陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「The Fifth Wheel」 Act. 7

2006-09-10 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

「はやてさんが気になってしかたがない相手なんですかい?」
「そうや。でも、記憶があやふやになる脳のとこをガン、と殴りつけられとるから、ロッサの所見では、人相はあいまいなんやけどな。相手の風貌は思ったとおりやね」
「はやてさんが掴んでるんなら、逮捕は時間の問題っすね」
「うーん、でもな。カリムがおもしろいこと言うたんや。その犯人さんとは、いずれ相見えることになるから、今はほっといたほうがええって。だから、しばらく泳がしとこかと思うとるんや」

実際は犯人像を知りえたアコース査察官が、姉のカリムに危険性はなしと進言したのだった。
しかし、その経緯は伏せられている。なにせ、ヴェロッサははやてとの約束どおり、あの時刻、魔法学院にいなければならなかったのだから。

「しかし、それじゃ被害がまだまだ出てきますぜ」
「犯人の傾向からして、一般人を襲う気配はないやろ。狙われてんのは、その道の達人さんばっかりやから」
「でも、それじゃ、人身御供じゃないスか」
「そやな。今度は、ヴァイスくんに餌になってもらおかな」
「じょ、冗談きついっすよ! 銃撃では腕に覚えがある俺だって、格闘技は無理ムリ、むりっスよ! いきなり後ろから襲われたりしたらひとたまりもねーや」
「ははは、嘘、うそやて。ま、でもな。カリムが予測するに、しばらくは犯人もおとなしゅうしとくみたいやで」
「その予測、あてになるんですかい? だったら、俺の買ってる馬券の予想もしてほしいや」
「そりゃ無理やて。聖王教会騎士は個人の利益のためには動かざることを信条としとるから」

シグナムが神妙な顔つきになった。

「騎士カリムの預言には逆らえない。それはさだめなのだ。我ら守護騎士が闇の書とともに復活して、主はやてと巡り会ったように」
「そいつ、ただの通り魔なのに、いずれミッドを揺るがすようなテロリストになるとでも?」
「いや、それはわからん。でも、カリムが釘刺すちゅうことは、聖王教会がらみ、つまりは古代ベルカの因果が関わってくるということちゃうかな、と私は睨んどる。ロッサも大丈夫や言うとったし、しばらく様子見やなあ」
「古代ベルカ、っすか。なんだか、途方もねぇ次元の話すね」

ヴァイスが頭の後ろを掻きながら、あぐらを崩した。
立てた片膝を守るようにして、座り直す。ライフル型のデバイスの魔導師らしく、縦にした銃の底を地に着けては構えるときのの態勢が、いつのまにか、彼のくつろぎの姿勢になっているのだ。それはあぐらよりもなお、目上の前ではお披露目しがたいポーズではあるが、なに、酒も深くなってきたこの夜、無礼講は許されたい。

「古代ベルカに関する不穏な動きについては、いつもカリムが神経張って読もうとしてくれとるんや。聖王教会には、昨年のマリアージュ事件で保護された冥王イクスヴェリアが、いまだ眠っとる。ヴィヴィオの身柄もふくめて、危険な因子は早いうちに取り除かなあかん。もし相手が年端もいかん、罪の意識もないまま巻き込まれたコなんやったら、救ってあげなならんし」
「子どもを巻き込みたくねぇって気持ちはわかりますぜ。ね、姐さん」
「まったくだ」

ヴァイスが同意を求めると、シグナムもそこは頷いてみせる。
軽薄な感じのするヴァイスだが、かつて自分の年の離れた妹を事件に巻き込んだがために、彼もまた不幸な子どもへの深い理解を示すひとりだった。

「マリアージュ事件の実行犯てのは、たしかティアナの補佐官だったはず。反管理局分子のテロリストだった父親の恨みで、と聞きましたぜ。今度のも子持ちの父親を襲撃したてことは、黒幕が子どもをそそのかした父親なんじゃないスか?」
「親が子どもを犯罪に走らせるんか…。あんま、聞かせたくない推理やな。とくにナカジマ家とハラオウン家の皆さんには」

はやてが見渡した顔触れには、フェイト、そしてチンク・ディエチ・ノーヴェ・ウェンディの四姉妹。

「ま、父親ていうか。ものすごい遠い遠いお父さんの無念がそうさせたんかもな。哀しみの遺伝子って、何代にも渡って引き継がれるもんなんかもしれん。うちのリインが先代の意思を引き継いでるようにな。誰かがどっかで、その子の苦しさを受けとめてあげんとな。私らの仕事もまだまだ終わりやないで」
「そうですね。私も気を引き締めてかかります。アギトとのユニゾンがあれば、どのような敵がいようと負ける気がしません」

シグナムがきりりと顔を引き締めた。
この烈火の将シグナムが、のちに腹を貫かれて戦闘不能に陥るなどと、誰が想起しえただろうか。

八神はやては、このとき、まだフリーの捜査官。
だが、この二年後、新暦0081年、管理局本局より捜査司令の拝命を受けたはやての掛け声のもと、かつての機動六課メンバーはふたたび集結、特務六課として再結成される。JS事件を上回る凶悪事件に乗り出すことになる。事件の元凶は、ベルカ戦乱時代の負の遺産、感染者を殺戮兵器へと変えてしまう人工ウイルス、その名もエクリプス。

その被害者が、この祝宴の参加者の関係者だったとは、その当時、誰も知る由もなかった。
スバル・ナカジマ陸曹が保護したトーマ・アヴェニール少年は、このとき、まだ聖王教会預かりの見習い。やがてひとり旅に出た彼は、第23管理世界ルヴェラにて、エクリプスの感染源である不思議な少女リリィ・シュトロゼックを救ったことで、犯罪者集団のフッケバイン一家につけ狙われ、大きな陰謀に巻き込まれていく。シグナム空尉やフェイト執務官をはじめ歴戦の猛者たちを重傷においこんでいく敵が待ち受けているその重大事件については、いずれ、未来に語るべき時がくるであろう。


【最終章に続く】




【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「Fの必要」シリーズ




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