「たしかに、年の頃からいうたら、ヴァイスくんが適任かもな」
「ヴィヴィオの父親代わりになり、暇な男といえば、思い当たるのはこやつぐらい。そして、ヴィヴィオと後腐れのない関係の男といえばこやつぐらいしかおりません」
「暇な」という部分を強調したシグナムの言葉にははやてが呼応して、二人はさらに深く頷きあった。
シグナムにしたって、フェイトからの頼みだったからこそ乗り気になったのだ。がっくりと肩を落として首うなだれた青年の肩を、はやてがあやしながら叩いた。
「ま、落ち込まんといてな。予想外に賛同者が多かったのは嬉しいことや。声かけたメンツは全員、しっかり大役果たしてくださっとる。私もなのはちゃんも、フェイトちゃんも、ヴィヴィオもくるっとまとめて大感謝なんやで」
「まさか、はやてさんご本人やザフィーラの旦那はともかくですぜ、ハラオウン提督やナカジマ三佐までがお出ましとは…まったく、これだけ豪華なメンバーを引き寄せるってのは、なのはさんのお嬢ちゃんも大したもんだ」
「あれ、気づかんかったん? それだけやないで」
「へ? まだ、他にもいらしてたんで?」
「うん、臨時パパ予備軍の皆さん、あちらでお楽しみや」
はやてが指さした方角には、華やかな装いをした男女を中心に、談笑にいそしむグループ。
これまた、いつもの浮き立つような真っ白なスーツをきたヴェロッサと、おなじくレースのフリルを多用したロングドレスに身をつつむガリム・グラシア。その側に控えているのが、騎士シャッハ・ヌエラ。いまや聖王教会につかえているセインと、オットー・ディードの双子が、かいがいしく給仕にあたっていた。
「そりゃ、気づかなかったな」
「教会騎士団関係者さんは本日、外回り担当。じつはな、ザンクト・ヒルデ魔法学院周辺で通り魔襲撃事件が起きたんや」
「うわ、物騒ッスね。犯人は捕まったんですか」
「いんや」と、はやては首を振ったが、なぜだか楽しくてしかたがないといったように頬をふくらませた。
「その被害者がな、じつはきょうの参観日に参加予定の父親やったんや。格闘技の実力者なんやけど、負けたんが悔しかったんか口を割ってくれん。そこで、ロッサの出番やったんや」
「アコースの旦那の思考調査にかかっちゃ、隠し事なんて無駄っすからね。モンタージュ写真より有効だな。即逮捕確実っすね」
「ついでにどうだ。お前のやましい妄想のつまった頭も、アコースに暴いてもらえ」
「ひでぇな、姐さん」
ヴァイスがむっとした表情をする。シグナムが冷ややかな笑みを浮かべていた。
「シグナム姐さんの毒舌にはかなわねぇな」と頭を掻きながら、ヴァイスは歯を見せて笑う。この男は、辛口のちょっかいを出しにくる烈火の将の厭味がまんざらでもないのだ。ちなみに、シグナムの不幸なからかいの対象もうひとりが、テスタロッサ・ハラオウン執務官であったりする。
「それで、どんな野郎だったんで?」
「うん、それがな…私が住所と電話番号、誕生日までおさえたくなるようなタイプやった。つまり、私の美少女ファイルに収めたくなるような可愛い子ちゃん」
ふふふ、と不敵な笑みをうかべるはやてをよそに、シグナムがぼやいている。ああ、また主の悪い癖がはじまった、と。
【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「Fの必要」シリーズ