戦争はどうすれば無くすることができるのか。
この問題を考える上で、興味深いニュースを目にした。
「ウクライナ政府のロシア兵に投降を促すプロジェクト『私は生きたい』は23日、ロシアに派遣された北朝鮮兵に対し、投降を呼びかける動画と文章をSNSに投稿した。ロシア語と朝鮮語で『他国で無意味に死ぬ必要はない』と訴えている。」
(朝日新聞DIGITAL10月24日配信)
北朝鮮の兵士は、本国では「ドングリ泥棒」をしなければならないほど
苦しく貧しい生活を強いられているという。
興味深いのは、ウクライナがこの北朝鮮の兵士たちに対して、
どういう呼びかけを行ったかである。記事は次のように続く。
「23日の動画では2階建ての捕虜収容所が映し出され、北朝鮮兵が『広く、暖かく、明るい部屋』に入れられると主張。肉や野菜を含む『1日3回の温かい食事』や『医療サービス』も与えられるという。『ウクライナの収容所は国籍や宗教、イデオロギーに関係なく受け入れる』とし、連絡先も記している。」
(同前)
なるほど。本国でかなり困窮した生活を強いられてきた
哀れな北朝鮮の兵士たち。
彼らはこのような「甘い水」の誘いを受ければ、
当座の「温かい食事」に目がくらみ、
銃器などうち捨てて、そのままウクライナ軍に投降しようという気になるに違いない。
そうなる可能性が高いとしたら、たしかにこれは上手い作戦である。
思わく通りに運べば、ウクライナ兵が北朝鮮兵を攻撃することもなくなり、
北朝鮮兵がウクライナ兵に攻撃を加えることもなくなる。
こうして無益な殺生は確実に減ることになるのだ。
北朝鮮の兵士たちにしてみれば、
国家元首・金正恩の気まぐれな「気晴らしへの意志」に翻弄されることがなくなり、
加えて、これまで以上に数段恵まれ、安定した食生活が保証されるのだから、
これほどうまい話はない。
この話に乗らず、殺(や)られるのを承知で敵陣に攻撃を仕掛けても、
何も見返りは期待できないのだから、
この誘いに乗らないのは、愚の骨頂である。
ーーこれは馬鹿でもわかる理屈だ。
考えてみれば、人類は「力への意志」(ニーチェ)に操られ、戦争へと駆り立てられる一方、テクノロジーを駆使して、戦死者を減らす知恵も発達させてきた。
今、ウクライナとロシアの戦場では、重火器を搭載した無人のドローンが飛び交っている。
ウクライナ軍もロシア軍も、無人のドローンを使って相手を攻撃することに余念がない。
無人ドローンのターゲットは今のところ生身の人間だが、これを迎え撃つのも無人ドローンである。
そう遠くない将来、戦場は無人ドローン同士の攻防の場になり、生身の兵士の死傷者は激減するに違いない。
旧日本軍の「特攻」作戦など
およそ正気の沙汰と思えない
過去の「アンビリーバボー」になる日が来るのだ。
こうした「テクノロジーによる戦場無人化の動向」とともに、
ウクライナが今回編み出した「甘い水」作戦も、
戦死者を減らすもう一つの妙手だと言えるだろう。
古今東西の歴史を見渡せば、
この「甘い水」作戦は、しかし今回が初めてのものではないことがわかる。
そこには、日本の戦国時代にしばしば見られた「調略」の戦術と共通の発想がみてとれる。
「天才軍師」として名を馳せた黒田官兵衛は、「調略」の名手だった。
ところで、ウクライナの「甘い水」作戦にしても、
黒田官兵衛の「調略」作戦にしても、
その成否の鍵を握るのは、事が秘密裏に行われるかどうかである。
ウクライナのようにSNSを利用し、大っぴらに事を仕掛けたのでは、
敵方(北朝鮮)の警戒心を徒(いたずら)に呼び覚まし、
事前に阻止される可能性が大きくなる。
北朝鮮はロシアに派遣した兵士たちに
「投降した兵士は、即刻射殺するぞ!」とか、
「投降した兵士は、本国内の親族を皆殺しにするぞ!」と
脅しをかけることで、ウクライナへなびこうとする兵士たちを
思いとどまらせようとするだろう。
「甘い水」作戦にしても、「調略」の作戦にしても、
事を成功させるには、内密にこれを行う必要があるが、
それだけでなく、
作戦のターゲットを
兵士個々人ではなく、部隊全体とし、
部隊の指揮官に話を持ちかける必要がある。
もっと言えば、個々の部隊ではなく、
(北朝鮮という)国家全体をまるごと抱きこむことが、
最高のシナリオだということになる。
つまり、北朝鮮の政府高官に種々の「甘い水」を提示し、
友好条約を結ぶように持ちかければよいのだ。
多少コストはかかるが、それだって大したことはない。
リアルな戦闘を行うとなれば、
そのために必要な武器を調達するコストは膨大なものになる。
それに比べれば、調略や抱き込みに必要なコストなど、物の数ではない。
これまでウクライナの最大の支援国だったアメリカは、
トランプが次期大統領に返り咲くことになり、
ウクライナへの支援は大幅に減額されると予想される。
その意味でも、安上がりなこの「甘い水」作戦は、
時宜にかなっていると言えるだろう。
さてさて問題は、実際の事の成り行きである。
現実に目を向ければ、ウクライナ軍と北朝鮮軍との間では
リアルな戦闘が行われ、
北朝鮮の兵士に相当の死傷者が出ているという。
実際に投降した北朝鮮兵士の数は、公表されていない。
ウクライナの「甘い水」作戦は、まだ戦況を左右するまでには至っていないのか・・・。
そんな疑念が頭をもたげはじめたとき、次のニュースに出くわした。
「ロシア国境付近で北朝鮮兵士18人集団脱走 派遣兵か 韓国紙報道
韓国紙の朝鮮日報は16日、ウクライナ軍高官の話として、ロシア西部ブリャンスク、クルスク両州のウクライナとの国境付近で、北朝鮮軍兵士18人が集団脱走したと報じた。ウクライナ軍は、脱走したのは北朝鮮が対露軍事協力の一環で派遣した兵士らで、まだ拘束されていないとみているという。」
(毎日新聞10月16日配信)
ウクライナの「甘い水」作戦はやはり着実に成果を上げていたのだ。
さ〜て、これから戦況はどう変化するのか。
今後の成り行きから目が離せない。
この問題を考える上で、興味深いニュースを目にした。
「ウクライナ政府のロシア兵に投降を促すプロジェクト『私は生きたい』は23日、ロシアに派遣された北朝鮮兵に対し、投降を呼びかける動画と文章をSNSに投稿した。ロシア語と朝鮮語で『他国で無意味に死ぬ必要はない』と訴えている。」
(朝日新聞DIGITAL10月24日配信)
北朝鮮の兵士は、本国では「ドングリ泥棒」をしなければならないほど
苦しく貧しい生活を強いられているという。
興味深いのは、ウクライナがこの北朝鮮の兵士たちに対して、
どういう呼びかけを行ったかである。記事は次のように続く。
「23日の動画では2階建ての捕虜収容所が映し出され、北朝鮮兵が『広く、暖かく、明るい部屋』に入れられると主張。肉や野菜を含む『1日3回の温かい食事』や『医療サービス』も与えられるという。『ウクライナの収容所は国籍や宗教、イデオロギーに関係なく受け入れる』とし、連絡先も記している。」
(同前)
なるほど。本国でかなり困窮した生活を強いられてきた
哀れな北朝鮮の兵士たち。
彼らはこのような「甘い水」の誘いを受ければ、
当座の「温かい食事」に目がくらみ、
銃器などうち捨てて、そのままウクライナ軍に投降しようという気になるに違いない。
そうなる可能性が高いとしたら、たしかにこれは上手い作戦である。
思わく通りに運べば、ウクライナ兵が北朝鮮兵を攻撃することもなくなり、
北朝鮮兵がウクライナ兵に攻撃を加えることもなくなる。
こうして無益な殺生は確実に減ることになるのだ。
北朝鮮の兵士たちにしてみれば、
国家元首・金正恩の気まぐれな「気晴らしへの意志」に翻弄されることがなくなり、
加えて、これまで以上に数段恵まれ、安定した食生活が保証されるのだから、
これほどうまい話はない。
この話に乗らず、殺(や)られるのを承知で敵陣に攻撃を仕掛けても、
何も見返りは期待できないのだから、
この誘いに乗らないのは、愚の骨頂である。
ーーこれは馬鹿でもわかる理屈だ。
考えてみれば、人類は「力への意志」(ニーチェ)に操られ、戦争へと駆り立てられる一方、テクノロジーを駆使して、戦死者を減らす知恵も発達させてきた。
今、ウクライナとロシアの戦場では、重火器を搭載した無人のドローンが飛び交っている。
ウクライナ軍もロシア軍も、無人のドローンを使って相手を攻撃することに余念がない。
無人ドローンのターゲットは今のところ生身の人間だが、これを迎え撃つのも無人ドローンである。
そう遠くない将来、戦場は無人ドローン同士の攻防の場になり、生身の兵士の死傷者は激減するに違いない。
旧日本軍の「特攻」作戦など
およそ正気の沙汰と思えない
過去の「アンビリーバボー」になる日が来るのだ。
こうした「テクノロジーによる戦場無人化の動向」とともに、
ウクライナが今回編み出した「甘い水」作戦も、
戦死者を減らすもう一つの妙手だと言えるだろう。
古今東西の歴史を見渡せば、
この「甘い水」作戦は、しかし今回が初めてのものではないことがわかる。
そこには、日本の戦国時代にしばしば見られた「調略」の戦術と共通の発想がみてとれる。
「天才軍師」として名を馳せた黒田官兵衛は、「調略」の名手だった。
ところで、ウクライナの「甘い水」作戦にしても、
黒田官兵衛の「調略」作戦にしても、
その成否の鍵を握るのは、事が秘密裏に行われるかどうかである。
ウクライナのようにSNSを利用し、大っぴらに事を仕掛けたのでは、
敵方(北朝鮮)の警戒心を徒(いたずら)に呼び覚まし、
事前に阻止される可能性が大きくなる。
北朝鮮はロシアに派遣した兵士たちに
「投降した兵士は、即刻射殺するぞ!」とか、
「投降した兵士は、本国内の親族を皆殺しにするぞ!」と
脅しをかけることで、ウクライナへなびこうとする兵士たちを
思いとどまらせようとするだろう。
「甘い水」作戦にしても、「調略」の作戦にしても、
事を成功させるには、内密にこれを行う必要があるが、
それだけでなく、
作戦のターゲットを
兵士個々人ではなく、部隊全体とし、
部隊の指揮官に話を持ちかける必要がある。
もっと言えば、個々の部隊ではなく、
(北朝鮮という)国家全体をまるごと抱きこむことが、
最高のシナリオだということになる。
つまり、北朝鮮の政府高官に種々の「甘い水」を提示し、
友好条約を結ぶように持ちかければよいのだ。
多少コストはかかるが、それだって大したことはない。
リアルな戦闘を行うとなれば、
そのために必要な武器を調達するコストは膨大なものになる。
それに比べれば、調略や抱き込みに必要なコストなど、物の数ではない。
これまでウクライナの最大の支援国だったアメリカは、
トランプが次期大統領に返り咲くことになり、
ウクライナへの支援は大幅に減額されると予想される。
その意味でも、安上がりなこの「甘い水」作戦は、
時宜にかなっていると言えるだろう。
さてさて問題は、実際の事の成り行きである。
現実に目を向ければ、ウクライナ軍と北朝鮮軍との間では
リアルな戦闘が行われ、
北朝鮮の兵士に相当の死傷者が出ているという。
実際に投降した北朝鮮兵士の数は、公表されていない。
ウクライナの「甘い水」作戦は、まだ戦況を左右するまでには至っていないのか・・・。
そんな疑念が頭をもたげはじめたとき、次のニュースに出くわした。
「ロシア国境付近で北朝鮮兵士18人集団脱走 派遣兵か 韓国紙報道
韓国紙の朝鮮日報は16日、ウクライナ軍高官の話として、ロシア西部ブリャンスク、クルスク両州のウクライナとの国境付近で、北朝鮮軍兵士18人が集団脱走したと報じた。ウクライナ軍は、脱走したのは北朝鮮が対露軍事協力の一環で派遣した兵士らで、まだ拘束されていないとみているという。」
(毎日新聞10月16日配信)
ウクライナの「甘い水」作戦はやはり着実に成果を上げていたのだ。
さ〜て、これから戦況はどう変化するのか。
今後の成り行きから目が離せない。