セレンディピティ ダイアリー

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マティス 自由なフォルム @国立新美術館

2024年03月17日 | アート

招待券をいただいて、乃木坂の国立新美術館で開催中の「マティス 自由なフォルム」展に行ってまいりました。

ポスターのメインビジュアルは「ブルーヌードIV」(1952) 。オルセー美術館所蔵、マティスの切り絵の代表的作品です。肉体賛歌を感じる、私も大好きな作品です。今回の美術展ではニースのマティス美術館が所蔵する作品が多く展示されていました。

マティス展は、思えば昨年の夏に行ったばかりですが

【過去記事】マティス展 (2023-08-02)

今回は特に、舞台衣装やタペストリーの数々が心に残りました。また、前回映像で見たヴァンスのロザリオ礼拝堂を、再現展示で体感できたのも楽しかったです。絵画のみならず、総合芸術家としてのマティスの魅力を堪能しました。

これはマティスの作品ではなく、マティスの所有品で「赤いムシャラビエ」というタイトルの北インドのタペストリーです。ムシャラビエというのはアラブの格子出窓だそうですが、刺繍とアップリケが施され、透かし模様の入った手の込んだものでした。

エキゾチックな赤色がいかにもマティス好み。このタペストリーが背景に描かれたマティスの作品「小さなピアニスト、青い服」(1924) と並んで展示されているのも、おもしろい趣向でした。

ストラヴィンスキーが作曲したモダンバレエ「ナイチンゲールの夜」が1920年にパリで初演された時、マティスが美術と衣装を担当しました。クラシックバレエとはひと味違う衣装が斬新。バレエの映像も迫力があって、興味深かったです。

「ポリネシア、海」(1964)  1964年のマティスの切り絵をもとにしたタペストリーです。

ここから先の展示室は写真撮影可となっていました。

「花と果実」(1952-53) 写真だとお伝えしにくいですが、5枚のキャンバスを並べた大型の作品です。果実はどこに? 中央の左寄りに、オレンジ3つが3組描かれています。

テラコッタのタイルが12枚並べてあります。どれもマティスらしいカラフルな切り絵のモチーフです。ワカメ?のように見えるのは「パルメット」というヤシの文様のようです。

「蜜蜂」(1948) こういう幾何学的な作品、好きです。蜜蜂はどこに? おそらく白と黒の四角で構成されているのが蜜蜂を表しているのだと思います。

前回のマティス展と同様、ヴァンスのロザリオ礼拝堂に関する展示です。マティスは礼拝堂の調度品だけでなく、司祭服一式もデザインしました。色違いで6種あり、こちらは白地の司祭服一式です。海藻類のフォルムがデザインされているということです。

フィナーレを飾るのは、ヴァンスのロザリオ礼拝堂の再現展示です。前回のマティス展で見た映像が、立体的に再現され、臨場感をもって体感することができました。

ライティングで、朝から昼、夕方、そして夜へと日光の移り変わりが表現され、真っ白な礼拝堂内に反射する、青と黄色のステンドグラスの模様がとてもきれいでした。

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HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美

2024年01月04日 | アート

年末に、三鷹市美術ギャラリーで開催されている「HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美」展に行ってまいりました。

はいばら(榛原)さんは文化三年(1806年)日本橋に創業した和紙の老舗です。私ははいばらさんの千代紙やレターセットが大好きで、長く愛用してきました。

【過去記事】はいばらさんでお買い物 (2010-04-19)

この頃は永代通りにお店がありましたが、その後再開発でお店が入っていたビルが建替えとなり、今は中央通りに、漆黒の超モダンなファサードの店舗を構えていらっしゃいます。

本展では主に、明治から昭和初期にかけて榛原さんと交流があった、河鍋暁斎、川端玉章、竹久夢二などの美術家たちが手がけた華麗な千代紙や、美しい絵柄の封筒や便箋などの作品の数々が紹介されていました。

ポスターにある千代紙の柄は、河鍋暁斎の「長陽」。私もこの柄の蛇腹便箋のレターセットを愛用しています。

仕事で外国の方に御礼を差し上げる際には、いつもこの封筒を使っています。便箋は蛇腹折りになっていて、巻紙のように手紙の長さにあわせて切って使えるのがユニークです。

***

本展では、華やかで愛らしい多色刷りの千代紙の数々に目を奪われました。

河鍋暁斎「牡丹」

川端玉章「貝合わせ」

八重菊

美しい絵短冊や絵封筒、お正月らしいぽち袋には楽しい絵柄もありました。

長野草風「絵短冊(十二ヶ月絵短冊・部分)」

絵封筒(洋風絵封筒)

一足早く、お正月気分を満喫しました。

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三都ガラス物語 @箱根ガラスの森美術館

2023年12月29日 | アート

箱根ガラスの森美術館の続きです。館内には2つの美術館があります。まずは、ヴェネチアン・グラス美術館で開催中の企画展を見ました。

ヴェネチア、プラハ、パリ 三都ガラス物語 ~歴史を駆け抜けた華麗なるガラスの世界~

15分のガイドツアーに参加しましたが、これがとてもよかったです。作品にはそれぞれ詳しい説明書きがついていて、解説映像も流れていますが、ガイドの方のお話が興味深く、見どころを押さえて鑑賞することができました。

エンジェル文蓋付ゴブレット(バカラ)1870-1910年頃
天使の模様がついた愛らしいグラス。

レース・グラス・コンポート(ヴェネチア)17世紀初
ヴェネチアングラスの初期の作品です。初期の頃は、透明と白いグラスを層状に重ね、ひねることによってレース模様を作り出す技法が多く使われたそうです。

美術館のドーム型の天井には優美なシャンデリア。

天使鹿文蓋付ダブルゴブレット(ボヘミア)18世紀
ボヘミアン・グラスというと、厚手のカットグラスが思い浮かびますが、こんなに繊細なグラスもあるのですね。淡いピンクが愛らしく、私は一番気に入りました。

エンジェル装飾台座付鉢 BAMBOUS TOUS(バカラ)1890年頃
天使の装飾を施した金属と組み合わせた美しい鉢。

アイリス文花器一対(バカラ)1900年頃
アール・ヌーヴォー全盛期に開催されたパリ万博に出品された作品。

金彩竹文花器一対(バカラ)1878年頃
竹のデザインが施され、19世紀後半のヨーロッパで流行したジャポニズムの影響が見て取れる作品です。

クリスマスにあわせて、ヴェネチアン・グラスのイエスの降誕セットが展示されていました。

ヴェネチアン・グラス美術館でクラシックでゴージャスなグラスの数々を鑑賞した後は、ガラスのローズガーデンを通って、隣接する現代ガラス美術館へ。

最初に見たのは、イタリアのリヴィオ・セグーゾさんという現代グラスアーティスの作品の数々。透明ガラスを組み合わせたシンプルで洗練された作品でした。

デイリ・チフーリさんという、アメリカ出身ヴェネチアに留学したというグラスアーティストの作品の数々。海の生物を思わせるカラフルで幻想的な作品でした。

庭園にもさまざまなガラスのアートが展示されています。上は芝生の上に無造作に置かれたガラスの風船。

日が暮れると明かりが灯り、これもまた幻想的な美しさでした。

長くなりましたが、クリスマスイルミネーションに続きます。

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デイヴィッド・ホックニー展

2023年09月08日 | アート

招待券をいただいて、東京都現代美術館で開催中の「デイヴィッド・ホックニー展」を見に行ってまいりました。

イギリス出身の現代の画家、デイヴィッド・ホックニーの大規模個展です。

本展では、イギリス各地やロサンゼルスで制作された代表作の数々のほか、近年制作された風景画の「春の到来」シリーズ、コロナ禍のロックダウン中に、iPadを使って描いたという実験的作品など、約120点が展示されています。

ポップで明るい代表作品の数々のほか、あっと驚く表現手法で制作された大型の作品など、どれも好奇心を刺激して楽しめました。ポスターに描かれているのは「春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年」の一部ですが、この作品

全体は、32枚のカンヴァスを組み合わせた、幅10m × 高さ3.5m という大型の油彩画です。そもそもカンヴァスを組み合わせて大きな作品を作る、という発想にびっくり。運ぶ時は分けて梱包し、展示先で並べればよいのですから合理的ですね。

No. 118、2020年3月16日「春の到来 2020年」より

展示室に入って最初に出迎えてくれたのがこの作品です。2020年の春といえば、ちょうどコロナが広がり始めた頃ですが、それを微塵と感じさせない明るさに心が洗われました。そういえば、私もコロナで家に4日間籠城?した後に目にした春の花々に

心を洗われたことを思い出しました。(コチラの記事) 水仙の葉の重なり合いは、近くで見ると尾形光琳の「燕子花図屏風」を思い起こしました。

「自画像、2021年12月10日」

そしてこちらが自画像。おしゃれで、お茶目なおじさまですね。エルトン・ジョンにもちょっぴり似ているような...。

「スプリンクラー」 1967

しゅんしゅんと回るお庭のスプリンクラーはアメリカ時代の懐かしい思い出ですが、家の作りは窓が大きい西海岸スタイルです。バービーランドのようなどこか作り物めいた風景が、いかにもアメリカらしい。

2022年6月25日、「額に入った」花を見る

画面で見ると小さいですが、約5.2m × 3m ある大きな作品です。絵の中に額縁の絵というと、私はマティスを思い浮かべますが、これだけ並ぶと圧巻です。

「ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作」 2007

こちらも約5m × 12m の大きな作品ですが、縦5枚、横10枚、なんと50枚のカンヴァスを組み合わせているのです。メイキング動画がギャラリーで公開されていました。

Making Bigger Trees near Warter, 2007

ラストは、コロナ下に iPad で描いた絵画をつなぎあわせて構成した全長 90m の作品です。

「ノルマンディの12ヶ月」(部分) 2020-21年

広いギャラリーに帯となって続く壮大な絵巻に圧倒されました。(写真撮影ができました)

2019年にコロナを逃れてフランス、ノルマンディ地方に移り住んだホックニーは、世界中の都市がひっそりと静まり返っている間、周辺の自然や季節の移ろいを見つめ続けました。そこには、かけがえのない豊かな風景が広がっていました。

それにしても、こんな風に iPad でちゃちゃっと (ではないかもしれませんが) 身近な風景や旅先の景色が描けたらどんなに楽しいでしょう。御年80歳を越えるおじいちゃまに、危機を乗り越える力、新しいものにチャレンジする意欲を学びました。

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マティス展

2023年08月02日 | アート

平日にお休みをいただいて、上野の東京都美術館に「マティス展」(HENRI MATISSE: The Path to Color) を見に行ってまいりました。

ポスターのメインビジュアルは「赤の大きな室内」(1948)  マティスらしい作品です。

モダンアートが好きで、マティスが好きなので楽しみにしていた展覧会です。赤を基調にした明るい色彩。ポップでデザイン性があるところ。私は食卓の風景が好きなので、マティスの室内画にも心惹かれます。

本展は、パリのポンピドゥーセンターのコレクションを中心に、地下1階~2階と3フロアにわたって展示され、各フロアがそれぞれ違った趣向となっていて、いろいろな角度からマティスの魅力が堪能できました。

読書する女性 (1895)

初期の作品の中では「自画像」(1900) と、この作品が特に心に残りました。穏やかな内省的な写実画に、これがマティス?!と新鮮な驚きを感じました。描かれている女性は、マティスの当時のパートナーだそうです。

パイプをくわえた自画像 (1919)

1階の展示室は、マティスの全盛期の作品の数々で、すべて写真撮影が可能でした。

私の心をとらえたのがこの素描。画材は墨とありましたが、黒いチョークのようなものでしょうか。ラフな線がいい味わいになっています。眼鏡の感じが玉村豊男さんに似ていると思いました。^^

赤いキュロットのオダリスク (1921)

このオダリスクのシリーズは、ポーラ美術館のマティス展で見た記憶があります。イスラム風の衣装を着たモデルが、長椅子でポーズを取り、エキゾティシズムたっぷりの作品です。背景もイスラム風。いつものマティス・レッドとは違う、臙脂(えんじ)色がすてきです。

緑色の食器戸棚と静物 (1928)

ちょっぴりセザンヌ風だな、と思いながら見ていました。マティスの室内画は、描かれる食器もすてきです。

夢 (1935)

まるで映画のワンシーンのようで、ひと目見て引き込まれました。描かれているのは、マティスの最期までそばで支えたアシスタントであり、モデルを務めた女性で、画家との信頼関係の中で安心した表情を浮かべています。

黄色と青の室内 (1946)

マティスといえば赤のイメージがありますが、黄と青のこの作品もすてきだなーとパチリ。

マグノリアのある静物 (1941)

最初はクチナシかと思ったら、マグノリア (タイサンボク) でした。アメリカの南部を代表する懐かしくも大好きな花に思わずパチリ。おそらくマティスが晩年をすごした南仏ヴァンスと植生が同じなのでしょうね。

芸術・文学雑誌「ヴェルヴ」の表紙

マティスらしい切り絵を使った雑誌の表紙デザイン。ポップで動きがあって楽しくて、見ているだけで元気になります。

2階は、マティスが最晩年に手掛けたヴァンスのロザリア礼拝堂を、取り上げていますした。白くてモダン、陽当たりよく、こじんまりとした愛らしい礼拝堂でした。教会には必ずあるイエスの誕生の物語も、マティスの手にかかると、漫画チックでかわいらしい。

中でも私が心を打たれたのは、ステンドガラスのブルーとイエローが反射して、時の経過とともに色が変化していくキャンドルです。心が洗われる清らかな空間でした。

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ウェス・アンダーソンすぎる風景展

2023年06月02日 | アート

山本基さんの個展の後、同じく天王洲の寺田倉庫G1ビルで開催されていた「ウェス・アンダーソンすぎる風景展 あなたのまわりは旅のヒントにあふれている」を見に行きました。

本展のことは、いつもお世話になっている担当の美容師さんに教えていただいたのですが、会場に入る前から、インスタ世代の若い女性たちでにぎわっていてびっくりしました。ウェス・アンダーソンは「グランド・ブダペスト・ホテル」などでおなじみの映画監督。

私は彼の映画はそれほど好みではないのですが、独特の映像表現には強く惹かれるものがあります。左右対称の構図や、キャンディのような色使い。ポップでキュートでレトロな映像は、おもちゃ箱をひっくり返したようなわくわく感があります。

そんなウェス・アンダーソンの映画に登場しそうな画像を投稿する AWA (Accidentally Wes Anderson) というインスタアカウントから作品をセレクトし、2022年韓国で展覧会を開催したところ、大好評だったそうです。

今回の日本展では旅をテーマに厳選した作品が、テーマごとに展示されています。本展は5月26日で終了してしまいましたが、大盛況を受けて 11/25 ~ 12/28 に渋谷ヒカリエのホールで再開催されることが決まったとのことです。(fashionsnap.com

このケーブルカーは、(ウェス・アンダーソン監督作品ではないですが) ラ・ラ・ランドに出て来ましたよね。ロサンゼルスの、今は閉業している Angels Flight というケーブルカーです。

アメリカのノスタルジーあふれる風景。

ウェス・アンダーソン監督といえばピンクとペパーミントグリーンのイメージです。

ヨーロッパ、中東、アメリカ、そして日本の風景もありましたが、私が惹かれるのはやはりアメリカのノスタルジーあふれる風景です。写真を見ているうちに、昔大好きだったアヲハタのCMを思い出して、映像を探してみたら... なんと YouTube にありました。

アヲハタ 55ジャム マイアミロケ 1997

撮影された場所は、マイアミのアールデコ地区 (Art Deco District)。

1925年パリで生まれたアールデコは1930年代ニューヨークで流行し、さらにマイアミで独自の進化を遂げました。パステルトーンのレトロな建物が立ち並ぶこの地区は、建築好き、古いものが大好きな私には魅力的な場所でした。

そんなことを思い出しながらの楽しい時間となりました。

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山本基|時に宿る - Staying in Time -

2023年05月28日 | アート

ランチの後、天王洲の YUKIKOMIZUTANI (TERADA ART COMPLEX II) で開催された、山本基さんの個展「時に宿る - Staying in Time -」を見に行ってまいりました。展覧会は5/6に終了しましたが、遅ればせながら記録を残しておきます。

山本基さんは、塩を使ったインスタレーション作品で国際的に活動されている、現代美術のアーティストです。私は、2015年に銀座の POLA MUSEUM ANNEX で山本さんの作品に初めて出会って深い感銘を受け、以来心に留めています。

今回は、コロナ下の2020年に THE GINZA SPACE で開催された土屋仁応さんとのコラボ展以来の作品展ということで楽しみにしていました。 これまでの山本さんの世界を継承しつつ、素材や表現に広がりが感じられ、発見に満ちた作品展でした。

かわひらこ(Butterfly)2023 Acrylic paint on panel

時を纏う(Shrouded in Time)2023 Acrylic paint on mirror

たゆたう庭(Floating Garden)2022 Acrylic paint on canvas

これまでの塩を使ったインスタレーション作品が、色彩を施したパネルやキャンバス、鏡の上に展開し、垂直に展示されていたので、え?!と驚きました。塩に糊を混ぜて固めているのかしら...?と不思議に思って、後でギャラリーのスタッフにお聞きしましたところ

アクリル絵具にガラスの粉末を混ぜたものを絞っているそうです。アクリル絵具だけでなく、ガラスの粉末を混ぜることで、塩で制作した時と同じくらいの立体感を出すことができるのだそうです。

塩の時には、お好み焼き屋さんが使うプラスティックの油さしを使って絞り出しているとお聞きしていましたが、今回はその油さしの小さい版を特注して絞っているとお聞きし、その油さしも見せていただきました。^^

塩を使ったインスタレーションは、いつも展示最終日に山本さんがボランティアの方たちとともに回収し、海に還すというプロジェクトをされています。閉展とともに消えてしまう、その儚さも魅力ですが、一方で常に飾っておけるアートもまた魅力的ですね。

時を纏う(Shrouded in Time)2023 Acrylic paints, natural pigments on wooden panel

横 8.5m ある大迫力の作品

時を纏う(Shrouded in Time)2022 Acrylic paints, crystal glass

1辺 8㎝ のクリスタルに施されたオブジェ

さくらしべふる(Sakura Shibefuru - Falling cherry petals)2023 installation (salt)

塩を使って散り降る桜の花びらを表現したインスタレーション。チェリーレッドの床が、山本さんの作品としてはめずらしく新鮮に感じられました。どのように作られたのか、気になってこれもスタッフにお聞きしましたところ

桜の花びらの形のクッキーの抜型のようなものを作り、そこに塩を絞り入れて作られているのだそうです。1枚1枚ていねいに仕上げられていますが、塩のわずかな厚みの違いで唯一無二の花びらとなっているのがすばらしい。

中心にいくほど、花びらが幾重にも重なっていて、そこには見えない木の存在を感じました。

時に宿る(Staying in Time)2023 digital drawing

別室に展示されていたデジタル・ドローイング。渦の模様がレリーフ全体を少しずつ埋めていき、すべて埋めつくされると、今度は時間がさかのぼって渦の模様が少しずつ消えていく、ということが繰り返されます。渦の模様が等高線のように見えました。

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北斎バードパーク

2023年05月13日 | アート

GWは都内でのんびりすごしていました。偶然ながら美術展に3回訪れる機会があり、アート三昧の休暇となりました。お天気のよかったこの日は、チケットをいただいて、初めてすみだ北斎美術館に行ってまいりました。

最寄り駅は両国ですが、あまりなじみのないエリアとあって、乗り過ごして錦糸町まで行ってしまいました。^^; 2016年に開館した時から気になっていた美術館ですが、ようやく訪れることができました。

インパクトのある建築は、SANAAの妹島和世さんの設計です。写真を見た時には大きい建物だと思っていましたが、意外とこじんまりとした美術館でした。

さて、この日の企画展は「北斎バードバーク」です。風景画の作品で知られる北斎ですが、本展は花鳥画を中心とした展覧会。リアルで細密な描写はボタニカルアートの趣があり、サイエンティフィックな世界に引き込まれました。

鵙(もず) 翠雀(るり) 虎耳草(ゆきのした) 蛇苺(へびいちご)

文鳥(ぶんちょう) 辛夷花(こぶし)

鵙(いすか) 小薊(おにあざみ)

「北斎漫画」三編 風鳥(ふうちょう)ほか

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また、楽しかったのが、飯島虚心の「葛飾北斎伝」に登場するエピソードを再現したインスタレーションです。

11代将軍・徳川家斉の御前で、席画を描くことになった北斎は、長い紙に藍色の帯を描いて川とし、そこに足に朱肉をつけた鶏を放って、点在する足跡を紅葉に見立て「竜田川の紅葉でございます」と答えたとのことです。

それを現代に再現したところを映像に収め、できあがった作品とともに展示していました。

美術館に設えられた三角形の窓は、計算されたアングルなのか、ちょうど正面にスカイツリーが見えました。

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「インターフェアレンス」展

2023年03月19日 | アート

ぴょんぴょん舎でお昼をいただいた後に、銀座メゾンエルメス フォーラムで開催中の「インターフェアレンス」展 を見に行きました。

インターフェアレンス (interference) =干渉。本展は、光、振動、波動など、身体に介入する揺らぎの感覚を通じて、知覚探求を試みるアーティストによるグループ展です。フランシス真悟、スザンナ・フリッチャー、ブルーノ・ボデラ、宮永愛子の4名が参加しています。

本展の作品は、会場の空間を生かしたインスタレーションとなっています。会場で実際に見て、感じて、体験しないと、色彩、素材、動き、大きさなど、おわかりいただけないかもしれませんが、雰囲気だけでもお伝えできればうれしいです。

カリフォルニア出身のアーティスト、フランシス真悟の作品。本展のタイトルにもなっている「Interference」シリーズから。このような作品が10作ほど並んでいます。

作品は、雲母を含む光干渉顔料を用いて描かれています。私はパールの入ったマニキュアを思い出しました。極々薄く、筆の動きがまったくわからないほどに、なめらかに塗られている表面が、光の干渉によってさまざまな色に変化していました。

円の内側と外側はそれぞれ違う色が塗られているようですが、見る角度によって違う色に見えるので、もとが何色なのかさっぱりわかりません。若干もやもやするのですが、繊細にきらきらと光っていて、とてもきれいな作品でした。

8階の展示室には、床から天井までの壁一面が塗料で塗られ、ひときわ大きな作品となっていました。ガラスブロックを通して入る太陽の光に反射して繊細に輝き、とてもきれいでした。

こちらは、スザンナ・フリッチャーの「パルス」(Pulse) という作品です。

写真ではほとんどわかりませんが、8階の大きな展示室いっぱいにシリコン糸がぶらさがっています。それらの糸は横糸でつながっていて、モーターの振動によって、縦糸がぷるぷると揺らぎます。一見すると、雨が降っているように見えました。

写真では見えにくいですが、縦糸がぷるぷると揺らいでいる中を、歩いて通ることができます。空中には5つの円盤が糸につながってぶら下がっています。シリコン糸の間を歩いていると、わずかにモーター音がうなりを上げているのがわかりました。

ブルーノ・ボテラの「猿のお金」(Monnaie de singe) という作品。5点からなる連作です。インクで描かれたこれらの作品は、タイトルの意味もわからないし、何を描いているのかもわからない。それでもどことなく不穏を感じさせる作品でした。

宮永愛子の「Voyage」という作品。オンラインお茶会を表している作品で、机には、作者が裏返しに書いた手紙、お茶会の招待状、そしてどこからか拾ってきた?きれいな石が並べてあります。コロナによる行動期限のある生活から生まれた作品だということです。

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東京は先週 3/14 に桜の開花宣言がありました。

ちょうどその日、勤務先で咲きはじめた桜の花を写真に収めたところでした。それからずっと気温の低い日が続いていて、開花のスピードも足踏み状態ですが、今年の桜はその分長く楽しめるかもしれませんね。

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水のかたち 《源平合戦図》から千住博の「滝」まで

2022年09月18日 | アート

招待券をいただいて、山種美術館で開催中の「水のかたち 《源平合戦図》から千住博の「滝」まで」を見に行ってまいりました。

過去に何度か書いているかもしれませんが、広尾にある山種美術館は、私にとって ”小さな宝石箱”と呼ぶのにふさわしいお気に入りの美術館です。山種美術館は山種証券の創業者、山崎種二さんが創設された日本画の美術館ですが

山種氏は巨匠の日本美術を収集するだけでなく「山崎美術鑑賞」を創設して、若い日本画家たちの芸術活動を支援してこられました。そのような経緯もあって、近代日本画作品が充実していることも、私の好みに合っているのかもしれません。

今は孫の山崎妙子さんが館長をされていますが、着物の着こなしが華やかなすてきな方です。Twitterでの情報発信や、趣向を凝らした企画展、カフェでいただける企画展にあわせた和菓子。自前の所蔵品だけで魅力的な展覧会を毎回開催できるのもすばらしい。

今回の企画展は 「水のかたち」。2016年にも「水を描く」という同じテーマの作品展を拝見しましたが、過去記事を見ると、私はやっぱり同じ作品に心惹かれていて、自分でも驚きました。人の好みは意外と変わらないものなのですね。

奥村土牛 「鳴門」 1959年

最初に私たちを出迎えるのはこの作品。山種美術館を代表する所蔵作品のひとつで、私も何度か拝見していますが、何度見てもすばらしい。実はこの作品にあわせて、この日はミントグリーンのスカートで出かけたのでした。

歌川広重 「阿波鳴門之風景」 1857年

今回、鳴門を題材にした作品が3点ありました。こちらは広重の描いた鳴門です。空の上から俯瞰した構図で、鳴門という自然現象を淡々と記録しているような印象も受けました。

石田武 「鳴門海峡」 1992年 (美術館のサイトからお借りしました)

もうひとつの鳴門は石田武さんの作品。石田武さんは以前拝見した「千鳥ヶ淵」という作品もお気に入りです。石田さんの作品の色使いや構図がとても好きです。この作品は群緑という一色の岩絵具を使って描かれているとあり、表現の豊かさに感嘆しました。

渦を巻く瞬間の水の厚みがリアルで、見ていると吸い込まれそうです。昔、ナイアガラ滝を見た時に、滝が流れ落ちる瞬間に、まさにこのような水の厚みがあって、吸い込まれそうになったことを思い出しました。

川端龍子 「黒潮」 1932年

「水を描く」展では、川端龍子の「鳴門」が展示されていましたが、今回は「黒潮」が展示されていました。龍子の「鳴門」と同じく群青を大胆に使った作品です。群れを成して跳ぶトビウオの目がいきいきと輝き、生命力を感じました。

千住博 「ウォーターフォール」 1995年

千住さんのウォーターフォールシリーズは、直島の家プロジェクトや、軽井沢の千住博美術館、本作品も「水を描く」展で見ていますが、何度見ても引き込まれ、圧倒されます。

無駄をそぎ落としたシンプルな作品に見えますが、上から流れ落ちる水と、それを受け止める滝つぼ、下から跳ね上がる水しぶき、とそれぞれどのように描き分けているのだろうかと想像力を掻き立てられます。

5色の滝を並べた「フォーリングカラーズ」も展示されていましたが、ウォーホルみたいな趣向が感じられ、こちらも好きな作品です。

中村正義 「日」 1969年

今回の展覧会では水のかたちを、雨と霧、川、滝、海、雪に分けて展示していました。本作は雪のコーナーにあった作品ですが、大雪のあとの晴れ渡った翌日、しんと静まり返った一面の雪の情景が頭に浮かび、心が洗われるような感動を覚えました。

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