和貴の『 以 和 為 貴 』

鬼神を遠ざくと云う事を問ふ 石田梅岩


石田梅岩 『都鄙問答』より

■ 鬼神を遠ざくと云う事を問ふ

日本の神道と支那の儒教の違い

〈ある人が梅岩に問ふ。〉
わが国の神道と支那の儒教の道は、異なるところがある。『論語』(雍也篇)に、孔子が弟子の樊遅(はんち)に「鬼神(先祖の霊魂)を敬うが、遠ざけておく。これが知というものだ」(鬼神は敬して之を遠ざく。知と謂うべし)と告げたと書いてある。だが日本の神道はそうしない。支那も日本も神という呼び名は同じなのに、このような違いがあるのはなぜか。

〈梅岩が答える。〉
あなたは、わが国の神々(神明)については、どのように心得ているのか。

〈ある人が梅岩に問ふ。〉
わが国の神明は「慣れ親しんで近づくこと」を根本にしている。神から遠ざかるのは敬っていないことを意味する。よって、何かを望み願うことがあれば、願文を書いて神明に祈る。そして、その願いが成就した暁には、願状に記した神との約束を守って、たとえば、鳥居を立てたり社の修復を行ったりといったことを実行することになる。

このように、神々は人々の願いなどを受け入れてくださる。一方、聖人は「敬って遠ざける」といっており、両者間には雲泥の開きがある。このことからいえば、儒学などを好む者はわが国の神道に背いており、罪人とみなされるのではないか。

〈梅岩が答える。〉
いや、「敬って遠ざける」の意味はそういうことではない。外神を祭るときは、敬い親しむことを主とする。したがって、正しい道を外れた汚わらしい願いは遠ざけられる。先祖を祭る祭礼では、「孝」が主体なのだ。ただし、そうすることは、遠ざけることではない。敬って遠ざけるというのは、大きく間違えた解釈である。「神は、人間の非礼を許容されない」と『論語』(八佾篇)にあるように、非礼な願いを持って神に近づけば、不敬になる。不敬は、敬うことを遠ざけるという意味ではない。もしもあなたのいうとおりであるなら、願状に込めた祈願が成就したら、約束を守って必ず鳥居を立てたり社を修復したりしなければならないが、そうすることがわが国の神々を敬うことだというのか。

〈ある人が梅岩に問ふ。〉
そのとおり。

〈梅岩が答える。〉
それなら、ある人物を想定して問いたい。その人から「あなたの家の隣の娘を私の息子の嫁にしたいので、仲人を引き受けてもらえないか。礼はたっぷりはずむ。」といわれたら、屈辱を顧みず、仲人をするかどうか。

〈ある人が梅岩に問ふ。〉
そういう言い方は、人を見下している。金が目あての仲人など、やるわけがない。

〈梅岩が答える。〉
あなたにも羞恥心というものがあるから、辱めは受けないのだ。それなら、こちらから貴人にどうしても仲人を依頼したいときに、「このことを叶えてくださるなら、しかるべき金銭を差し上げたい」といえるか。

〈ある人が梅岩に問ふ。〉
貴人を軽くみた物言いだ。そんなこと、いえるわけがない。

〈梅岩が答える。〉
では、清浄な神への祈願の仕方についてだ。貴人に向かっていえないような義に反した言い方で「もしも願いが成就したなら、鳥居を寄進し、社の修復をさせていただきます」と祈願したら、受け入れるかどうか躊躇する浅ましい神が存在するだろうか。そういう神はいないと高をくくって非礼なものを奉納し、神を冒涜すれば、いつか神罰を受けるだろう。恐ろしいことだ。「心さえ人としての真の道に適っているなら、祈らなくても神は守ってくれる」という意味の北野神社の御神詠(心だに まことの道に かなひなば 祈らずとても 神やまもらん)もある。

支那に目を転じても、孔子が重病になったとき、弟子の子路が祈祷を打診すると、孔子は「私は、自分の行いを正すために普段からずっと祈っている。だから、病気になったからといって改めて祈ったりしない」(丘の祷ること久し)と答えたと『論語』(述而篇)は記している。



石田梅岩(一六八五 ~ 一七四四年)江戸中期の思想家。石門心学の始祖。丹波の人。本名、輿長。小栗了雲に師事。実践的倫理思想をわかりやすく説き、町人層に歓迎された。著書『都鄙問答』は、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助が座右の銘とした書である。


【 所 感 】

祈りとは、自らが実践して叶うものであり、神々に対し願うものではありません。まして崇高な祈りであればあるほどにその願いは儚いものとなりましょう。

神々への冒涜、不敬は許されぬ

まさに欲望だらけの現代社会を生きる人々が、忘れてしまった観念ともいえ、いま一度、真の祈りとはなんであるのかを問い正していかなければならない気がします。

平和ではなく平穏無事を祈る




(大阪・堺市 菅原神社 石田梅岩像)
今年の初詣は菅原神社へお参りさせていただきました。
現在は緑一色に塗装されておりますが・・・




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