陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

生まれた時代を嘆いても、何もはじまらないわけでして

2019-06-02 | 政治・経済・産業・社会・法務

最近、ニュースで「氷河期」が賑わっているようです。
もちろん、かなり悪い意味で。該当世代なので記事にすべきか迷いましたが、他人事とは思えないので人生の反省点として、書き残しておくことにします。

川崎市の事件は、引きこもり気味の51歳の男性がバス通学の児童保護者を狙い撃ちし、20人の死傷者を出したもの。こちらは容疑者が自決したものの、その後の調べで、家庭環境の不遇や少年時代からの問題行動が判明しています。亡くなった女子児童も外務省職員もその人柄を惜しまれています。痛ましい限りですね。

そのあと、福岡では無職40代男性が母と妹を襲ったあとに割腹自殺をしました。
川崎の事件に触発されて、親が仕事しないことをなじったとも言われています。さらに、昨日は、東京都練馬区在住のもと農水省事務次官が44歳息子を刺殺して自首したとの報道が。このご子息は極度のゲーム依存症で、ネット上では父親の名を出して周囲を迫害していた迷惑人物だったという噂もあります。

いずれも共通するのが、引きこもりで中高年だということ。
前者はバブル世代ですが、後二者は氷河期世代ですね。加害者は男性ばかりですが、最近は女性でも、愛しているから交際相手を刺したなどとおかしなことを言い出すので、どちらも同じことです。暴力的なひとや、お金や権力でしか価値づけできないひとも増えています。現実で見目良い立場が得られないのなら、ネット上で繕えばいいとまで考えます。それで幸せならいいでしょうが、泡沫のようにすぐ消える評価に踊らされるのは虚しくはないのでしょうか…。

個人的な話をしますが、私も高校時代不登校経験がありますので、実質引きこもりでした。
当時ネットがなく、ゲームも下手な私。他校に進学した旧友とは親交があり、休学中にバイトをしたり、理解ある美術教師に出会ったりして復学の思い強くなり、大学進学もします。すでに自分自身が留年経験あって挫折済みでしたので、就職氷河期で損したねと言われてもピンときませんでした。ただ、自分が経験した派遣や非正規労働の拡大は、いずれ社会問題化するはずだという予感はありましたし、修士号や博士号の学位が通じる世の中でもないと早くから気づいたのは幸いでした。私は生家が裕福ではありませんでしたが、モラハラ親ではなく、私以外のきょうだいはバブル期で就職でき、あたたかい支援の手もあったので恵まれていたのかもしれません。成績不良で校内の問題児だったら、とっくに退学宣告されていたのかも。

氷河期世代は可哀そう、バブルや団塊世代は勝ち逃げでずるいという意見もあれば、自分の能力開発を怠った責任を社会のせいにするなという声もあります。氷河期世代を救うための正社員登用の助成金はこれまでにもありましたが、ここにきて政府が期間限定で職業訓練をする計画があるとも。建設や運輸などの体力重視の分野なので、アクティブな人向けですね。

高い教育をうけ、恵まれた時代に生まれても、ひとの運命が何によって左右されるかは断言できません。エリート家庭の子どもでも事件を起こしますし、むしろ権力やお金で尻拭いしてきたのでモラルが低いこともありえます。いま、就職戦線は順調ですが、一生涯雇用を保証してくれる職場なんて、もはやどこにもありません。会社は自己保全のためなら社員を切り捨てるし、組織の中でも蹴落としがいくらでもあります。健康を害して戦力外通知を受けてしまうかもしれません。子どもや配偶者がいれば老後もひと安心とも限らず、親の豊かな資産があってもある日失うかもしれません。

氷河期世代であるか如何にかかわらず、生まれた時代が悪いだの、自分の優秀さを周囲が認めてくれないだのという嘆きは、他人からすれば鼻先で笑われるものでしかありません。自分が生きるために成し遂げた努力の量は、残念ながら他人には見えません。不幸な境遇をかこちながら、世の中へ復讐したいとか親やら国やらへの引責を求める人と、そうでない人の差になにがあるのか。人生を自分でひきうける覚悟、かもしれませんね。戦後の焼け跡から生き抜いた人からしたら、氷河期世代なんて言い訳がましいと思われるかも。

とてもとても残酷な事実なのですが、健康な大人はある一定年齢までに職歴があるか、納税の義務を果たしていなければ、人間としてまともに扱ってもらえなくなります。これは引きこもり本人には直接言ってはいけませんが、本人もその周囲も知っていて苦しんでいます。ただ苦しみから這い出ようとする努力をみずからしなければ助けようがないのですし、全面的に救ってくれるわけでもありません。満足のいく仕事でなくても、食べていくために就かねばならないこともあります。見てくれのいい仕事でもあっても、自分に合わなかったこともあります。

生きていくためにどれだけのお金が必要で、他人づきあいを荒くすればどういうしっぺ返しがくるか心得ていて、時代の変化にあわせて過去に学んだことは更新しなくてはならない、いつまでも若くて健康であるわけではないことを、私は30歳過ぎて知りました。私の周囲でも人生を再生できたひとや、そのままの人もいますし、世間と交わりを断って亡くなった人もいます。引きこもりというのは、一度陥ってしまうと脳がその楽さに慣れてしまって、生きる意欲が湧かなくなってしまうのです。働かないでお金が得られるなら誰でもそうしたいですし、一度味を占めたら、今度は事件や暴動をおこしてお金を寄越せというヤクザ思考になる人がいてもおかしくはありません。最近、働かなくても暮らせるなどと煽るライターさんやタレント化した経営者さんもいますが、怠け者に夢を与えて本を売りセミナーで儲け、まじめに働く人がいるから自分たちの商売が成り立っていることを理解していないとしか思えません。

引きこもりにはいろいろな事情があり、いじめやパワハラ職場、家庭環境もあるので一概にはいえませんが、成人したら一度は家を出て自立して生活する、親と同居するにしても生活費は入れる経験は積んでおくべきかもしれませんね。家も車も贅沢品もなにもかも、親(もしくは配偶者など)が与えてくれると思っている人とは、私は仲良くなれないです。親も自分が教育投資しすぎてリターンが得られないからと言って、子どもを心理的に虐待しすぎないことです。将来、どうやって生きていくかを親子や夫婦でしっかり話し合う習慣をもてばいいのですが。引きこもりが家族にいると、親のみならず、きょうだいの人生にも影響を及ぼします。

ただ、40歳以上になったら再就職の難しさは深刻です。
女性ならパートタイムや派遣事務職もありますが、中年男性だとなかなか雇われにくい職種もあり、会社員男性でも一家の大黒柱となって過労寸前のお父さんもいます。それが女性の社会進出への憎悪や子どもをもてなかったひとへの攻撃材料になってもいます。引きこもり当事者の周囲が行政に相談しても、児童虐待ほど支援に乗り気ではないので、家族が孤立してしまうのです。

数か月前だったか、マスコミの調査で、中高年の引きこもりがかなりの数にのぼることが話題になりました。この引きこもりには、子育てや介護をしない専業主婦・主夫や家事手伝いも含まれてしまうので異論は出たのですが、現状、家計の支え手がいたとしても行く末のことについて、ひとりひとりが考えておくべき時代になったというべきでしょう。

自分よりも貧しく、無能そうなひとや不幸なひとを探して喜んでも、何かが解決するわけではありません。ただ、一時的に働けなくなったひとに対する優しさがあれば、多少は生きやすくなるかもしれませんね。誰にでもいつか働けなくなる、輝けなくなってしまう時期がきてしまうのですから。それと、人間関係が煩わしいからと個人でおこなう働き方のリスクやメンタル不調についても自己管理をこころがける必要性はありそうです。


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