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この決算書・会計処理はおかしい(3) 

2005-08-25 | この決算書・会計処理はおかしい
今回はある繊維関係の会社の決算書です。

財務諸表注記の1つに「重要な会計方針」というコーナーがあります。
その中に「たな卸資産の評価方法及び評価基準」という項目があるのですが、
この会社では「主として最終仕入原価法により評価している」。
と書いてあります。マジですか?

最終仕入原価法とは、決算日に一番近い日に取得した資産の単価をもって、
全部の資産を評価するものです。
例で見てみましょう。

4/1  仕入 商品 250個  @100円
5/8  仕入 商品 200個  @150円
3/30 販売 商品  50個  
とあった場合、期末棚卸資産を400個×150円で評価します。

全ての商品の単価を決算日にもっとも近い日に取得した商品の単価に
個数を掛けるものでして、
上の場合4月1日で仕入れた時の@100は無視されてしまいます。


このことは、取得原価主義を逸脱していることになるので、
現行の会計制度では認められていませし、
株式公開の際の審査で間違いなくアウトになるはず。

ただし、食品スーパーの商品のように日持ちせず、在庫回転が早いもの等に
ついては例外的に認められているようです。
また、帳簿組織が未整備の中小企業でも法人税法上、適用が認められております。


さきほど「取得原価主義を逸脱している」と書きましたが、別の見方からすると
「利益操作しやすい」ということです。

売上原価①=期首たな卸資産②+当期仕入高③-期末たな卸資産④

としますと、今④の金額を求めようとするわけですが、仮に④の金額を
膨らまそうとするとしたら、どうなりますでしょうか。
仕入元と結託して、最終日に割高な価格で仕入ることができるとします。
そうなりますと、②③は一定としますと、④が大きくなれば、①は小さくなります。

売上⑤-売上原価①=売上総利益⑥

ですから、①が小さくなれば、⑤が一定としますと、⑥が大きくなります。

期末たな卸資産の額、ひいては利益を操作するうえで、
最終仕入原価法は非常に有効なのです。



さて、冒頭の繊維会社に戻ります。ここからは推理ゲームです。


これは私の邪推ですが、おそらくこの会社は
実際は最終仕入ではなく、別の適正な方法で評価していると思います。
でないと、監査法人はまず適正意見を出さないと思うからです。

だとすると次に、なぜ実際の基準で表示しないのかという問題が出てきます。
今変更すると「会計方針の変更」ということで注記をしなくてはいけませんし、
監査報告書の特記事項として記載されますから目立ってしまうのでしょう。


しかも、それを見て
「何で今まで最終仕入原価法で処理できたんだ!!」という、
私のような性格の悪い輩が出てくるかも知れません。


それでも、正直に修正しておいた方が良いと思いますよ。

蛇足ですが、この会社の監査法人はいろいろ話題を提供している
あの漢字4文字のところです。
もっとしっかりしてもらいたいです。
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