セレンディピティ ダイアリー

映画とアートの感想、食のあれこれ、旅とおでかけ。お探しの記事は、上の検索窓か、カテゴリーの各INDEXをご利用ください。

とらわれて夏 / 愛しい人からの最後の手紙 / 灰

2024年04月13日 | 映画

最近すっかり劇場に足が遠のいてしまって... NETFLIXで見た恋愛映画3作品の感想です。

とらわれて夏 (Labor Day) 2013

ケイト・ウィンスレットとジョシュ・ブローリン主演。ロマンスあり人間ドラマあり、スリリングな展開もあってとてもおもしろかったです。主演の2人の演技はさすがの一言で、息子役の少年のデリケートな演技もすばらしく、心に残る作品でした。

離婚してシングルマザーとなったアデル (ケイト) は、無気力に毎日をすごしていましたが、優しい息子のヘンリーは、いつも母を気遣い、寄り添っていました。そこに、逃亡中の脱獄犯フランク (ジョシュ) が入り込み、ひょんなことから匿うことになってしまいます。

最初は恐怖に震えるアデルでしたが、フランクが料理を作ったり、荒れ放題の家を見かねて修繕したりしていく中で、いつしか3人の間に疑似家族のような関係が生まれます。アデルは愛を求めていたし、年頃のヘンリーにはよき父親が必要でした。

そしてフランクもまた、過失から家族を殺めた過去を悔い、アデルたちと人生をやり直したいという希望が芽生えたのだと思います。夏休みが終わり、新学期が始まる日に、フランクとアデルは国境を越えカナダに逃亡する計画を立てますが...。

***

料理を作ってみんなで食べる。住居をきちんと整える。そういう当たり前のことがいかに大切か、ということに気づかされました。フランクが作るチリビーンズやピーチパイのなんておいしそうなこと! 作りながらアデルと手が触れるシーンは、なんだかとても官能的でした。

ヘンリーはアデルの幸せを願っていたけれど、逃亡する時に自分は置いていかれると思ったのでしょうね。だから自分も連れていってもらえると知った時はどれほどうれしかったことでしょう。

原題のレイバーデイは9月の第1月曜日で、アメリカではこの日が夏休み最後の日で次の日から新学年がはじまります。フランクが作ってくれたピーチパイが、後日譚に生かされていたのも心憎かったです。

愛しい人からの最後の手紙 (The Last Letter from Your Lover) 2021

記者のエリー (フェリシティ・ジョーンズ) は、資料の中から偶然見つけた古いラブレターに興味を持ち、その後の結末を調べ始めます。そこには50年前の若き貴夫人ジェニファー (シェイリーン・ウッドリー) と、新聞記者アンソニーとの禁断の恋がつづられていました...。

フェリシティ・ジョーンズと、シェイリーン・ウッドリーが好きなので、楽しみにしていました。ジェニファーはいわゆる良家の奥様ですが、しょせんは夫のお飾りで、社交の場で自分の意見を言うことさえ許されない。

自由な思想をもったジャーナリストのアンソニーに惹かれたジェニファーは、彼と逢瀬を重ね、やがて彼とともにニューヨークに逃げようとしたところ、自動車事故に遭って記憶喪失になってしまう、という物語。

ありがちなストーリーですし、しょせんは不倫と思ってしまって、あまり共感はできなかったのですが、映画を彩る60年代?頃の雰囲気と、シェイリーン・ウッドリーのゴージャスでクラシックなファッションの数々が楽しめました。

 (Kül / Ashes) 2024

トルコといえば、イスタンブールのマーケットがよくアクション映画の舞台になりますが、トルコでふつうに暮らす人たちの映画は、そういえば見たことがないかも、と思って見てみたくなりました。出版社を経営する夫と何不自由のない暮らしをしている妻が

自宅に送られてきた小説の原稿を読んでいくうちに、小説のモデルと思わしき男性を見つけて、彼にのめりこんでしまう...という、これまた不倫の物語でした。正直、彼の魅力がよくわからなかったし、ヒロインの心情にも共感できませんでした。

ただ、トルコの格差社会を垣間見たり、街の様子がわかったり、ロマンスと思って見ていたら実はサスペンスだったりという意外性があって、まあまあ楽しめました。

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アウトフィット / 終わらない週末 / 忘れられし愛

2024年02月12日 | 映画

Netflixで見た映画3作品です。

アウトフィット (The Outfit) 2022

1950年代のシカゴ。仕立店を拠点にマフィア組織内の争いが展開。店主のイギリス人裁断師は、はからずも危険な状況に巻き込まれていくことに...。(Netflix HPより)

ブリッジ・オブ・スパイ」のマーク・ライランスがシカゴでいわくありげな仕立屋を演じるなんて、おもしろくないわけがない!と楽しみにしていました。ある意味、マーク・ライランスという存在自体、壮大なネタバレのような気もしますが。^^;

それでもマーク演じる裁断師はどういう役割をはたしているのか?そしてその目的は? そして、同じくいわくありげなお店の受付嬢はいったい何者なのか?裁断師とはグルなのか? 疑問が次から次へと浮かんできて、画面から目が離せませんでした。

マフィアとの頭脳戦の緊迫感もすさまじく、この場面をどう切り抜けるのか?と手に汗握り、引き込まれました。物語が仕立屋の中だけで進行するワンシチュエーションムービーゆえに、ミスリードを引き起こしたり、想像力を刺激したりして、おもしろかったです。

終わらない週末 (Leave the World Behind) 2023

のんびり週末を過ごそうと、豪華な別荘を借りた一家。だが到着早々、サイバー攻撃により携帯やパソコンが使えないという不測の事態が起こる。そして、玄関口に見知らぬ男女2人が姿を現す。(Netflix HPより)

Neflixの予告を見て、おもしろそう!と鑑賞。オープニングはシャラマン監督の「オールド」を想起させ、ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホークという豪華キャストにも期待がふくらみました。

サイバー攻撃、核の危機、奇怪な自然現象、第三国によるテロ、あるいは宇宙からの侵略等、地球の終末、人類の終末を予兆させるできごとが、次から次と起こるものの、それが何なのか、ここ以外の場所ではいったい何が起こっているのか、さっぱりわからない。

私たちは脆弱で、ネットやメディアから与えられる情報がなければ、まったく手も足も出せないのだと思い知らされました。このような状況下で、最先端の自動車であるはずのテスラがバグって、無人のまま追突事故を起こすのは強烈な皮肉でおもしろかった。

静かに忍び寄る恐怖は感じるものの、伏線回収はなく、最後までもやもやしたままで終わります。ラストの妹ちゃんの行動は、世界で何が起こっているかよりも、今の自分の欲望の方が大事、という現代の子どもそのもので、まったくもってシニカルでした。

忘れられし愛 (Znachor / Forgotten Love) 2023

かつては有能な外科医として尊敬を集めていた男は、家族に去られ、記憶まで失ってしまう。だが、過去とともに忘れ去った人との再会をきっかけに、人生を取り戻すチャンスを得る。(Netflix HPより)

原題の Znachor はポーランド語で偽医者という意味です。1937年、1982年と過去2回映画化されたのも納得の、時代を超えて共感できる父子愛、そしてロマンスの物語です。ベタなストーリー展開で結末も想像できますが、素直に心に響き、快く泣ける作品でした。

オープニングの手術^^ の場面、それに続く新聞売りの少年のエピソードから、主人公の誠実で温かい人格が伝わってきて、胸がいっぱいになりますが、多忙で家庭を顧みない彼は、妻にとっては決して理想の夫とはいえなかったのでしょう。

その後の運命の残酷さに打ちのめされつつも、映画を見ている私たちは、彼のすぐ近くに一番会いたい人がいることを知っているので、いつか訪れる再会を確信しつつ、もどかしい気持ちに翻弄されることになります。^^

娘役の女優さんも、凛とした清潔感があって魅力的でした。映画を見ながら、この誠実さは父親譲りなのだなーと納得しました。あまり悪い人が登場しないのも、この作品の魅力かもしれません。

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時の面影 / マエストロ:その音楽と愛と

2024年01月07日 | 映画

Netflixオリジナル。キャリー・マリガン主演の2作品です。


時の面影 (The Dig) 2021

キャリー・マリガン、レイフ・ファインズ主演。どちらも大好きな俳優さんであり、Netflexの予告映像に傑作の予感がして楽しみにしていました。考古学の話なので、レイフ・ファインズがインディアナ・ジョーンズばりの活躍を見せるのかと思いきや

実話をもとにした、堅実な作りの作品でした。一瞬、雇い主であるエディス (キャリー) と、発掘家バジル (ファインズ) のロマンスを期待した自分が恥ずかしくなる、大人の良識を備えた佳作でもありました。

リリー・ジェームズ演じる研究者の、ひそかなロマンスもありますが、これは映画用のフィクションかもしれません。当時の女性の立場と地位がさりげなく描かれていて、映画の中のスパイスとなっていました。

時は第2次世界大戦直前のイギリス・サフォーク州。未亡人エディスは、所有する広大な敷地サットン・フーにある墳丘墓を発掘するため、経験豊富な発掘家バジルを雇います。ロンドンの考古学者たちは、学位のないバジルを疎み、彼をこの発掘調査から外そうとしますが

バジルは予想されていたよりはるかに古い時代の遺跡であることを推定し、それを発見するのです。エディスはバジルの偉業を称えますが、長らく彼の名が世に知られることはなく、最近になってようやく彼の業績が認められた、ということです。

経験と努力に裏打ちされた豊富な知識がありながら、それをひけらかすことなく黙々と任務に徹するバジル。そのバジルに発掘家としての実力を認め、全幅の信頼を寄せるエディス。立場を超えた2人の、家族も交えての温かい交流が心に残りました。


マエストロ:その音楽と愛と (Maestro) 2023

音楽を題材にした作品が好きなので、楽しみにしていた作品です。監督・脚本・製作・主演は「アリー」(A Star Is Born) のブラッドリー・クーパー。製作には、スコセッシとスピルバーグも名を連ねています。

本作は20世紀を代表する作曲家で指揮者であるレナード・バーンスタインの半生を、妻で女優のフェリシアとの夫婦愛を軸に据えて描いた伝記ドラマです。作曲家としてのバーンスタインといえば、まず「ウエストサイド物語」が頭に浮かびますが

私の中ではどちらかというと指揮者としての活躍が記憶に残っています。(時々同じユダヤ系のバレンボイムとごっちゃになりますが) とはいえ、彼のプライベートな面についてはほとんど知らなかったので、本作のエピソードはどれも興味深かったです。

冒頭からブラッドリーの、バーンスタインに似せた老けメイクの完成度に圧倒されましたが (メイク担当はオスカー常連のカズ・ヒロさん)、その他にも会話や美術、映像など、細部にわたってブラッドリーの美意識と作り込みのすごさがびしびし感じられ

これは本気でオスカーを狙いに来ているな、というのが少々鼻についてしまったのですが^^; それを抜きにしても、すごい作品を見たという満足感がありました。華やかなクラシック音楽の世界、バーンスタイン夫妻のゴージャスな生活も見応えがあって楽しかった。

音楽のシーンでは、壮麗なカテドラルで演奏されるマーラーの2番、タングルウッドで若手を指導している場面が心に残りました。タングルウッドはボストン交響楽団が毎年夏に演奏する野外ホールで、私もかつて毎年訪れるのを楽しみにしていました。

ブラッドリーの演技もすごかったですが、妻フェリシアを演じるキャリー・マリガンもとてもよかったです。「17歳の肖像」(An Education) の頃から愛らしくて大好きな女優さんでしたが、今回は役柄そのものの、大女優の貫禄に圧倒されました。

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My Best Films in 2023

2023年12月31日 | 映画

今朝は久しぶりの雨音に目を覚ましましたが、お昼頃、雨上がりの澄んだ空気に清々しさを感じました。今年の汚れをすべて洗い流してくれたような気がしました。

2023年に見た新作映画の中から特に心に残った3作品、旧作映画と本の中からそれぞれ1作品ずつ選んで、ブログ納めといたします。みなさま、よいお年をお迎えくださいませ。

*** 新作映画 ***

TAR ター (Tar)

決して楽しい作品ではないですが、権力の本質を描いていて、個人的にもっともガツンときた作品でした。自ら命じるのではなく、周囲に忖度させることによって支配するのは、今の時代の権力者が用いる手法そのものです。

しかし天才的指揮者であるターが、人の心を理解できないことで追い詰められていく様子は、頭脳や才能がすべてではないことを物語っていて、救いを覚えました。孤高の権力者を演じるケイト・ブランシェットの演技はすばらしいの一言で、圧倒されました。

フェイブルマンズ (The Fablemans)

ここ数年、映画監督による自伝映画がちょっとしたブーム?になっていますが、個人的にはこのフェイブルマンズが一番気に入りました。映画としての評価はあまり芳しくなかったようですが、これまた個人的にガツンときた作品です。

スピルバーグの映画愛、映画作りのテクニックや怖さを知ったのも興味深かったですが、一番切なく、心にずしりときたのはスピルバーグの両親のパートです。誰にもどうすることもできないつらい結末に、胸が締め付けられました。

ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE (Mission: Impossible - Dead Reckoning Part One)

王道を行くエンターテイメント・ムービーで大いに楽しめました。トム・クルーズは相変わらずかっこよかったし、彼を取り巻くヒロインたちもそれぞれに魅力的でした。

トムには「あの年齢にしては」というただし書き抜きに、いつまでも第一線で輝いていて欲しい。そして私も、そんなトムを励みにして、自分の小さな世界でがんばっていけたら、と願っています。

*** 旧作映画 ***

サタデー・ナイト・フィーバー (Saturday Night Fever) 1977

公開時から47年ぶり?に再見しましたが、こういう映画だったんだ、と今さらながら驚きました。自分が年を重ね、経験を重ねたことによって、多くの気づきがあったということもありますし、時代の変化、社会の変化を感じ取ることができたのは収穫でした。

ひょっとしたら、ショッキングな場面は無意識に記憶から消していたのかもしれません。もう一度見たいとは思わないけれど、今あらためて見ることができてよかったです。

*** 本 ***

ディーリア・オーエンズ 友廣純訳「ザリガニの鳴くところ」(Where the Crawdads Sing)

映画もすばらしかったですが、原作もまたすばらしかったです。長編小説で読むのに時間がかかりましたが、アメリカ南部の豊かな自然を舞台にした壮大な人間ドラマを、じっくりと堪能しました。

作者が生物学者ということもあり、主人公の心情の描写や心の動きを、自然の営みを通じて描いているところがこの作品の最大の魅力であり、唯一無二の作品にしていると感じました。

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ノッティングヒルの恋人 / サタデー・ナイト・フィーバー

2023年11月23日 | 映画

配信で、久しぶりに再見した2作品です。

ノッティングヒルの恋人 (Notting Hill) 1999

この映画は、公開時にアメリカの劇場で見て、その後日本のテレビで偶然見て、今回見るのが3度目でしたが、何度見てもおもしろい。そして最後の記者会見の場面では、何度見ても号泣してしまいます。序盤で、スパイクがTシャツ着て階段を下りてくるところから

オチがわかっているのに、にやにやが止まらない。アナの I am just a girl. は、いつか使いたいと思いながら、いまだに使うチャンスがない。ヒューが Horse & Hound を持ち出す度に笑い転げてしまう。それもこれも、リチャード・カーティスの脚本がすばらしいから。

主演のジュリア・ロバーツとヒュー・グラントはじめ、登場人物がみな魅力的で、ノッティング・ヒルという舞台が魅力的で、そして何よりエルヴィス・コステロの「She」が魅力的。私にはエターナル・ベストというべき、大好きな作品です。

サタデー・ナイト・フィーバー (Saturday Night Fever) 1977

公開時に劇場で見て以来の再見です。当時はビージーズの音楽とトラボルタのダンスばかりが印象に残っていましたが、年を重ね、経験を重ねた今改めて見ると、さまざまな気づきがありました。以下思いつくままに書いていきます。

ウエストサイド物語 (1961) へのオマージュ

ブルックリンの空撮からはじまるオープニング、プエルトリコ移民との確執など「ウエストサイド物語」を彷彿とさせる場面がいくつもありました。主人公の名前も同じくトニー。トニーは悪友たちとつきあっていますが、実はまじめで、頭がきれる青年です。

トニーが恋をするステファニーは、これまでトニーの周りにいた女性たちとはまったく違うタイプ。彼女の白いドレスは、ウエストサイドのマリアを彷彿とさせました。名前がマリアではないのは、上昇志向の強いステファニーが、自分のステップアップのために

有力者の愛人となっているからと理解しました。ステファニーの鼻持ちならない自慢話の数々は、実は劣等感の裏返しなのでしょう。でもトニーは彼女と出会ったことで、これまでの生き方を変える決心をするのです。

トニーの部屋と、狼たちの午後

ファラ・フォーセット、ブルース・リーなど、当時のスターたちのポスターが懐かしい。アル・パチーノに似ていると言われたトニーは、自室のアル・パチーノのポスターに向かって、似ているかな?と自問します。

そのあとの「アッティカ!アッティカ!」(映画ではアディゴ!アディゴ!と聞こえる) というセリフは、映画「狼たちの午後」(Dog Day Afternoon・1975) の一場面ですが、これも映画を見たからこそ、わかったことです。

イタリア系移民と、ブルックリンの今むかし

ブルックリンに住むイタリア系移民の物語といって思い出すのは、シェールの「月の輝く夜に」(Moonstruck・1987)。月の輝く~はイタリア系らしい大家族の心温まる物語でしたが、本作のトニーを取り巻く環境はあまり芳しいとはいえません。

口うるさく、いがみあってばかりの両親。お世辞にも素行がいいとはいえない友人たち。勤務先のペンキ店では仕事ぶりを評価されているけれど、長年働いたところでいいことなんてひとつもない。先の見えない閉塞感の中で、トニーが唯一誇れるものがダンスでした。

当時、白人といっても下層に位置していたイタリア系は、マンハッタンではなく下町のブルックリンに住んでいましたが、そのブルックリンも今は様変わりしています。マンハッタンの家賃の高騰により、ソーホーに住んでいたアーティストたちが

家賃の安いブルックリンに移り住むようになったのを機に、今ではすっかり人気のおしゃれエリアに。2015年の映画「マイ・インターン」(The Intern) ではアン・ハサウェイ演じるイーコマースの社長が、ブルックリンのれんが造りの倉庫をオフィスにしています。

***

人種差別、性差別、格差、暴力など、当時の社会問題 (と認識されていたかどうかわかりませんが) が生々しく描かれていて、単なるディスコ映画ではなかったことを、今さらながら知りました。それだけでも見る価値のある作品でした。

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ペイン・ハスラーズ

2023年11月03日 | 映画

Netflix配信の新作。エミリー・ブラント主演の社会派?ドラマです。

ペイン・ハスラーズ (Pain Hustlers)

家も職もすべて失ったシングルマザーが、ひょんなことから製薬会社の営業員として採用されて大活躍。会社も大きく業績を伸ばしますが、さらなる金儲けをもくろむ会社が、やがて倫理的に許されざる道へと突き進んでいく...という実話をもとにした作品です。

エミリー・ブラントが好きで、不正を暴く社会派作品が好きなので、配信を楽しみにしていました。見る前は、大好きな「エリン・ブロコビッチ」みたいな作品を想像していたのですが、そこまでの爽快感がなかったのは

エミリー・ブラント演じる主人公のライザ自身が不正に手を染めていたからでしょうか。もっともライザは会社のために、そして自分のために必死にがんばっているうちに、いつの間にか越えてはいけない一線を踏み出してしまったわけで

誰もが陥る危険のある落とし穴、と少し怖くなりました。まわりが見えなくなるくらいに、すべてが順調にいっている時は、ふと立ち止まって冷静にまわりや自分を見つめる勇気が必要、という忠告と受け止めました。

それから本作では、アメリカの拝金主義が「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のようにシニカルに、カリカチュアに描かれていて、もちろんそうではない人もたくさんいることはわかっていますが、少々嫌気がさしました。

ライザが家族とうまくいかなくなったのもお金が原因ですし、その後仲直りしたのもお金のおかげなのですよね。貧しさを知っていても(あるいは知っているからこそ?)お金を手にしたとたんに、高級車を乗り回し、豪邸を手に入れ、人が変わってしまう。

お金はつくづく魔物なのだと思います。子どもの教育も、医療も、そして正義さえも金次第。そんな現実もコミカルに描かれていました。

ノー天気な博士を演じていたのは、アンディ・ガルシアだったのですね。私は宮崎駿さんに見えてしまって困りました。^^

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グランツーリスモ / 岸辺露伴 ルーヴルへ行く

2023年10月15日 | 映画

三連休に帰省した息子と見た映画、2作品です。

グランツーリスモ (Gran Turismo)

ソニーのPlay Station で人気のレーシングゲーム「グランツーリスモ」を題材にした作品と聞いて、「ピクセル」とか、ポケモンのハリウッド実写映画「名探偵ピカチュウ」みたいなB級映画を想像していたら、とんでもなかった。

ゲーム「グランツーリスモ」のトッププレイヤーから厳選されたメンバーが、リアルなレーサーとして訓練を受け、その中で選ばれし一名が、実際にル・マンの24時間耐久レースにレーサーとして参加したという、実話に基づく作品です。

いくらゲームでのドライビング・テクニックがすごくたって、リアルなレースで通用するの? どんな訓練を受けたらレーサーになれるの? 等々、見る前はクエスチョンマークの連続でしたが、その謎をこの映画が次々と解き明かしていきます。

こういうとんでもない企画を考えた日産のマーケティング担当やレーシングチームもすごいですし、リアルなレースに通用できるだけのバーチャルなゲームを作ったソニーのクリエイターたちもすごい!と感動しました。

選ばれしレーサーは、イギリスのヤン・マーテンボロー。彼の勝負曲が、ケニー・Gやエンヤだったのでてっきり1980年代の話かと思ったら、2013年のできごとと後から知って驚きました。ちなみに私がレースといえば、T-SQUAREの「TRUTH」が頭に流れます。^^

元サッカー選手の父親が、外で遊ばずゲームばかりやっている息子を歯がゆく思いながら、最後には息子を理解し応援する家族愛、日産のマーケティング担当 (オーランド・ブルーム) に圧力をかけられながら、最後までヤンを信じ続けたコーチとの師弟愛

ライバルチームとの心理戦、ラストのドラマティックなフィニッシュと、ありがちなストーリー展開もすべて事実となれば格別です。胸が熱くなりました。

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

息子が岸辺露伴のドラマシリーズが好きで、NHKのドラマは勧められてすべていっしょに見ています。彼は本映画を劇場で鑑賞済ですが、今ちょうどアマプラに上がっているというので、今回いっしょに見ることになりました。

パリのルーヴル美術館でロケをしていると聞いて楽しみにしていましたが、パリの場面にはなかなか行かず、前半はほとんど、若き露伴が将来漫画家になるべきか否か思い悩んで、祖母が経営する宿屋に長逗留する場面が続きます。

ところがこの味わいのある宿屋、どこかで見たことあると思ったら、なんと昨年秋に訪れたばかりの福島会津・東山温泉の向瀧さんではないですか! ちょっとうれしくなりました。

若き露伴が逗留中、ここで出会ってひそかに思いを寄せる、訳あり風の美しい年上の女性 奈々瀬 (木村文乃) が、実は露伴 (高橋一生) の出自にかかわっていることが、後になってわかってきます。

公開前のビジュアルでは、パリでのロケがアピールポイントになっていた記憶がありますが、どちらかというと「御宿かわせみ」のような時代小説のテイストをもった、味わい深い作品でした。

そしてこのシリーズ、私が毎回楽しみにしているのが、飯豊まりえさん演じる、露伴の編集担当 泉京香のベルサイユ風?ファッションです。^^ 今回は特に序盤のオークションの場面で京香がまとっていた、パープルのドレスがすてきでした。

 

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ディアボロス 悪魔の扉 / ある侯爵夫人の生涯 / ひまわり

2023年09月03日 | 映画

配信で見た映画3作品です。

ディアボロス 悪魔の扉 (The Devil's Advocate) 1997

法廷ものが好きなのと、キアヌ・リーヴス、アル・パチーノ、シャロン・ストーンという豪華キャストに惹かれて見ました。凄腕弁護士を演じるキアヌがかっこいい! シャロン・ストーンはクールというより、この頃はどちらかというとかわいかったですね。

フロリダで連勝記録を誇る若き凄腕弁護士ケヴィン (キアヌ) が、ニューヨークの大手弁護士事務所を率いるミルトン (パチーノ) にスカウトされます。申し分のない報酬とオフィス、住環境を手に入れ、大都会ニューヨークでも活躍を続けるケヴィンですが

多忙で家を空けがちなケヴィンや、環境の変化、慣れない交友関係等で、妻メアリーアン (シャロン) は徐々に精神の異常をきたしていきます...。

すごくおもしろかったのですが、終盤はメアリーアンやケヴィンまでもが幻覚を見るようになり、どこからどこまでが現実か幻覚かわからない。ちょっとやりすぎでは?と思ったら、実は...という結末でした。テイストとしては「ゲーム」に似ているでしょうか。

ちょっと疲れるけれど、おもしろかったです。ロケ地はニューヨークのトランプタワー! 当時はまさかトランプが大統領になるとは、誰も思いませんでしたよね。

ある侯爵夫人の生涯 (The Duchess) 2008

18世紀後半のイギリスを舞台に、デヴォンシャー侯爵夫人ジョージアナの半生を描いた実話に基づく伝記ドラマです。ジョージアナを演じるのはキーラ・ナイトレイ。ジョージアナの親友で、のちに侯爵 (レイフ・ファインズ) の愛人となるエリザベスを

ヘイリー・アトウェルが演じています。「ミッション:インポッシブル デッドレコディング」のヘイリー・アトウェルが出演しているので、本作を見ましたが、クールなヘイリーは時代劇より現代劇の方がどちらかというと合っているかな?という印象を受けました。

キーラは「プライドと偏見」「つぐない」など、時代ものがよく似合いますね。本作の彼女もとても魅力的でした。ストーリーはどろどろしたメロドラマといった感じで、思いがけない展開に引き込まれましたが、これが実話ということに驚きました。

ジョージアナの幼馴染で恋愛相手、映画では駆け出しの政治家だったチャールズ・グレイが、後に首相になったという後日譚にも驚きました。さらに紅茶のアールグレイは、このグレイ伯爵に由来することを映画を見た後に偶然知り、興味深かったです。

ひまわり (I Gilasoli / Sunflower / Подсолнухи) 1970

ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ主演。戦争によって引き裂かれた男女の悲恋を描いた永遠の名作です。子どもの頃、家に映画音楽を集めたレコード全集がありまして... ひまわりの主題歌の美しくも哀しいメロディは、ずっと心に刻み込まれていました。

本作を気に留めながらも長らく見る機会を逸していたのですが、最近偶然 Amazon Prime に上がっているのを知って、ようやく見ることができました。本作、ウクライナ (旧ソ連) がロケ地となっていることもあり、反戦の機運と相まって最近また注目を集めていますね。

戦争による悲恋といえば「シェルブールの雨傘」を思い出しますが、本作の方がずっとシンパシーを感じるストーリーとなっていました。冬のソ連の過酷な状況の下、マーシャ (リュドミラ・サベーリエワ) によって奇跡的に命を吹き返したアントニオ (マストロヤンニ)。

神が引き合わせたとした思えない二人の出会いを、誰も責めることはできませんが、運命の残酷さを思います。それにしてもアントニオをジョバンナ (ローレン) のもとに快く送り出す、マーシャの懐の深さに私は感動しました。

マーシャもまた、心にわだかまりを持ったまま、この先アントニオといっしょに暮していきたくない。そしてこれまでアントニオと幸せな結婚生活を送ってきたという自負から、アントニオの愛を信じていたのだ、と思いました。

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チャーリング・クロス街84番地

2023年08月25日 | 映画

アンソニー・ホプキンスと、アン・バンクロフトの心温まるヒューマンドラマです。

チャーリング・クロス街84番地 (84 Charing Cross Road) 1986

ここのところ、アンソニー・ホプキンスがマイブームとなっていたので、NETFLIXで偶然見つけた本作にアンテナがピピッと反応。期待通りにすてきな作品でした。「日の名残り」(The Remains of the Day) を彷彿とさせる、ホプキンスの英国紳士の魅力を堪能しました。

ロンドンの古書店に勤めるフランク (ホプキンス) と、ニューヨークに住む作家で、希少本の収集を趣味とするヘレーヌ (アン・バンクロフト) との往復書簡が、本作の主たるストーリーとなっています。ヘレーヌのマニアックなリクエストに

これまたプロフェッショナルな立場から適切なアドバイスを行い、彼女の希望にぴったり合う書籍を探し出し、小包を発送するフランク。二人が送り合う手紙の、知的で流麗な文章のやりとりに魅了され、うっとりと酔いしれました。

今は海外との仕事のやりとりもメールがほとんどで、カジュアルで実務的な文章がふつうとなっているので、二人が交わす格調高い文章に、はっとさせられました。手紙や注文した書籍が郵便で届くのを待つ、その時間さえもが贅沢に感じられました。

それから、ニューヨークとロンドン、それぞれの街の風景や文化の違いが、うまく描き分けられているところも楽しかった。ロンドンの重厚な街並み。マンハッタンの高層アパートメントからの眺めや、タクシーのクラクション、BGMのガーシュインっぽい音楽など。

舞台は戦後、1950年代頃でしょうか。同じ戦勝国でありながら、戦争による経済的損失を引きずっているイギリスと、物質的に豊かなアメリカ。物不足に困っているフランクたち古書店員たちに、ヘレーヌは缶詰やハムなど、ホリデイ用のごちそうを送ります。

まったく会ったことがなくても、文章のやりとりで相手の人となりは通じあうもの。それはメール時代の今でも同じではないでしょうか。私も自分の経験からそのことを実感していますが、本作を見て言葉の持つ力に改めて気づかされました。

いつしかヘレーヌからの手紙を心待ちにしているフランク。それはヘレーヌの手紙を読むフランクの表情から伝わってきました。二人は互いに惹かれ合いながらも、一度も愛のことばをささやくことなく、20年以上一度も会うことがなかった。

フランクは妻ノーラ(ジュディ・デンチ)を深く愛していましたが、ノーラの心の中は決して平穏ではなかったかもしれません。良識ある大人のひそかなロマンスが、本作を尊いものにしています。

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CLOSE クロース

2023年08月13日 | 映画

ベルギー発のジュヴナイル映画。監督は本作が2作目となるルーカス・ドン監督です。

CLOSE クロース (Close)

予告を見て気になっていた本作を、ようやく見に行ってまいりました。ルーカス・ドン監督作品を見るのは初めてですが、グザヴィエ・ドラン監督のテイストもあって、カンヌで評価されたのも納得の、少年のデリケートな心理を描いた佳作でした。

予告を見た時点で、なんとなく結末は読めてしまったのですが、それゆえに最初から、レオとレミ2人がかわす何気ない会話に、切なくて、胸が締めつけられて、涙がこぼれてしまいそうになりました。

少年同士に限らず、少年と少女であっても、気が合って何の疑問も持たずにずっと仲良くしてきたのに「つきあってるの?」と言われたことで急にお互いを意識するようになって、距離を置いてしまうこと、あると思います。

レオとレミもお互いが大好きで、小さい頃から家族ぐるみでつきあってきて、ただいっしょにいたい、仲良くしたいだけで、それが恋愛とよべる特別な感情であるかどうかも、お互いにわかっていないのだと思います。

クラスメートにからかわれた時に、大人だったら、あるいはもっと口が達者だったら、うまく言い返すことができたかもしれない。未熟ゆえにうまく対処できなくて、結果としてレミを突き放すことになってしまったレオの行動はよく理解できます。

もっと時間をかければ、成長してから「あれはこういうことだった」とお互いにわかり合えたと思うのですが、レミは今、レオを失うことが耐えられずに、自ら別れの道を選んでしまいます。

人生を終わりにすることは、本人の、そして家族やまわりの人たちの未来が、ぷっつりと失われてしまうことなのだと思います。問いかけても答えが返ってこないことは、自分の気持ちの置き所がなく、何よりつらいことです。

レオがレミにしたアヒルとヘビの話、レオがレミをどれほど大切に思っているかが伝わってきて、胸が震えました。それゆえに、これからレオが背負っていくであろう思いの重さを想像して、心が打ちのめされました。

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