まんぼ~&ポパイ(学園編)

2023年05月01日 | その他

俺はクラスの仲間からポパイと呼ばれている。

俺の通う高校では、生徒にある程度の自由が認められており、そんな
校風が自分に合っているので、それなりに学生生活を楽しんでいる。

しかし、ある日を境にクラスの様子は一転した。

この学校では、既に社会人となった卒業生が、1ヵ月だけ担任の先生
になるという、少し変わった制度があるのだ。

そして、我が3年4組の担任になったのが、まんぼ~先生。

まんぼ~先生も卒業生であり、普段は南国リゾートが専門の旅行会社
で勤務しているらしい。

キーンコーンカーンコーン♪



ガラガラ。 よし、ホームルームを始めるぞ。

おい、ポパイ。何度言ったら分かるんだ。サッサとピアスを取りなさい。

「なんで俺にだけ注意をするんだよ。森口もやってるじゃねーか」
「森口もピアスを取るなら分かるけど、俺だけが取るのは嫌だね」

森口はピアスが似合ってるからいいんだ。

ついでに、そのプリンみたいな頭も、来週までに黒に染めてこい。

「それだったら、山脇のカキ氷みたいな頭も注意してくれ」
「半分だけブルーで半分だけピンクの頭なんて、そっちはいいのかよ」

「山脇がカキ氷をやめるなら、俺もプリンをやめる」

山脇君のお母様はPTAの副会長をされており、我が校に多大な寄付
をして下さっている。

食堂が綺麗なのも、野球部がマイクロバスを使えるようになったのも、
全て山脇君のおかげ。 だから、カキ氷でも許されるんだ。

山脇君が自分と同じ立場だと思うなよ。

(このような理不尽が常態化しているが、この程度には慣れてきた)



それから、先週の英語のテストでカンニングをした生徒がいる。

やってくれたな、ポパイ。 正直に言えば穏便に済ませてやるぞ。

「やってねーよ。 英語は苦手だから、最初から捨ててるんだ」
「俺がカンニングをしたという根拠があるなら出してくれよ」

点数を見れば、カンニングをしたとしか考えられないじゃないか。
お前が8点も取れるわけがないだろ。

「なんで8点で疑われるんだよ。 90点や100点ならまだしも」
「100歩譲ってカンニングをしてても、8点なら見逃してくれよ」

追試をしても無駄だろうから、俺のバイクをピカピカにすれば、英語
の先生に合格にしてもらえるようにお願いしてやるぞ。

(クソっ、単純に自分のバイクを俺に洗わせたいだけじゃないか)



それとな、駐車場に停めてあった教頭先生の車に傷が付けられた。

教頭先生が被害届を出すか迷っているが、出した場合は学校に警察
が来るから、みんな帰るのが遅くなるぞ。 覚悟しておけよ。

「なんだよ。学校に警察なんか呼ばなくていいって」
「まるで、生徒の中に犯人がいると疑ってるみたいじゃないか」

「それに、もう事件は解決してるぜ。俺は見てしまったんだよな」
「昼休みに、まんぼ~先生が駐車場の近くをウロウロしていたのを」

「警察に頼らなくても、この学校には名探偵ポパイがいるんだ」

「バイクで学校に来てる先生が、駐車場に行く用事なんてないだろ」
「教頭先生の車に傷を付けた犯人って、先生じゃねーの?」

馬鹿なことを言うな。 俺はまだやってない。
どれが教頭先生の車なのか、入念に下見をしていただけだ。

(まだやってないって。 やるつもりだったんだな)



最後に、月曜日に9組の生徒の靴が盗まれた。

体育館でバスケットの授業を終え、教室に戻ろうと思ったら、靴箱
からスニーカーがなくなっていたそうだ。

全てを話して楽になろうぜ、ポパイ。 今ならまだやり直せるから。

「フンっ、まんぼ~先生よ、今回ばかりは残念だったな」
「俺は月曜日は学校をサボってたから、靴を盗めるわけがないぜ」

「目の前にある出席簿を確認すれば、それくらい直ぐに分かるだろ」

「1日中バイトをしてたから、バイト先に確認をしても構わないしな」
「アリバイが成立ってやつだ。なんでも俺を犯人にするなよ」

なるほどな。学校にいなかったポパイが、靴を盗めたわけがない。

それでも犯人はお前なんだ!

(もうダメだ。 学校に警察を呼んでくれ)



俺は靴泥棒の犯人にされて停学になり、出席日数がオーバーになる
ギリギリの状況になったが、なんとか卒業はできた。

卒業してから月日が経つが、社会人になってみると、自分の思い通り
にならないことや、理不尽なことだらけじゃないか。

自分が正しいことを言っても、そんな意見は吸い上げられない。
適当にサボってるヤツの方が、上司に可愛がられて出世していく。

今にして思えば、あの先生は自分が嫌われ者になることを覚悟をした
うえで、社会の厳しさを俺に教えてくれていたのかも知れない。

まんぼ~先生。ありがとうございました。

って、思うかっ!



キーンコーンカーンコーン♪

ガラガラ。 ヨシ、ホームルームを始めるぞ。

おい、リンダ。 そのマルゲリータみたいな頭を黒に染めてきなさい。
なんだそのヘアスタイルは。 ピザにでもなったつもりか。

「ポパイ先生、それなら山脇の親子丼みたいな頭も注意してくれよな」
「山脇が親子丼をやめるなら、俺もマルゲリータをやめる」

山脇様の御婆様は、お前が生まれる前から本校に多額の寄付をして
下さってる。

駐車場の防犯カメラも、体育館の靴箱にカギが付いているのも、全て
山脇様のおかげ。 だから、親子丼でも許されるんだ。

気軽に呼び捨てにするな! 頭が高いんだっ!

山脇様が自分と同じ立場だと思うなよ・・・。




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