カラチからサッカリ空港を経由してラホール、イスラマバードに向かう飛行機は、サッカリ空港周辺で発生している濃霧のために到着が大幅に遅れるとの情報が入る。空港内にいても発着案内などは一切ない。全ては関係者情報だ。到着遅れとなれば、これから向かおうと思っているラホール行きも必然的に遅れる。濃霧などという現象は今の時期には珍しいと地元の人がいっていたことを思い出すと、パキスタンの異常気象も相当なものなのかも知れない。空港勤務30年というおじいさんがパキスタン航空からの差し入れだ、とかいいながら、紅茶とミルクを混ぜたチャイと駄菓子を運んでくる。チャイはなかなかうまい。
乗客の誰かが待合室に備え付けられていたテレビのスイッチを入れた。そしてあわただしくチャチャンネルを回す。画面には救急車に運ばれる警察官や焼かれた車両、それに道路上に倒れた市民らの映像が映った。現場のリポーターが何か叫んでいるが、ウルドゥー語のために詳細はわからないが、アミンが「ラホールで自爆テロが起きた。警察官が9人死んだ。あの街だけはこんな事件が起きないと思っていたのに、大変なことになった」と緊張の面持ちで教えてくれた。
ラホールといえばこれから私が向かう先だ。そういえばベナジール・ブット暗殺もタイの空港からイスラマバードに向かおうとした矢先に起きていたし、今回もこれから出発というときに起きた。関連は何もないのだけれども、パキスタンに何かが起き始めている徴なのかも知れない、などと直感する。
テレビは生々しい現実の状況を伝えているだけで、いったい誰が、なんのために自爆テロを起こしたのか、依然不明だ。ただ爆発が起きた場所は市内の繁華街に建つ高等裁判所あたりで、中では弁護士ら法曹界の人たちが街頭デモに出ようとしていた、警察官らはデモの規制に当たるべく準備していた、とテレビは伝えている、とアミンが通訳してくれた。
弁護士らといえば、今パキスタンで起きている事態のそもそもの発端となった人々の集団だ。最高裁のチョードリーという判事は、ムシャラフ大統領が軍服を着たまま大統領に再選されることは、憲法上違憲だ、として、去年10月の大統領選の無効判決を出すのではないか、と思われていた。そこに、ムシャラフ氏は突然非常事態宣言を出し、チョードリー判事を解任、大統領が改めて任命した判事らは、合憲判決を出した。以降、法曹関係者はチョードリー判事の復職と大統領の非常事態に抗議する意味も込めてたびたび街頭デモなどを企画してきた。
自爆テロはそういう人々を狙ったものなのだろうか、それとも警備に当たっていた警察官を狙ったものなのだろうか。目的によって大いに読みは変わってくる。もし、警察官を狙ったものだとすれば、これまで穏健だった、というよりもムシャラフ政権を支えてきた与党PML-Qの最大地盤でもあるラホールで、反ムシャラフの動きが始まった、と見ることも出来る。
反対に自爆テロは法曹関係者を狙ったものだった、とすれば、事態は深刻なものにならざるを得ない。なぜならば、それはムシャラフ派、すなわち当局が仕組んだワナなのだから。
飛行機は3時間遅れでサッカル空港を飛び立った。ベナジール・ブット暗殺後のパキスタンは、いよいよ「2月18日投票」という民意の発露に向かって騒然とし始めた。
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