アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

後書きに代えて(三界の夢)

2017-02-28 14:52:37 | 文化
 三界の夢の主役の内に、一人だけ実在していた可能性が高い人物がいます。
 弟の明智光晴です。彼は良く明智秀満と混同為れますが、おそらく同一人物と
思われます。
 史料では秀満として書かれている事が圧倒的ですから、この先は秀満と表記
する事をお許し下さい。
 
 明智秀満は坂本城の落城で戦死したと伝わっていますが、かれには一つの挿
話が残されています。
 坂本城を逃れた秀満は四国に渡って、土佐で坂本と性を代えて鄕士になった
という伝説です。
 その坂本氏の子孫が、・・・もうお分かりですよね。
 そうです、幕末の風雲児・坂本龍馬です。
     2017年2月28日    Gorou

三界の夢 そのⅩⅥ ときは今

2017-02-27 08:57:14 | 物語
そのⅩⅥ ときは今

 光秀は京都御馬揃えの前年には、丹波、丹後国を平定し34万石を領する大大
名に成っていた。
 光秀の戦振りと言うのは調略を主とする物で、城を囲んで果敢に攻めたり、
平原で決戦するなどというのは、どちらかというと苦手としていた。現に何度
か敗戦の憂き目に遭った。
 それでも信長は光秀を使い続けた。光秀の粘り強い戦振りを高く評価してい
たからだ。
 信長が信頼していた軍団長は秀吉と光秀の二人であった。
 
 天正10年(1582年)、信長の天下布武は大詰めを迎えていた。
 秀吉は毛利攻めに粗目途を立てていたが、あえて信長に援軍を哀訴してき
た。猿と呼ばれた秀吉一流の処世術である。

 5月、徳川家康饗応役だった光秀は任務を解かれ、羽柴秀吉の毛利征伐の支
援を命ぜられた。
「日向、毛利征伐の荷担にあたり、丹波・丹後の所領は没収致す。余も直ぐに
参るゆえ、猿と心を合わせて余の到着を待て、一気に毛利を屠り、その勢いで
お前は九州を攻めよ。九州は攻め取り次第である。二百万石も夢ではないぞ」
 
 その月の末、愛宕山五坊の一つである威徳院で、明智光秀、連歌師・里村紹
巴、威徳院住職・行祐らによって百韻が詠まれた。後に愛宕百韻として知ら
れ、光秀研究の要とも言われる連歌の会であった。

 発句は光秀。
「ときは今 あまが下なる 五月かな」
 行祐が二の句で受けた。
「水上まさる庭の夏山」
 さらに、里村紹巴が三の句へと継いだ。
「花落つる池の流れをせきとめて」

 光秀が時と詠んだのか、土岐と詠んだのか、未だに謎である。
 土岐と詠んだなら、土岐源氏の光秀が平氏の信長を討って、朝廷から征夷大
将軍を拝命される。という意味に成る。
 二の句と三の句で、二人共苦境を推し量って光秀を励ましている様にも受け
取れます。
 挙句で、光秀の長子光慶がこう詠んだ。 
「国々は 猶のどかなるころ(国々がのどかに治まる太平の世をもたらしてく
ださい)」
 此の頃には光秀の決意は固まっていたのか、晴れやかな笑顔で一同を見回し
た。

 6月2日早朝、光秀軍団は播磨に向けて出陣する。
 その途上の亀山城内で全軍に下知が下された。
「我らは、毛利討伐で無く、堺の徳川家康を討てとの上様よりの急使が来た。
敵は堺に有り」
 明智の武将達の意気は余り上がらない、家康討伐の真意が図りかねたのだ。
 だが、一部の重臣達には光秀の本心が明かされていた。

 赤揃いの騎馬隊三百にも、隊長火によって知らされていた。本能寺の信長を討つ
事を。
 皆、武田家の仇を討つと息巻いていた。
 そこへ、火が合流した。
 今日の火は、甲冑姿では無く、青苧の縮れ織りで編まれた真紅の忍び衣装
に、結い上げた髪を、紅い鉢金をキリリと巻き、胸には漆塗りの金箔で編まれ
た鎖帷子が、煌めいていた。
 三姉妹はこの日は、忍び衣装で挑むと決めていた。
「なんじゃ、葬列のようではないか。者ども我に続け! ウオーッ!」
 速駆ける火、一党は隊長に続き、鬨の声を上げた。
「ウオーッ!」
 殿を進んでいた赤揃いの騎馬隊が、瞬く間に全軍の先頭に躍り出ていた。
 その頃には、騎馬隊の意気が明智軍の将兵に行き渡り、行軍は弾みを増し
た。

 申の刻( 午後3時)を回った時、丹波屋に信長が寄越した籠が着いた。
 芳一を本能寺に迎える為だ。
 盲目の琵琶法師の盛名は信長の知るところと成り、今宵琵琶語りの宴が本能
寺境内で開かれる事と成った。
 ヨシとヨシコが芳一の両脇を支え、林が引き継いで籠に導いた。
 母と娘は籠が見えなく成るまで佇み続けた。
「お母様、酔芙蓉の花があの様に色づいてまいりましたわ」
 娘の視線の先を見る母、確かに朝よりもその花びらは赤みが差増していた。
希望なのか哀しみなのか分からなかった。

 茶室に入って正座するヨシ。
 ヨシコも母の前に正座をした。
「お茶を点てましょうか? お母様」
「いいえ、あなたにお話が有ります。誰にも聞かれないように茶室にしたので
す」
「そんなに怖い顔をして。なぁにお母様」
「ヨシ、あなたは光晴様をどうお思い?」
「愛おしく思うております」
「あなたがどんなに慕っても、一緒にはなれませぬぞ」
「辨えております。わたくしはいっかいの夫人でも構いません」
「正室はおろか夫人にも成れませぬ」
「お母様何故で御座います?」
 ヨシコの顔は衝撃で青ざめ、眼には涙が給って、今にも零れてきそうだ。
「嘘! ごしようだから嘘と仰って下さい。余りにも惨う御座います」
 大きく顔を左右に振るヨシ。
 それを見て、ヨシコは膝を崩して泣き崩れてしまった。
 ヨシも又項垂れ、零れてくる涙を懸命に堪えた。
 母は、娘の思うがままに泣かせた後、優しく声を掛けた。
「顔をお上げなさい」
 顔を上げるヨシコ、涙でくしゃくしゃに成っていた。
「涙を拭きなさい。そして母の話に耳を傾けるのです」
 懐紙で涙を拭い、もう何を聞いても驚かぬ覚悟の眼差しを母に向けた。
「先ほどお見送りした、あの法師殿は、・・・」
 言いかけて声を詰まらせるヨシ。
「あの琵琶法師殿は、・・・あなたの上の兄、わたくしの長男です」
「ええっ! 嘘! でしょう?」
 驚かぬ決意が不意になった。
「産みの母がなんで我が子を見誤りましょう」
「あのお方が、眼が見えないのはわたくしに、その眼を下さったからで御座い
ましょうか?」
「或いは? 優しい思いやりの有る子でしたから」
「ああっ、何故今に成って言うのですか? いっそ、口を閉ざして呉れれば良
いのに」
「あなたと共に、哀しみを分かち合う為です。あの二人は、修羅場と成る本能
寺に行ったのです」
 ヨシは二人の無事を祈り手を合わせて神仏に縋った。
 ヨシコは狂ったのか? 藻掻き苦しんで、狭い茶室を転げ回った。
 青苧の衣が解けて花が散り、長い帯が大蛇の如く、か細い腰を締め上げた。
「あなたは、光晴が生きて戻ったら、正室にも夫人にも成れぬが、明智家を影
に日向に支えるも良し。芳一が無事で戻ったら、法師の眼となって生きるも良
し」
 ヨシコが、大蛇の鎌首を掴んで、よろよろと立ち上がり、涙の涸れ果てた眼
で、恨めしそうに母を見詰めた。
「お母様は、どう為さるのです?」
「わたくしの心は固まっております。芳一の眼となって、諸国を行脚する所
存」
「ああ、ああ、わたくしはどうすれば良いのでしよう? 兄とは言え愛おしき
方のお側で生きるか? わたくしに眼を下さった優しいお兄様の眼となって、
万分の一でもご恩をかえすのか?」
 ヨシコは、哀しみの余り、大蛇に飲み込まれて、気を失ったて倒れ込んだ。

    2017年2月26日   Gorou


三界の夢 そのⅩⅤ 本能寺

2017-02-25 18:06:43 | 物語
そのⅩⅤ 本能寺

 京都御馬揃えの前日も当夜も、信長は本能寺に宿泊した。
 以後も京に出るときは、必ずと言って良いほど本能寺に泊まった。警護の侍
は百人程だった。
 本能寺は寺とは言え、塀は高く、堀や土塁を築いて、小さな砦と変わらぬ防
備力を持っていたのと、京の治安が良かったから、信長は本能寺が襲われよう
とは夢にも思わなかった。

 年が明けた正月の中頃、丹波屋が本能寺の信長に年賀の挨拶に参上した。
「いつもながら気前が良いの、丹治屋」
「手前どもが安心して商売に励めるのは、上様あっての事で御座います」
 平伏していた丹波屋が僅かに顔を上げて信長を拝謁した。
 信長は胡座をかいて、両腕を膝当てに置いていた。自然と信長は横目で丹波
屋を見る事になった。
「許す、面をあげよ」
 丹波屋はようやく顔を上げたが、後ろに控えている三人の娘は平伏したまま
だった。
「丹波屋、お前の後ろに控える女達は耳が聞こえぬのか?」
「上様を直接拝顔する等恐れ多い事と躾けて参りましたので、容易には顔を上
げませぬ」
 信長は益々顔が見たくなった。
「では命じる。戦場での下知と心得よ」
 一番年若の娘が顔を上げて信長を直視した。
 隣の娘が袖を引きながらもやや顔を上げた。
「名は?」
「楓、・・・と申します」
 信長が睨めば、その倍の眼力でその娘は睨み返した。
 苦笑を浮かべる信長。
「丹波屋、これで躾けられておるのか?」
「はい、わたくしの実の娘として養育をし、行儀作法から四書五経まで仕込ま
れた、才色兼備の娘達で御座います」
 風が上体を起こし、背筋を伸ばして信長を優しい眼で見詰め、微笑みを浮か
べた。
 続いて林も顔を上げたが、その眼は信長を怖れていた。
「わたくしは蒼ともうしあげます。尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます。嬉し
ゅう御座います」
「わたくしは翠と申します」
 林の声は震え、その後が聞こえなかった。
 ためかどうか、信長が更に身を乗り出して三人を見詰めた。
 見詰めて小首を傾げた。どこかで見た事があるような気がしたのだ。
「丹波屋、その風変わりな娘達をわしに呉れると言うのか?」
「滅相も御座いません。安土の上様に仕えさせるには身分が違いすぎます。本
能寺に来られた時だけ、この三人を追い使って下さいませ」
「ふーむ。良きかな。抹香臭い坊主と薹の立った小姓共の顔も見飽きた。たま
にはそれぞれに咲き様の違う華を愛でるのも風雅」

 こうして、三姉妹は本能寺で信長の身の回りの世話をする事となった。
 ようやく敵の懐に飛び込んだのだ。

 信長は三姉妹を気に入ったようだ。特に凜とした美しさと優しさを持つ蒼に
はご執心だった。
 翠の淑やかさと細やかさも捨てがたく、一番若い楓はじゃじゃ馬で、時には
無礼なことを平気で言ったりするのが可愛いと思えるのである。
 信長は三姉妹を自分の侍女、いや、娼とさえ思っていた。いずれは三人とも
抱くつもりであった。
 二月に入って直ぐ、風が夜伽を命じられた。
「風よ、絶好の好機では有りませんか」と、林。
「飛んで火に入る夏の虫。生意気な奴じゃ、始末してしまおう」と、火。
「林よ、火よ、それで良いのだろうか? 我らは二人のお屋形様の敵を討つた
めに今まで艱難辛苦を嘗めて来た。寝首を掻けば、信長という男の命を奪うだ
けのこと。わたしは信長の取った天下をひっくり返したいのじゃ」
 取りあえず準備だけはして様子を見ることにした。

 その夜、風が信長の寝所の襖越しに声を掛けた。
 勿論、身体の隅から隅まで囚人が如く調べられていた。
「上様」
「誰だ?」
 中から信長の声がした。
 誰だ、はないでしょうと、風は少し腹を立てて再び声を掛けた。
「上様、お申し付けに従い、参りまして御座います」
「おお、そうであるか。許す、襖を開けて中に入れ。廊下では寒かろう」
 中は温かい、というよりは熱かった。
 信長は肌着の上から丹前を羽織り、大火鉢を抱え込んでいた。余程の寒がり
なのだろう。
 蒼を見た信長の顔が綻んだ。
「そこではまだ寒かろう。近くによって、そなたも火鉢に当たれ」
 蒼は膝を滲ませ、両手を火鉢に掲げた。
「上様は、お寒いのはお嫌い?」
「大嫌いじゃ」
「そなたは?」
「わたくしは、寒いのも暑いのも平気で御座います。真夏でも汗一つ掻きませ
ぬ」
「嘘を申せ、確かめるぞ」
「まあ、嬉しぅ御座います。夏までご寵愛を頂けるのですね」
「今の所その気だ。ところで、寒がらぬのはそなたの身体が温かいからか?」
「さあ、お試しになっては?」
「うむ、ならば裸になれ」
 行燈の火を消そうとする蒼。
「成らぬ、消しては成らぬ」
「上様、ご趣味が悪ろう御座います」
 風は、そう言いながらも、さらりと肌着を脱ぎ捨てて裸になった。
 悪びれること無く凜として立っていたが、それでも右の懐で乳房を隠し、左
の手のひらで前を隠した。
 無遠慮な信長の目が蒼の肉体を這いずり回った。
 視線に堪えかねた風が頭を激しく振ると、束ねていた豊かな乱れ髪が上半身
を隠した。
 あとは両手で大事な所を覆った。
「蒼よ、布団の上に仰向けで寝よ」
「はい、でも上様、行燈だけは堪忍」
 素直に行燈の灯りを落とす信長、丹前のまま蒼の上に覆い被さって来た。
 力の限りで蒼の肉体をかき抱く信長。
「そなたの身体は温かい。本当に温かい」
「上様が火をお付けになったから」
「憂いことを言う。哀しく思うぞ蒼」
 蒼の肉体、乳房から乳首、そして腹を這って下半身へと愛撫する信長の手
は、思いの外優しかった。
 信長の手が女陰の入り口に差し掛かろうとした時、天井の隙間から忍刀がス
ルスルと降りて来た。林と火が天井裏に潜んでいたのだ。
 眼前の忍刀を見詰める風の眼が霞んできた。
 信長の手が女陰を愛撫し、指が中に入ってきたのだ。
「ああーっ」
 思わず嗚咽を漏らす風。こんな事は初めてだった。常は、風が男を意のまま
に操って、思うがままに果てさせていたのだ。気をいかされた経験が無かっ
た。だけに激しく肉体が反応してしまった。
「上様、・・・上様」
 狂おしく顔を振り、快感に頬を紅潮させる風の肉体が炎のように燃え上がっ
た。
 風の眼前に有った忍刀がスーッと天井に上がって行き、やがて消えた。

 三月、四月、五月に成っても、信長の蒼への寵愛は止むことは無く、益々愛
おしさを増していった。愛撫に敏感に反応する肉体をも慈しんだ。
 ある夜、寝床で蒼が信長に聞いた。
「なぜ、林と火には伽を命じないのですか?」
「あれたちはそなたの実の妹であろう。わしはそれ程悪趣味では無い」

 風の様子がおかしいので、林と火が森林の中でひそひそ話をしていた。
「風は大丈夫だろうか?」
「心変わりをしていたなら、いっそわしら二人で片付けてしまおう」
 突然、風が木の上から降ってきた。
「林よ、火よ、懸念は無用。機会を伺っているだけじゃ」
 と言い放つと、風のように走って行った。
 風は走りながら、思わずも腹部を撫でていた。覚悟は変わらぬが、思わぬ不覚
を取っていたのかも知れないと案じていた。

   2017年2月25日   Gorou

光子さん、グラミー賞お目出度う

2017-02-23 21:37:45 | クラシック音楽
 内田光子さんが59回グラミー章クラシック部門で受賞しました。
 今日はそれを記念してお話をしたいと思います。

 内田光子さんは、ジェフリー・テイトとイギリス室内管弦楽団とモーツァル
トのピアノ協奏曲全集を出していて、最高の評価を得られています。
 わたしも大多数を聴きましたが、残念ながら全てでは有りません。
 この全集では曲により評価が分かれています。良いか悪いかでは無く、こう
いう演奏、解釈有りや否かについてです。
 光子さんは引き振りで何曲か再録音しており、絶賛されておりますが、わた
しはまだ聴いていないので、・・・
 今日のテーマは、モーツァルトでは無くベートーベンです。

 2013年、内田光子はBBCプロムに出演しました。指揮マリス・ヤンソンのバ
イエルン放送管弦楽団で、曲がベートーベンピアノ協奏曲四番でした。
 この曲は、協奏の部分が少なく、ピアノとオーケストラがテーマを受け渡
していくスタイルをとっているため、ピアノと指揮者とオーケストラの関係が
微妙に演奏に影響を与えてしまいます。
 間違えるとバラバラに成ったり、バトルに陥ったりしてしまいます。そう成
らぬ為に、従来は感情をコントールした端正な演奏が多い曲です。ポリーニ・
アバド・ルーツェルンのライブがその代表です。
 
 内田光子とヤンソンスは既成概念に挑戦します。
 ピアノに座った光子の様子が尋常では有りませんでした。自ら心を奮い立た
せ、昂揚した顔が苦痛に歪んでさえいます。今にも涙が零れてしまいそうで
す。
 気持ちを静めてヤンソンスに合図を送り、鍵盤の上に両手を置く光子、指に
全身の力が込められていますが、・・・穏やかなピアニッシモで語り始めまし
た。
 ヤンソンスとバイエルンが絶妙のタイミングでピアノのテーマを受け、大ら
かな表情で、ピアノと観衆む包み込んでいきます。
 ピアノは時には端正に、優しく、そして美しく、煌めく輝きを醸し出してい
ます。
 第一楽章が終わると、光子さんは涙を拭い、気持ちを静めてからピアノに向
かい、指揮とオーケストラとピアノはお互いの音に耳を傾け、美しいハーモニ
ーを紡いで行きます。
 いよいよ第三楽章です。
 光子は昂揚を必死に押さえてピアノに向かいます。かなり速いテンポの楽章
なので、感傷に浸っている場合では有りません。
 それでも、彼女の弾くピアノは、指の先まで繊細に神経を研ぎ澄まして美し
い音を出していました。決してバリバリと演奏技術に溺れるような音は一つと
して出しません。
 
 演奏が終わった後、観衆からの拍手に、やっと恥ずかしそうに微笑んだ内田
光子がヤンソンスと抱擁を交わします。
 弦楽奏者は皆、弓を上下に振っています。彼等にとって、それはブラボーと
叫んでいるのと同じ事なんです。

 この夜のアルバートホールの観衆が羨ましいですね。滅多に聴けない、魂の
限り、命を尽くした、名演奏に出会えたのですから。

 因みに、内田光子が59回グラミー賞に輝いたのは次の演奏です。

シューマン:≪リーダークライス≫≪女の愛と生涯≫/ベルク:初期の7つの歌
内田光子,レシュマン(ドロテア)
ユニバーサル ミュージック


   2017年2月23日   Gorou

悪魔のエイミ

2017-02-22 02:22:27 | 映画
 アメージンク・エイミーは悪魔のエイミだった。
 エイミ・エリオットは、自伝的な小説【アメージング・エイミ】を書き続
け、アメリカ中の人気者で、ベストセラー作家となった。
 エイミはパーティで知り合った男、ニック・ダンと結婚する。
 ニックはクソライターだったが、エイミは外観だけで彼に惚れ、ニックはエイミ
の知性と美貌に強く引き付けられたからだ。
「くそエイミーがくそニックと結婚した」。エイミーは独白し、日記に書く。
 ニックは職を失い、故郷のミシガンで一卵性の妹とバーを開く、エイミの金
でだ。それも赤字。ニックはエイミーのひもに成り果てた。

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 結婚五週年目の朝、エイミーが消えた。大量の血を拭った跡、ニックは警察
に通報。血はエイミーのものだった。警察は殺人と誘拐で操作を開始する。
 この事件は悪魔のエイミの自作自演だった。駄目夫ニックの仕置きの為だ。
 ニックは次々とエイミの罠にはまる。
 エイミ捜索会見で、カメラマンに笑ってと声を掛けられた時、にやついた顔
を見せ、妻が妊娠(これも罠)していてたに関わらず若い娘、それも教え子と
情事に明け暮れていた事もバレ、暴力を振るっていたことも日記に書か
れ、「わたしは殺されるかも知れない。・・・用心の為拳銃を手に入れた」
とも日記に書かれていた。
 その日記は暖炉の中から少し焼けた、不自然な形で発見された。

 この映画【ゴーンガール】はめまぐるしく展開して、ニックと観客を翻弄す
る。悪魔のエイミの罠にはまって行くのだ。
 ニックは全米から嫌われ、このままでは、殺人罪で刑務所行きだ。
 ここからニックの反撃が、敏腕弁護士を雇って始まる。
 
 ニック役のベン・アフレックが演技とは思えないほどだめ男になりきってい
る。エイミ役のロザムンド・パイクは完璧に悪魔を魅惑的に演じきって見せ
た。
 最初は自殺する事で、ニックを死刑に追い込む計画を立てていたエイミだっ
たが、小さな事件で手違いが起こり、気紛れくそエイミの気が変わり,血だら
けの姿で自宅に帰ってくる。幼なじみのストーカーの魔手から逃れて来たの
だ。真実はその男の愛を利用して殺したあげく、誘拐されて強姦を装ったのだ。

 【ゴーンガール】のおもしろさは中々語り尽くせない。第一級のサスペンス
映画である事は確かだ。
 完璧なエイミ、悪魔のエイミ。それでも男というものは彼女に魅せられる。
   2017年1月23日    Gorou