陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

小説『マリア様がみてる マーガレットにリボン』

2025-02-08 | 感想・二次創作──マリア様がみてる

平成時代の一大百合ムーブメントを起こした記念作「マリア様がみてる」(原作:今野緒雪)。
今回のランダム感想は、短編集の『マリア様がみてる マーガレットにリボン』(2008年)。著者があとがきで弁解していますが、べつだん、集英社に媚びたサブタイではないようです。そして、集英社宣伝にひねり出したとんでもないサブタイ案もあとがきにあって、その頭のひねり具合に笑ってしまうところです。




私はなるべく読みたい季節に応じたものをチョイスするのですが。
現在は二月のバレンタイン直前期。でも卒業式前の話ってなんだっけ? 「ヴァレンティーヌスの贈り物」は前後編で長すぎるし、だったら祐巳が二年次の二月か三月頃なんだけど。「仮面のアクトレス」以後の刊行でタイトルから時系列がわかりづらくなってしまったことがあって、適当に選んだら、うっかりとこの巻になりました。下級生へのバレンタインチョコのお返しに悩む二年生トリオが主軸の。マーガレットにリボンは、プレゼントのラッピングに絡めてのタイトルらしいのですが、中身があまり想像できないですよね。マーガレットの花ことばがヒントらしいですけれど。

さて今回は短編集なのですが。
いつもと違って、雑誌コバルト掲載の番外編を網羅したものではなくてですね。
なんと、緒雪先生が読者リクエストに応えて、わざわざ書き下ろしたものばかり。当然ながら主人公格のキャラが主体のお話ばかり。ファンからしたら待ってました!の垂涎の的、大人気のあのひとだって再登場。いつものごとく、各話に現代軸のお話がのりしろ部分になっているという構造です。


・「デビュー」
なんとひさびさの水野蓉子さま主役回! 大学法学部に進学された蓉子さま、聖さまみたいなおちゃらけプラスに祐巳らしい愛されキャラを目指したつもりが…。地方出身者の大学デビューあるあるですが。そうそう意外にこういう同級生みたいな女子大生いたりするのが、大学の不思議なところです。蓉子さまの服装、それは似合わないでしょ…と正直思いました、ハイ。いや、ひびきさんのイラストは美しいのですけどね。現役二年生よりも、先代お姉さまトリオが輝いてみえるの、どうしてなんだろう。

・「ライバルがいいの」
よしのんの永遠のライバル鳥居江利子さま。しかし、彼女にもひそかに抜き差しならぬ好敵手が誕生していた。しかも、年の差かなりの!! 女子大生なのに、子持ち男やもめを好きなるってどうよ、と思わないでもないけれども、お嬢様だからしかたがない。「好きじゃないとライバルになれないの」っていい表現ですね。憎たらしいから叩き潰すじゃなくて。愛がある言い方です。意外といい母親になれそうですね、江利子さま。このふたりのその後って、たぶん、書かれたのかな?

・「フィレンツェ煎餅を買いに」
修学旅行編の「チャオ・ソレッラ」を読んだ後だったので、即どこのあたりの話か腑に落ちました。短編集でいうと、「バラエティギフト」あたりで匂わされていたから、だいぶ時間が空いていますね。サトーさんと、カトーさんの友情旅行。リリアン女学園修学旅行生一行が見かけた幻は実在した…という種明かしです。加東景さんは好きなキャラなので嬉しいけれども、活躍がちょっと惜しい。

・「さん」付け問題
二年生組の名前の呼び方をめぐってのほほえましい話。この三人、横並びなのだけど、仲良くていいですね。三人いれば誰かハブられそうなのだけども。由乃と志摩子さんだけなら、そんなに親しくないような気もするので(「レディ、GO!」のときの志摩子に対する言いようが!)、やはり主人公の友だちマジックでしょうかね。祐巳みたいな子って、面倒見がいいから、会社の総務とかやったらぜったいうまくいくと思います。

・「僕の兄妹」
志摩子さんの出生の秘密が明かされる回です。なぜお寺の娘なのにカトリックの女学校に通うのか。修道院入りを希望するのか。あのお兄さん、甘党の風来坊なんじゃなくて、意外としっかり考えていたわけですね。でも、複雑な家族関係ですね。日本の事業継承問題、切実なんですよね、今も。

・「ユミちゃん絵日記 未来編」
未来日記みたいなタイトルの漫画があったような気がするけれども。祐巳が少し先の予定を先取りして書いた日記。では、その真実は…という小話。

その①は、なんと修学旅行でもチョイ参加の蟹名静さまとの再会。卒業式とお別れにからめたしんみりしたエピソードですが、ほろりときます。自分が哀しくて泣いてもいいが、相手の門出は笑っても見送らねばならない。家族を失ったときに、そう思えたら勇気をもらえたのかも。

その②は、は瞳子とのお稲荷さんデート(?!)。
「普段できる子はできなかった場合に弱いのだ。落ち込む姿が可愛い」と言えてしまう祐巳のお姉さんぶり。あのわがまま生意気縦ロールを手玉に取って、瞳子と手なづけてしまうなんて、ずいぶん成長したものですね。レイニーブルーの頃から想像もしなかったわ。お供え物がなくなるのを「神様のお使いが食べる」と清らかに表現してしまう瞳子もたしかに可愛いですね(この形容詞の使い方は合っているはずだ)。

・「青い傘の思い出」
レイニーブルーのときの、祐巳がなくした傘が主人公。…というか、その傘を拾った無名の人びとの日常つなぎ。バイトの女子大生、正義感の強いランドセル女児に、子との同居にひと悶着ある老婆。そして実家の事情で別れてしまう恋人たち。最後にミッフィー先生こと青田先生の娘さんにバトンタッチされるまで。正直、マリみてシリーズでやらんでもよろしいがな、と思う一般文芸の私小説めいた話ではありますが。だから、ちょっと飛ばし気味読んでいたのだけれども、最後にやられた…!! ああ、やはり、これはマリみて世界なのだな、って思います。リリアンっ子じゃなくても、あるのよ。そこの学園だけの限定話じゃないのよ。青田先生の娘さんのこの片思い、イマドキの百合漫画でありそうな設定ですよね。

ちなみに、あとがきでほのめかされたように、祐巳・祥子編の終焉が近いとのこと。
となれば、当時は祐巳・瞳子編か? それとも次世代主人公で乃梨子か、はたまた剣道少女のあの妹分か? と期待したものですが、その後、緒雪先生が書かれたのは「お釈迦様もみてる」でしたね。

最後の短編も含めて、人の生死や家庭問題がかなり絡んだリアルな課題を含んだエピソードが多くて。
正直、この頃から、今野先生はいかにも学園百合ファンタジーなマリみてじゃなくて、もっと生なましい人生の機微のある物語を書きたかったのだろうな、と思うわけです。「私の巣」とか「雨のティアラ」とかみたいな。いつまでも「マリみての今野緒雪」「百合の今野緒雪」ではなくて、「小説家の今野緒雪」として、もっと自由に創作したかったのだろうなと、今の私ならば理解できます。けれども、当時はかろうじてお慰みに人気の旧薔薇さまトリオが出たのはよいものの、乃梨子は不在だし、祥子や令もおらずに、なんだか気の抜けた一冊だったな、という印象しかありませんでした。ごめんなさい、読者のわがままで。

キャラ人気が独り歩きして、いつのまにか、作家の手に負えないものになってしまっている。
二次創作などでかってに未来を先取り想像されたり、知らぬまにカップリングにされたり。公式が否定しようにも購買欲の強いファンダムの勢いには逆らえない。そんな作家さんのやるせなさが、なんとなく、ご自身の状況とも重なって、最後の輪舞のようなリレーエピソードを書かせたのかもしれませんね。

それにしても、この巻、15年前の作なのだけれども。
当時の風俗やファッションをあまり反映していないせいか、いま読んでも古くささを感じずにいられるのがすごいです。聖さんたちもケータイ、あまり使わないしね。被服室でミシンを使ってスカートなどを縫う作業、いまでも家庭科の授業ではあると思うのですが、どうなのでしょうかね。


じつは「チャオソレッラ」も含めて、おもしろく読んだけれども、感想がかけずじまいになった刊もありまして。あの巻、海外旅行で作者がウキウキだったせいか、独特のカラーがあるんですよね。女学生もので、いいのか、その話題って思うぐらいの(爆)。まあ、今後はいい感想を書くぞとあまり気負うのはやめて、楽しむことにします。それにしても、祐巳と瞳子の時代の話とか、さらにはその下の妹ができる時代とか読んでみたかったなあ~と。集英社って人気作品を引き延ばしさせるから、作者さんが創作に疲れて物語を畳んでしまうとか言われていますけども。

令和にはいって、何世代かあとの紅薔薇姉妹がかたる、伝説の山百合会改革者としての福沢祐巳像とか、じつは修道院入りやめてしまって実家の寺を継いでる志摩子さんと、いっしょに尼僧になって盛り立てている乃梨子とか、道場主になっている令ちゃんと由乃とか、小笠原財閥で重役になっている柏木さんと、祥子さまはどうなったとか、名女優になっていた瞳子がブランクで祐巳が励ますとか、そういうアフター話読んでみたい気もしますね。


令和になっても十年二十年経っても、ぞんぶんに百合テイストを楽しめる、少女たちの美しい友情の物語。マリア様がみてるシリーズ。今宵も清らかな人間模様を心に残して、私たち社会人読者は、ひとを慈しむことの大切に気づくのです。「マリア様がみてる」、ほんとうにいいタイトルですね。

では、次回のレビューでまたお逢いしましょう。ごきげんよう。


(2023/02/12)

あとで気づきましたが。この巻は以前レビューしていました。でも、けっこう辛口レヴューだったのは、当時の心境がアレだったからなのでしょう(苦笑)

『マリア様がみてる─マーガレットにリボン─』
紅・白・黄、黒…なつかしい薔薇さまがた返り咲き!オムニバスドラマふたたび。


【レヴュー】小説『マリア様がみてる』の感想一覧
コバルト文庫小説『マリア様がみてる』に関するレヴューです。原作の刊行順に並べています。
(2009/09/27)

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