がんの局所再発に「凍結療法」という選択肢 マイナス40度で10~15分冷却、がん細胞を壊死させる
再発してもさまざまな治療の選択肢があるので気落ちせず相談を
【前立腺の最新医療】 前立腺がんと診断されても、手術や放射線治療で根治を目指すことは十分可能だ。しかし、悪性度が高いがんもあり、治療後から数年経って再発することも珍しくはない。放射線治療後の局所再発で、前立腺の中にがんがとどまっていても、前立腺を摘出する手術はあまり適用されないことを前回紹介した。局所再発のロボット支援下手術は難易度が高いため、ごく一部の医療機関しか行われていない。局所再発治療でも治療の選択は限られる。
「放射線治療後に再発すると、第1選択肢は、今のところ内分泌療法です。私たちは、身体状態によってはロボット支援下手術も適応していますが、治療の選択肢を増やしたい。そのひとつとして『凍結療法』(別項参照)も行っています」 こう話すのは、東京慈恵会医科大学泌尿器科診療副部長の三木健太医師。前立腺がん治療のエキスパートであり、2015年から前立腺がんの局所再発に対する「凍結療法」の臨床研究に取り組んでいる。
「内分泌療法は、長期間に渡る治療が必要になり、一定期間を過ぎると効果が失われます。また、性機能障害や骨粗しょう症などの副作用もあります。凍結療法は、それらのデメリットをカバーできると思っています」 凍結療法は、がん細胞に凍結用アルゴンガスを注入し、マイナス40度で10~15分冷却し、がん細胞を壊死(えし)させる治療法だ。前立腺を切り取る手術よりも体の負担が少なく、手術不適応の人でも凍結療法が適用になる可能性がある。 今世紀に入り、肝がん、腎がん、子宮がん、さらには、乳がんの局所がんに対する治療法として凍結療法の研究が進められた。三木医師は、2011年7月、保険収載された腎がんに対する凍結療法について臨床試験に参加。治療を行いながら思い浮かんだのが、前立腺がんへの応用だったという。2015年に国内初の前立腺がんの凍結療法をスタートし、前立腺がんの再発局所がんに対する治療実績を国内で最も多く持つ。ただし、現在は自費診療扱いとなっている。
「前立腺がんの局所再発は、ご高齢の方が少なくありません。体になるべく負担の少ない方法の一助として、将来的には、凍結療法の保険適用を目指しています」 凍結療法が保険適用になると、前立腺がんの最初の治療での選択肢の可能性も見えてくる。ただし、前立腺がんの局所にとどまるがんは、すでに放射線治療、手術、悪性度が低ければ経過観察(監視療法)と治療の選択肢が多い。 「限局性前立腺がんでは、密封小線源挿入治療が、手術や体の外から照射する外部照射と同等の効果があります」 三木医師は、密封小線源療法も得意としている。また、海外では新たな放射線療法も進展しているという。あす紹介する。
■凍結療法とは がん細胞に凍結用アルゴンガスを注入し、マイナス40度で10~15分冷却し、がん細胞を壊死させる治療法。特殊な尿道カテーテルに温水を流すことで尿道は保護する。全身あるいは局所麻酔下にMRI(磁気共鳴画像)を参考にしつつ、直腸から前立腺内を映す「経直腸超音波画像」でリアルタイムに確認しながら行う。手術よりも身体的な負担は軽減できる。