陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

学習参考書や問題集は書店で購入した方がいい理由

2018-07-08 | 読書論・出版・本と雑誌の感想

文部科学省の局長が、受託収賄罪容疑で逮捕されたというニュース。
息子の裏口入学と引き換えに、都内私立大学の支援事業採用に便宜を図ったという容疑です。失礼ながら、親が不正にお金を払ってまで子どもに不相応の学歴を得させたいものか、理解に苦しみます。その息子さん、ほんとうに医師になって人命を救いたければ、自分を信じてもっと熱心に勉強したでしょうね。たとえ浪人したとしても、不本意な進学したとしても、自分がやり切ったと思えるのならばそれでいいじゃないですか。なぜ、親はそれを教えなかったのだろう。勉強しろ、他人に勝て、ということしか、我が子にけしかけなかったのでしょう。お金で人生の課題が何でも解決できるという育てられ方をした人には、お金に群がる人しか集まってきませんし、お金がなくなれば他人から奪えばいいという考えしか生まれません。好きな人の心すら、自分にもたらしてくれた金額や労力に換算して、他人の価値を値踏みしながら生きることになるでしょう、残念ながら。

教科書の中身は二十年、三十年経てば、定説がひっくり返ることもあります。大事なことは答えを覚え込むのではなく、なぜそこに至るかという思考力を養うことなのに、考える暇を与えないで締め付ける親が多い。理解ある教師ならば、子どもがむしろ教科書にないようなユニークな回答をしてみせるほど楽しくなるものです。じょうずな休みのとり方も教えないから、走り続けてパンクしたら自分に絶望してしまうんです。

医師は患者への情報伝達能力が求められる高度な職業ですが、若手研修医の過労死も取沙汰されるように一人前になるのはかなりの年数とお金が必要とされる。うかつに親が、他人に我が子の優秀さを誇りたいがために進ませてよい道ではありません。うちの地元県では国立医学部信仰が根強いのですが、進学してから適性がなかったことに気付いても軌道修正できなくなってしまう。中途半端な開業医の歯科医になって経営難になっていたり、エリート職以外には就くなと親に言われたせいで遊びほうけている医学部出身者もいたりします。別に反知性主義を称揚するわけではないのだけれども、高等教育の教養って何だろうなと思うわけです。理想と現実の乖離に苦しんだあげく、他人を攻撃するモンスターになる。その典型が、先日、教祖や幹部が死刑執行されたオウム真理教です。多くの高学歴者が洗脳され、日本犯罪史上おぞましいテロ事件に加担してしまったのです。なぜ、こんなことが起こるかといえば、日本の家庭や学校が人生の懊悩に落ち込んだ若者を救う場所ではなく、追いこんでしまう崖っぷちになっているからではないでしょうか。所属価値がなければ、自分の能力や人格は否定されてしまうと思い込んでいる。その属している場所がなくなったら、自分はいなくなってしまうのでしょうか?

自分が所属している場所や組織のおかしさに気付くにはどうしたらいいのか。
そのために、本を読むのです。

子どもが読書好きに育つか、勉強嫌いにならないかは、生活環境に本があるかないかに左右されると言われています。私が子供の頃、生家では歩いていける距離に県内中流チェーンの書店や、個人書店などが三軒はあり、本屋に困ることはありませんでした。図書館も歩いて十数分ほどの近さですが、本屋が近いので、あまり利用することもなかったですね。

ただし、一度だけ困ったことがあります。
大学受験を控えた高校三年生のとき。私は高校受験からも含めて塾や予備校にいっさい通わなかったので、学校が用意してくれる指定参考書や問題集を基準にして、あとは近くの本屋で買い足すぐらいでした。文系でしたので、英語と社会科目のだけはこだわりましたが、数学と理科は教科書プラス学校の指定参考書・問題集だけでしたね。数学でしたら、青チャートと呼ばれるアレ。いまも出版されていますよね。

でも、大学の過去問が載っている赤本だけは、近所の本屋には置いていなかったんです。
正確にいえば、第一志望の難関国立大学の赤本だけは早期に買っていました。しかし、センター試験で自己採点して英語で失敗したと思い込んでいたので、志望先を急きょ、別の国立大学に変更。その大学の赤本だけがない。県内の書店にあちこち電話で問い合わせして、家からかなり遠い書店に偶然一冊だけ余っていると聞き、自転車で三時間あまり走ってやっと購入。いまだと、赤本でも、ネット通販で楽々入手できるのかもしれませんよね。

先日の読売新聞朝刊(日付は失念)で、日本の学生さんは、受験用参考書や問題集をいまだに書店で購入することが多いと報じられていました。アマゾンなどのネット通販で買えばポイントが貯まっていいけれど、学生さんは親御さんから現金で支給されているので、必然そうなるのかもしれませんよね。

言うまでもなく、書店の店頭では特設コーナーがあって、出版社ごとに中身を見比べっこすることができます。参考書や問題集の見栄えというのは、ほんとうに大事です。小説や漫画と違って、数日程度で読めるものではない。数箇月、下手したら、一年以上は睨めっこする活字ですから、自分に合う合わないがありますよね。黒字に、せいぜい、青か赤かのツートーンカラーのシンプルな昔の参考書に慣れているせいか、いまでも、資格試験の参考書のごちゃごちゃ図がカラフルだったり、よけいなイラストが載っていたりするものが、かなり苦手です。最近は、萌えイラストも多いですけど…。ビジネス書みたいに、見開いてわかりやすく、図解されているのがいいですよね。あと余白があって書き込めるのがいい。

書店ですぐ買うのがいいのは、レジで支払ったお金をすぐ回収すべく、その日のうちに頁を開く癖がつくからです。ネット通販で買ってしまうと届くまでにタイムラグがあって、やる気が萎えてしまいがちになります。

資格試験などは法改正があるので、なるべく最新版を購入した方がいいですね。
私は士業の資格取得にあたり、基本の参考書と過去問問題集だけは絶対にその年度のものを買いましたが、ある士業の記述試験対策だけは、二冊目を買い足すときは二年前のものにしました。ほとんど当年度分と回答が変わらなかったので。資格試験はなるべくならば、ひとつの出版社で統一した方が、相互参照できてお勧めです。ただ、士業の資格では、過去問が各年度ごとにまとめられていないので疑似受験感覚で解けなかったり、基本書は充実しているのに問題集の解説がザルだったりするのもあるんですよね。

大学受験の赤本といえば、今年になって続々と発覚した二次試験の模範解答ミスで、ほんらいは合格者だった受験生が不合格にされてしまうという失態があったばかり。予備校や教育業界関係者の指摘を受けて、大学は入試後に模範解答を公表することにしたようです。赤本でそれが正しいのだと必死に勉強した結果が間違っていたとしたら、受験生の苦労も浮かばれませんよね。

知識の詰め込み教育脱却をめざしたゆとり路線からの方針転換で、大学受験改革も着々と進み、参考書の内容もおおきく変わろうとしています。お兄ちゃんお姉ちゃん、もしくは先輩の参考書を譲り受ければ安上がりなんですけれど、それも難しくなりそうですよね。とりあえず、政府の方針で、家計の苦しい世帯のお子さんが国立大学の授業料免除が拡大されるのは喜ばしいことです。

ご家庭の事情もさることながら、自身の体調いかんや、最近は不可抗力的な災害や事件によって、学ぶ意欲の高い子どもが満足に学べないケースが増えています。就職に有利だからといって都市圏の学校進学に希望者が殺到している。しかし良著があれば、場所を選ばずに学ぶこともできます。社会人になったら、点数化されず、合格ラインの基準があやふやなことで判断を下さないといけない場合がありますが、その答えに辿り着くためのヒントとしての読書があるのです。読書としてはあまり推奨されない漫画の一コマであっても、人生に必要な心がまえを教えてくれることはあるものです。

余談ですが、最近、子どもを東大に入れただのの専業主婦が書いた本が流行っていますが、あれは参考程度にとどめておいたほうがいいでしょう。教育法や躾に万能薬はありません。子どもの英才教育を謳って暴利をむさぼる悪徳教育サービスもありますし。共働きで子どもの面倒を見られない親だっていますし、ヤングケアラーや家計の支え手にならざるをえない子どもだっています。高い学歴を得ても、派手に留学しても、メディアで華々しくちやほやされても、他人をだまくらかして生き抜いていくような大人になれば何の意味もありませんよね。


読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。



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