陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

小説『お釈迦様もみてる―蛍のヒカル―』

2024-03-24 | 感想・二次創作──マリア様がみてる

集英社コバルト文庫の人気百合ラノベ「マリア様がみてる」。
その主人公の弟(同学年だが双子ではない)福沢祐麒が通う花寺学院が舞台の男子校版が「お釈迦様もみてる」。初刊の『紅か白か』はレビューした覚えがありますが、その後、飛ばし飛ばしに読んでいて挫折していました。今回はマリみて再熱マイブームにあやかって、気がかりだった最終巻を選んでみます。


姉の祐巳が通うリリアン女学園では学内公式の卒業式のあとに、全校生徒向プラス生徒会役員だけの送別会もあると聞き、なんとなく胸がさわぐ福沢祐麒。

彼の通う男子校・花寺学院では、とうとう生徒会長で学園の憧れ「光るの君」こと柏木優先輩が卒業。なのに、学内というか、生徒会のなかではとくにイベントがない。二年生のアンドレ先輩ですらそっけない。そんな折、祐麒は保健の教師からの指示で在校生代表としての送辞を務めることになるのだが…。

はい、正直に言いますね。
この巻、記念すべきシャカみての締め。なのですごーく期待していたのですが、表紙絵もいいだけに。でも読後感は少々期待外れでした。

というのも、祐麒が一人合点でがちゃがちゃ妄想して、盛り上がらない卒業式前を過ごしていくいっぽうで、終盤まで柏木さんがほとんど登場しないんですね。下級生たちに形見分けの品を配るためとか、掛け持ちの部活がいくつもあって顔出しに忙しいとか。

見どころは、源氏と平氏の境界の関所破りをした一年前にフラッシュバックして、柏木さんと祐麒が再会しちゃうところ。アマゾンのレビューでは話題になっていましたが。でも、これもよくよく考えたらば。姉版のマリみての「いとしき歳月」の祐巳が佐藤聖に贈ったお餞別と同じですよね。祐麒って、けっきょく、柏木先輩のことをどう思っていたのかな? 「男とは今後キスしない」宣言してまして、たしかにその後のマリみてでも、柏木さん、祥子さまだとか、瞳子に近いし、あわよくば祐巳にアプローチかけてたりもしますし、けっきょく、彼の性癖って、ただのなんちゃってホモ扱いだったのでしょうかね?

なお、この仏教系の男子校花寺学院では、烏帽子親・烏帽子子なる関係がありまして。
しかも文化系の平家と体育会系の源氏に学内が二分されていて、無所属の祐麒は両派から痛い目に遭わされている(…が人気者の柏木先輩のお膝元にいるので護られている)という設定。

で、卒業式では、この両派が一時休戦というかたちで和解するサプライズが生じるわけですね。これがなかなか感動的ではあるのだけども。

ただ、出来事のボリュームとしては薄味。
マリみての卒業式話だったら、三人の先代薔薇さまも、祥子と令のときも濃密に話が編みこまれていたのですけども。この花寺版はどうしても華やかなキャラが柏木さんのみで、先輩格の二年生が脇役、一年坊たちもアリスはまあ強烈なキャラだけども、あとは地味目なので、どうしてもストーリーに面白みが欠けるきらいがありますね。BL好きな方をターゲットにしたのでしょうが、BL女子って、もっとすごい濃厚なものを求めていたと思うのですよ。

それはともかく、このシャカみてが興味深い題材だったのは。
マリみての時系列に生じたイベントを花寺側から眺めるとこうだったのか、という楽しみができることですね。たとえば、黄薔薇さまの鳥居江利子さまと花寺講師の山辺先生との恋愛沙汰。祐巳が送別会で踊った安木節。マリみて好きが二次創作めいて参照として読むのならば楽しめるのですが、単独で読むとなるとちょっとキツイものがあります、私としましては。

このシリーズ、全巻読んだわけではないので、流れがうろ覚えなのですが。
今回のお話では、柏木優の過去や内面――烏帽子親が四人もいたとか! 実は光の君として偶像化されることにプレッシャーがあったとか、が明らかに。そして、祐麒自体は他学生が憧れるヒーローとして神格化された彼ではなくて、生身の人間としての柏木優を欲していたと。でも、それは恋心じゃないんですよね。で、遠くに行く先輩のためのお餞別がやはりなぜアレなんだろう…? いや、まあ、おいしいシチュエーションなのですが、読者サービスですね、ハイ。

それにしても、アリスの贈り物をお膳立てしてあげたりと、祐麒はなかなかできた漢ですね。でも、そのせいか、あまり波風が立っていなかったような、物足りなさもあります。マリみて本編だと、姉から見て頼もしい弟ぶりだったり、瞳子のサポートしてあげたり、なかなかの紳士ぶり。

あ、そうそう。いま気づきましたが。
この話は卒業で、柏木さんと祐麒の別れを描いたはずなのですが。事実上、マリみて読者は、その後、大学生の柏木さんが祐麒を伴って祥子宅やら、遊園地デートやらもろもろに顔出ししてくるために、お別れの哀しさが感じられないのですね。

あとがきで今野緒雪先生は「一区切り」なので、ラストでないことを匂わせていますが。
その後、マリみてを含めて続編が書かれなかったので、事実上のマリみてシリーズの完結編になってしまったわけですね。柏木優卒業でシャカみてが終わってしまったのは、彼以外に祐麒と組ませても際立つキャラがいなかったせいなのでしょう。

なお、この最終巻、ラストでは二年次になった祐麒に、なんと将来の弟分かと思われる新キャラが登場。すでにバックナンバーで登場していた彼だったのですが、あの屋根から落ちた話、ぼんやりとしか思い出せず。祐巳と瞳子みたいに、次世代の兄弟の話は紡ぐまでの気力はなかったのでしょうね。というかマリみてシリーズには登場しなかったので、どうみても、後付けのキャラのようですけども。

さて、この話は読んだのは夏ですが。
卒業式にちなんで、記事公開は3月予定になっています。マリみて版の『いとしき歳月』を再読したくなりましたね。




(2023/06/17)


【レヴュー】小説『マリア様がみてる』の感想一覧
コバルト文庫小説『マリア様がみてる』に関するレヴューです。原作の刊行順に並べています。
(2009/09/27)

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