■ネットが反米感情に火をつけた
韓国民の反米感情に火をつけたのは、ネット上に書き込まれたあるカキコミだった。燎原の火となって韓国全土に広がったカキコミはこんなふうに始まる。
『死んだ人の魂は〈ほたる〉になるといいます。光化門を私たちの魂で埋めましょう。光化門で、孝順と美善と共に数万の〈ほたる〉になりましょう。6月の、あの喜びのなかで忘れ去られていた孝順、美善を追慕しましょう。平和の光でアメリカの暴力を消しましょう』
文章を書き込んだ金岐保(キム・ギボ)さんは三十歳で塾の講師。パソコンの前に座りホームページ上の掲示板をクリックして、投稿したカキコミを見せてくれた。『六月の、あの喜び』というのは、いうまでもなく日韓共催のワールドカップ・サッカー大会で、ベスト4まで勝ち進んだ韓国チームの善戦ぶりのことを指している。
事故はワールドカップ一色だったときに起きていた。
「私もサッカーに酔っていて事故の記事は見ませんでした。熱が少しずつ冷めるに従って、ネット上には、少女たちのうつぶしたままの事故直後の写真やそれを見た人たちの怒り、それにアメリカ軍の捜査を批判したカキコミが増えていました。怒りは徐々に高まり始めていたんです」
掲示板への反応はすごかった。捜査から判決まで全てアメリカ軍中心に進められ、透明性がないのではないかという不満や、韓国人が立ち入る隙間がないままに、加害者が無罪放免とされてしまった悔しさであふれていた、という。
「事故の暴力性や捜査過程における韓国とアメリカの差、軍事裁判での判決に見られるように韓国人を見下したような姿勢、こういった現実に、私でさえ惨めさと怒りを感じたんです」
後にローソク集会と呼ばれることになる反米抗議運動は、この金岐保さんのカキコミをきっかけに広がっていった。
「殺人米軍、処罰せよ!」
「SOFA協定、改正せよ!」
「孝順、美善の恨みを晴らそう!」
「ジョージ・ブッシュは謝罪せよ!」
夕方6時ごろになると、ソウルの中心地、光化門交差点脇の広場に人々が集まり、ロウソクの火が揺れ、シュプレヒコールが夜空にこだました。
道路脇には300メートルほど先にあるアメリカ大使館へのデモ警戒のために、戦闘服姿の警察機動隊が乗った大型バス数台が陣取る。金岐保さんのカキコミをきっかけとしたロウソク集会は100回を超えた。
「哀悼の気持ちからです。それに韓国動乱(朝鮮戦争)以来ずっとアメリカ軍は駐屯してますが、国の主人は韓国なのにアメリカ兵らが起こした犯罪を一度も裁くことができない。こんな関係は変えて欲しいと思って参加しました」
OL風の若い女性はこのあとちょっと困った表情を見せたが、言葉を継いだ。アメリカ軍は韓国のために役立っていると思うかどうか、と質問したときだった。
「そうは思いません。確かに韓半島(朝鮮半島)は分断された国家には違いありませんが、いまでは逆にアメリカ軍の存在が統一の障害になっているんです」
年配者もロウソクの火に祈りを込めていた。朝鮮戦争を体験したという主婦は、一緒に戦ってくれたアメリカには感謝するが、といいながら、いまは怒りだけがある、といった。
「だってそうでしょう、アメリカ軍が事件を起こしても被害者への補償は半分を政府が持つ、それに軍人住宅では電気料を払わないとか、駐屯費用は無償だとか、事件が起きても政府はなんの関与もできない・・・、こんな不平等な地位協定はありませんよ」
様々な世代の人たちはたったひとつ、人は死んだらほたるに生まれ変わる、という説話を信じて集まっていた。そしてこの説話は多くの人々の胸に悲しみとともに、地位協定に守られたアメリカの優位性に対する怒りをも刻みつけているようだった。(第六回に続く)
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