陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

わたしたち、ティーンズ文庫とともに育ちました

2018-02-16 | 読書論・出版・本と雑誌の感想

いまの30代、40代の方にお聞きしたい。
子どもの頃、ハマっていた読み物って何ですか?

男性の場合、漫画コミックだとか三国志みたいな軍記ものじゃないかと思いますし。女性ならば、少女漫画もそうですが、たいがいティーンズ向け文庫ではないでしょうか。

2018年2月13日付の読売新聞朝刊記事の文化欄に「コバルト文庫 40年の功績」と題された記事がありました。以下、その記事の要約です。

10代向け文庫の草分けといえる集英社のコバルト文庫が、一昨年創刊40周年を迎えた。『コバルト文庫40年カタログ』という公式カタログも刊行。発行総数4500冊を誇るこの一大レーベル、当初は詩集、体験本、タレント本。佐藤愛子、津村節子などの女性作家が寄稿し、少女の知的好奇心を満たすものだった。

1980年代に投稿雑誌『Cobalt』が創刊されると、その前身誌たる『小説ジュニア』の新人賞作家だった氷室冴子、久美沙織が続々デヴュー。読者と年齢の近い作家の描く少女のストーリーは人気を呼び、赤川次郎ミステリーや新井素子のSFも人気を博した。

さらに1990年代は『炎の蜃気楼』でファンタジーブームを越した桑原水菜、2000年代には『マリア様がみてる』で男性読者まで味方につけた今野緒雪ら、かつてのコバルト少女たちが書き手となってコバルトの看板作家となったことが、飛躍となった。コバルトノベル大賞受賞者からはのちに、直木賞受賞作家も輩出している。

しかし、ここ近年。10代向け文庫は、ライトノベルやウェブ小説、ボカロ小説に市場を奪われつつある。読者層の年齢も上がってしまい、雑誌『Cobalt』も終刊し、現在はウェブマガジンのみ。しかし、社会学者によれば、変遷激しい若年層レーベルの中で、多くの新人作家を育てたコバルト文庫は貴重な存在である、という。


コバルト文庫は氷室冴子先生の『なんて素敵にジャパネスク』シリーズか、今野緒雪先生の『マリみて』シリーズかしか読んだことないのですが、今、私の同年代ぐらいで、このコバルト文庫が少女漫画雑誌と同じくらい、青春時代のバイブルだったという方は多いはずです。読者層が30代、40代ぐらいになってしまって、若い子には読まれなくなっているんですね。

私は逆に『涼宮ハルヒの憂鬱』みたいな、角川系のライトノベルは肌に合いませんでした。上手いなと思うんですけれど、楽しめないんです。こころに響くものがなかったから。『キノの旅』はおもしろくて途中までは読めたんですけれど。若い女の子でも、百合っぽい漫画やラノベ、ゲームは大好物ですけど、『マリア様がみてる』を読まないというか、知らない子もいるんですね。たしかに今から読むと、ケータイもスマホもないし、PCというかワープロだった時代の感覚ですよね。古くさい女子高ライフだし、ただのしみったれた日常劇だし、五感をフル活用するサブカル浸けされた世代からしたら合わないという子がいても仕方がないですね。作者の今野先生の好きだった少年探偵団とか、古いアニメの話なんかが『お釈迦さまもみてる』で出てくるんですが、私も意味がわからないです。がっつりガチな女子愛が読みたい人にとっては物足りないともいえますし。

でも、いまの主要な書き手になっている、とくに百合ジャンルの作家さんは、ぜったい『マリア様がみてる』もしくはその同年代のなにがしかのアニメや漫画の影響を受けています。女性作家さんでも、あ、この人、マリみて経由しているような女性の描き方しているなと感じることしばしばです。女性どころか、男性のクリエイターでもそうです。その『マリア様がみてる』自体、大正時代の吉屋信子や川端康成などの少女小説などを現代版アレンジしたようなものです。つまり、おばあちゃんから孫娘に読み継がれた、女の子のうるわしいお話なんです。

文体が変わっても、世情が変わっても、少年少女たちが読みたい物語の核というのは変わらないのではないでしょうか。性別や年齢、なんらかの環境、という軛(くびき)から脱け出し、変身でき、成長できる。少年にとっての武器がロボットか剣か拳だというのならば、少女にとっての生きるための武器は何だったのでしょう。けっして、可愛さだけが、優しさだけが、売り物ではない。いまの過激な描写が目立つライトノベルもいいけれど、すこしまえのかびくさそうな古い漫画や小説にも、思わぬ至言が隠されていることがあります。大人になってからこそ、その良さがわかることもあるのです。

コバルト文庫は読み手を書き手に育てたレーベルと分析されていましたが、作家にならずとも、少女小説に感化された人は多いはずです。10代の頃に読んだ漫画やライトノベルは、読者の生き方に影響を与えることがあるかもしれない。昔の子ども向けだからと言って侮れない。大人になっても、子どもの頃に迷いや悩みを乗り切ったときの支えになってくれた、あの一冊を忘れたくはないのです。





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