Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

お山へ初詣

2020-01-03 | 祈り

 

姪が亡くなって半年。

ポッカリ空いた喪失感が時間の経過と共に徐々に癒えようとしていた。

若松英輔の「悲しみの秘儀」を読んだ。

逝った大切な人を思うとき、人は悲しみを感じる。

だがそれは、しばしば、単なる悲嘆では終わらない。

悲しみは別離に伴う現象ではなく、

亡き者の訪れを告げる出来事だと感じることはないだろうか。

中略

あなたに出会えてよかった、と伝えることから始めてみる。

相手は目の前にいなくてもよい。

ただ、心のなかでそう語りかけるだけで、

何か変わり始めるのを感じるだろう。

 

これを読んで、ずいぶん気持ちが楽になった。

そしてこの一年の締めくくりと新な年明けに向けて亡き姪の魂を

わが郷土の聖地、石鎚のお山へ送り届けようと思った。

亡き父母のように四国遍路巡礼で鎮魂することは時間的に叶わない。

それならば四国の聖地、霊峰石鎚に託すしかないだろう。

百八つの煩悩を消す大晦日から新年にかけて、お山の頂にナナの魂を送り届ける。

 

17時最終のロープウェイに間に合わなかった。

これがある意味、幸いした。

山麓の西之川から中腹の成就へ抜ける参詣の道を辿ることにした。

面河側からの源流域の原生林を垂直に辿る古道は何度も辿った。

でも、この道は初めてである。

暗い杉林を辿る単調さに山歩きの面白味を欠き敬遠していたのだろう。

とにかく風景が単調である。

とっぷり日の暮れた杉林は、ヘッドランプの灯りを消すと真っ暗(漆黒の闇)である。

ただ、いくつもの折り返しを繰り返し標高を上げてゆく。

あまりもの単調さに途中から「六根清浄」の祈りの言葉が唇に乗り、それがリズム感を持ち始めた。

子宮の入り口を思わせる大岩を過ぎたあたりから、

思念がスパーク(閃光)するように頭の中に映像が走り始めた。

道を折り返すたびにフィルム早回しのような鮮烈な映像が走り、

また神経回路が発火し、新たな思念が走り始める。

単調な動作の繰り返しと周囲を閉ざされ闇の中で、トランス状態に陥ったのだろう。

やがて成就のスキー場の灯りが木立越しに差し込んで来ていた。

参道は次第に狭くなり胎内めぐりの最終段階を予感させた。

これも修験道の宗教体験的装置なのだろう。

木立を抜けると、そこは中宮成就社への参詣道だった。

しばらく歩いて振り返ると青白いライトが浮かび上がった。

ヘッドランプの灯りかと思うとスマホのディスプレイの明かりだった。

近づいてくる明かりは、まだ年端のゆかない少女二人だった。

どうも私の後ろをつかず離れず付いて来ていたようだ。

暗闇の中、見知らぬ男に声をかけるのも怖い。

かといって置き去りされるのも怖い。

それに先行の男は、「六根清浄」と怪しい言葉を繰り返していて不気味だ。

少女たちの心の内が透けて不憫だ(苦笑)

成就の白石旅館に到着して、少女たちの話を聞いた。

長野県の諏訪から冬休みを利用して石鎚山へ来たと云う。

白石旅館には予め宿泊予約を入れていたようだ。

最終ロープウェイに乗り遅れて私の後をついてきたのだろう。

お互い空腹だったので、夕飯を御馳走して少女たちの苦労を労った。

後は白石旅館のOさんに託して、私は再び腰を上げ、山頂を目指した。

亡き姪の供養の登山で、こんな年端のゆかない少女たちとの邂逅も

何か不思議な巡り合わせだ。

樹林帯を抜けて夜明峠から、くっきりと街明かりに浮かぶ石鎚の白い嶺と、

その上に燦然と輝く冬の星座群そして横たわる天の川が見事だった。

新年、御来光の風景は、思いの外、凡庸な朝だった。

まぁ何事もなく平穏な一年であることを祈るばかり。

 


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5 コメント

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初日の出 (鬼城)
2020-01-04 08:06:15
素晴らしい写真の数々、さすがです。
最初の写真は平山郁夫の「シルクロード」を思い起こします。
こんな写真、大好きです。
厳冬期の石鎚の姿、久しぶりに見ました。
大学から冬合宿の誘いが来ましたが、体力的にも無理でお断りしました。
神様の山だから? (ランスケ)
2020-01-04 13:25:51
年始から穏やかな晴天が続きますね。
結果的にこの日が、唯一の雪山撮影チャンスだったようです。
週間予報を見ても、仕事始めの週明けは17℃の春の陽気が予想されています。
暖冬傾向の顕著な今年の冬は、この先も撮影チャンスが少なそうです。

今回掲載の写真は、雪山撮影としては条件が悪かったので苦心の構図です(笑)
予想していましたが、元旦のお山は人が多過ぎました。

今回の収穫は、西之川から成就の暗闇の参詣道で体験した胎蔵界曼荼羅を思わせる、
洪水のような映像(思念)の氾濫でした。
村上春樹の「騎士団長殺し」でも禅定の黄泉めぐりで、これに近い記述がありました。
「現代霊性論」で釈徹宗は、「こういうのは生理現象だから気にしなくていい」と言っていました(笑)
神様の山ですからね⋯神秘体験は付き物なのでしょう?
なぜ石鎚なのか? (ランスケ)
2020-01-04 13:51:25
もう一点、今思い返しても不可解なのが、
長野県の諏訪から、わざわざ初日の出を見に四国の石鎚山を訪れる少女たちの行動原理です。
諏訪からの初日の出なら、裏山の高ボッチから富士山越しの朝日は有名な撮影スポットです。
景勝地信州なら、その他、いくらでも御来光の絶景ポイントはあります。
なぜ?わざわざ遠い四国の石鎚山まで⋯??

こちらに親戚や知り合いがいるわけでもなさそうでした。

おじさんの知らない少女たちの世界(SNS)では、神の山、石鎚がトレンドなのでしょうか?
願い事を叶えてくれる、とか?
価値観 (鬼城)
2020-01-07 08:35:51
SNSの普及と百名山などの番組で宣伝効果があるのではと思います。しかし、厳しい山と言うことは知りません。事故が無ければと祈念しています。
昨日、6日のBSで百名山、紅葉の石鎚でした。自然のすばらしさ、石鎚を追っかける写真家が出ていました。映像、最近はドローンを駆使していますね。冬は無理ですが、春には・・・
不穏なニュース (ランスケ)
2020-01-08 01:50:29
元旦の石鎚は、御覧の通り積雪も少なく、それほど危険な状態ではなかったと思います。
ただ、下山時は何か所か凍結して滑りやすくなっていました。
軽アイゼン等の滑り止めがあった方が無難なことは間違いありません。

白石旅館のOさんに彼女たちは簡易アイゼンの装着を受けていました。
寒冷地である諏訪は冬季、氷点下10℃は普通なので彼女たちは凍結した路面には慣れているようです。
それでも、鬼城さんご指摘のように冬季の2000m級の山へ登る格好ではなかったですね(笑)

結果的に下山時までに少女たちと出会わなかったので、山頂まで登って来ていないと思います。
無事に諏訪まで帰還したことを祈ります。

それよりも年始早々、物騒なニュースが飛び込んで来ました。
オリンピックの開催も危ぶまれる戦争勃発の可能性大の不穏な情勢です。
これもアメリカのドローンを使った明らかにテロ行為です。
中東へ国会の承認なしで自衛隊の派遣を決めた安倍内閣です。
このままズルズル、トランプの仕掛けた戦争に引き摺り込まれそうな情勢です。
毎日、ニュースの行方を注視しています。

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