【社説・05.04】:核ごみ文献調査 議論をゆがめる国の対応
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.04】:核ごみ文献調査 議論をゆがめる国の対応
地域に圧力をかけるような姿勢は理解できない。国は申し入れを撤回し、町の議論を見守るべきだ。
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定について、経済産業省は第1段階である文献調査の実施を佐賀県玄海町に申し入れた。
文献調査は北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で2020年に始まってから、後に続く自治体が出ていない。候補地を増やしたい国は焦っているのだろうが、原発立地自治体である玄海町への申し入れは愚策である。原発政策で重要な国民の議論をゆがめかねない。
玄海町では今年に入り、旅館組合や飲食業組合など3団体が文献調査への応募を求める請願を町議会に提出した。請願は先月26日の本会議で、賛成多数で採択された。
九州電力玄海原発が立地する玄海町は原発政策と密接な関係にある。5月中とみられる脇山伸太郎町長の最終判断に申し入れが影響することは避けられない。
経産省としては、脇山町長が調査を受け入れやすい環境を整える狙いがあったのかもしれない。昨年、同様の請願を市議会が採択した長崎県対馬市では、市長の判断で調査が実現しなかった。その轍(てつ)を踏まないように先手を打ったと考えられる。
核のごみ問題に対し、玄海町の住民の理解はまだ広がっていないのではないか。請願を審査する町議会特別委員会は2回しか開かれなかった。脇山町長も住民説明会を開くつもりがないようだ。
長くても60年程度で運転を終える原発と、放射線量が下がるまで10万年近く地中で保管する核のごみの最終処分場では、役割や時間軸が全く異なる。将来世代や近隣自治体にも影響が及ぶ。
拙速に手続きを進めれば、地域の分断を招くだけだ。経産省の前のめりな動きは町に禍根を残しかねない。
そもそも玄海町は最終処分に適していない。国が17年に公表した科学的特性マップを見ると、玄海町のほぼ全域が「好ましくない特性」が推定される灰色で覆われている。地質に疑念がある地域で調査をするのは税金と時間の無駄遣いである。
このことは原子力発電環境整備機構(NUMO)が公表した北海道の2町村の文献調査報告書案にも通じる。
専門家が脆弱(ぜいじゃく)な岩盤特性を指摘したにもかかわらず、300メートルより深い場所のデータはないとして、2町村を第2段階の概要調査の対象にするという。調査をすることが目的化していないか。
一連の混乱は、岸田文雄首相が原発の積極活用へ方針転換したことに起因する。
首相は原発再稼働や核のごみ問題で「国が前面に立つ」と大見えを切ったが、一向に進展していない。国民の理解を抜きにしたままでは物事は進まない。まずは原発推進一辺倒の姿勢を改めるべきだ。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月04日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。