-27 | 感想・二次創作──マリア様がみてる

訊ねなきゃ、そう、きょうはあれを訊ねなきゃいけないの。だが、あのことを思ってはいるのに切り出すタイミングがむずかしい。
きょうの聖はあまりに楽しそうで、その気持ちに水を差すのもためらわれる。それに彼女はきょう、明日で大事なレポート製作を控えているのだ。それに集中できるような環境を整えてやるのが、友人としての務めではなかろうか。

でも、まだ関係が浅いうちならばいいが、どんどん深みにはまっているというのならば早めに足を洗った方がいいと忠告しておくのもいいだろう。そんな気持ちのせめぎ合いがあって、景はもどかしいところをいったり来たりしてばかりいる。

「ね、景さん。このレポート終わったらさ、お花見に行かない?」
「…お花見って桜よね?」
「もち。他に何があるの?」
「ふだんから、我が家のお花見は梅と決まっているの。加東家の家紋だって、梅をあしらったものだからって」
「そうか、そうか。ここのお屋敷の庭にはまだまだ遅咲きの梅も咲いてるんだな。まあ、梅もいいよね。うん、梅干しはうまい。ウメチューハイも最高」

コップのグラスの口を押さえて、からからと揺らしながら、聖はあいまいな口調になった。
ものを大ざっぱに動かしながらの人物からは、同意を得ることはできまい。頬づえをついた態勢のまま腕枕するように倒れこんで、下から覗くように聖はねだってくるのだった。

「でもさ。やっぱ日本の春は桜だよ。梅ってのは、盆栽の木みたいなもんじゃない?」
「たしかにあのいがいがした幹や枝振りのせいで、華やかさには欠けるわね。でも、厳粛さがあってそこがいいのよ」
「でもさ、花びらの構造としてはほとんど変わんないんだよ。おなじ薔薇科でね、薔薇みたいに何層も花びらが重なってできてるんだ」

実際、聖の言うことは間違ってはいなかった。
梅の花びらも、桜のそれも、よくよく凝視してみれば学芸会の看板の隅っこに飾り付けたティッシュの花牡丹のように、繊細に薄い花びらが幾重にも綴じ込まれているのだった。梅の花は桜ほどにはだらしなく蕾みを開き花びらを緩めてしまわないような潔癖で誇り高さのある花のように思われがちであるが、風になぶられればあっさりと散り散りになって空に放たれていくものなのだ。その毅然としたまでの梅の理想像というものは、おそらく正月飾りなどおめでたい演出をする紅白の添え物として欠かせない、プラスチック製の花びらのイメージを刷りこまれてきたに相違ないのだ。

「ねぇ、桜、観に行こうよ」
「行ってもいいけど、お酒は禁止ね」
「え~! なんでぇ~?」
「聖さんの場合は、花を愛でたいというよりそこに理由がありそう」

部屋のなかならまだしも、公衆の面前で泥酔されては困る。こちとら、介抱につきあわされちゃかなわんのだから。酔ったら、場所を問わずになにをしでかすかわかったものではない。

「それで、どこに観に行くの? まさかリリアン女学園の桜並木とかじゃないわね?」
「…いや、違うけど。どうして、それを知ってたの?」

たるんだ布に通された糸を引き抜いたように、聖の顔に一瞬ばかり緊張の色が走った。
景は聖をひきつらせたものが言葉のどこにあったのか考えあぐね、幾人かはいる答えに相当する人物を絞り込んでいた。



【マリア様がみてる二次創作小説「いたずらな聖職」シリーズ(目次)】






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