和貴の『 以 和 為 貴 』

商人の道を問ふ 石田梅岩


石田梅岩 『都鄙問答』より

■ 商人の道を問ふ

「いい買い物をした」と思われる商品を売れ

〈ある商人が梅岩に問ふ。〉
私は、いつも品物を売ったり買ったりすることを生業としていながら、商人としての正しい道の意味をよく理解できずにいる。主にどんな点を注意して商人として世渡りしていったらよいのだろうか。

〈梅岩が答える。〉
遠い昔、自分のところで余った物を、不足している物と物々交換することで相互間に流通させたのが、商人の発祥(おこり)とのことだ。商人は、銭勘定に精通することで日々の生計を立てているので、一銭たりとも軽視するようなことを口にしてはならない。そうした日々をこつこつと積み重ねて富を貯えるのが、商人としての正しい道である。

その場合の"富の主人"は誰かというと、世の中の人々である。買う側と売る側という立場の違いはあっても、主人も商人の自分も互いの心に違いはないのだから、一銭を惜しむ自分が気持ちから推し量って、売り物の商品は大切に考え、決して粗末に扱わずに売り渡すことだ。そうすれば、買った人も、最初のうちは金が惜しいと思うようなことがあっても、商品のよさが次第にわかってくると、金を惜しむ気持ちはいつの間にかなくなるはず。金を惜しむ気持ちが消え、いい買い物をしたという思いへと自然に変わるのである。しかも、天下の財を流通させることで、世の中の人々の心や生活を安定させることにもつながるので、天地に季節がめぐって万物が生育するのと相通じるものがあるといってよいのではないか。

そのようにして富が山のように築かれたとしても、その行為を欲得というべきではない。青砥左衛門尉藤綱(北条時頼に仕えた鎌倉時代の武士)が、欲得からではなく、世の中のために一銭を惜しんで、川に落とした十銭を探させるために五十銭を費やした有名な故事の意味をよく吟味することだ。そのようにすれば、国のお達しである倹約令に適い、天の命にも合致して好都合で幸せになれるだろう。自分の幸福が万民の心を安心させることにつながるなら、それこそ、"世の宝"とでも呼ぶべきで、天下泰平を祈願するのと同じ効果がある。

いわずもがなのことではあるが、商人は、国の法をよく守り、わが身をよく慎まなければならない。商人といえども、人としての道を知らずに金儲けをし、しかも不義の金を儲けるようなことがあっては、やがては子孫が絶える結果を招きかねない。心底から子々孫々を愛する気持ちがあるなら、まず人としての正しい道を学んで家業が栄えるようにすべきであろう。



石田梅岩(一六八五 ~ 一七四四年)江戸中期の思想家。石門心学の始祖。丹波の人。本名、輿長。小栗了雲に師事。実践的倫理思想をわかりやすく説き、町人層に歓迎された。著書『都鄙問答』は、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助が座右の銘とした書である。


【 所 感 】

梅岩が生きた時代、まさに元禄文化の華咲く時代でもありました。関ヶ原の合戦から100年が過ぎ、庶民の暮らしも豊かになりつつはあっても、やはり現代日本のように"不義"が横行していた世であったといっても言い過ぎではないでありましょう。

なぜなら、梅岩はじめ多くの哲学者や思想家がこの時代に輩出された理由としては、大きな争いはなくとも世が乱れていたことの顕れであり、さらには学問の発達とともに広く庶民にまで拡大したものと考えられますから。

そして、この時代に培われた思想というのは、われわれ日本人の心として、いまも生き続けているのです。

金を貯えるのではなく、富を貯える・・・

筆者ごときが深く説明するまでもないと思いますが、日本人なら、すーっと心に染み渡るであろう名言なのかもしれませんね。




(大阪・堺市 菅原神社 石田梅岩像)
今年の初詣は菅原神社へお参りさせていただきました。
現在は緑一色に塗装されておりますが・・・




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