Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

東北 on the road / 白神山地~十和田湖~野辺地~恐山

2014-08-24 | 自転車

 

旅の終わりは、唐突に訪れた。

それは、あまりに暴力的で意識を断ち切るような終わり方だった。

その現実を受け入れるのに、どうしても時間を要した。

もう一度、そこに至る旅の最後の三日間を、時系列に沿って振り返り、

何が起きたのか再検証してみたいと思います。

 

 

8/15 白神山地、暗門のキャンプサイトは、朝から雨だった。

前夜の天気予報では、正午前まで曇天だったのに。

ぐっしょり濡れたテントや湿気で重い寝袋を手早くたたみ、

降り続ける雨の中、撤収を終える。

出発前の自転車の点検作業。

雨天の走行はリスクが大きいので、空気圧やブレーキパッドの

点検には充分に注意したつもりだ。

雨降りの中、パンク修理は勘弁だ(笑)

 

暗門まで息を切らせて上った山道が、すべて下り坂となる。

雨降りの下り坂は、ブレーキが利かないと、

散々、出会った自転車旅のツーリストから聞かされていた。

荷物を積んだ重い車体は、格段に制動力が落ちる。

案の定、ブレーキを掛けても、ゆるゆる上滑りするようだ。

下りカーブ、加速がついたまま突入。

なんとか身体を傾けて、すり抜けた。

もう格好なんか気にしていられない。

片足を地面に滑らせバランスを取りながら、

次々と迫って来る下りカーブをやり過ごした。

ダム湖のトンネルを抜けて、平坦な道に出た時には、

心底、ほっとした。

 

その日、一日雨が止むことはなかった。

弘前まで戻り、どしゃぶりの雨に弘前城追手門で雨宿りした。

桜の名所、弘前城のお堀に沿った桜並木は、

予想以上に素晴らしい隆々とした樹形の桜樹の佇まいに驚いた。

北国の城下街は、雨天の通過点だったが、

しっとりとした好印象を残した。

R102に入り、十和田湖を目指す。

奥入瀬や八甲田や山間の名湯巡りを頭に描いていた。

この日一日雨降りのためカメラはザックに入れて封印した。

上下、黄色のレインウェアに背中のザックにも黄色のレインカバー。

視界の悪い雨天走行では、車の注意を喚起することに努めた。

 

黒石から十和田湖展望台まで、延々と上り坂が続く。

東北の山道は、冬の積雪のために傾斜をゆるくしていると聞いていた。

確かに四国の山道と比べると、ゆるいのだが、

その上り坂が、いつまで経っても終わらない。

これには、さすがに根を上げた。

最後は、もう押し歩きだった(汗)

でも、この渓流に沿って走る道や十和田の深い森に抱かれた道は、

どれも晴天の木漏れ日の中を走ればと

想像の翼を広げたくなる印象深い道ばかりだった。

十和田展望台から十和田湖畔に下る山道も急傾斜で一気に下る。

幸い、道が広いのが有りがたい。

ゆるいブレーキに冷や汗をかきながら、

前傾姿勢で降り頻る雨と風圧に、ひたすら耐えながら下りきった。

冷えて凍えた身体を、日の暮れた5時過ぎ、十和田湖畔の温泉宿で暖めた。

 

 

8/16、 明けた朝も雨は止まなかった。

宿の窓から雨に煙る十和田湖が見える。

テレビの天気予報は、ここしばらく天候が回復しないとを告げていた。

ずらりと並んだ雨マークに、八甲田の山道を辿ることを諦めていた。

今日は奥入瀬渓流を散策して、下北半島を東北旅の折り返し点まで。

羽黒山に続いて、東北の霊場(パワースポット)恐山を目指すことにした。

 

しとしと雨に煙る奥入瀬は、そのまま山水の世界を模した庭園の究極の姿だった。

溢れる行楽客を風景の中から掻き消せば、

そこは幽玄の冥界に誘われてしまうそうな深い森と渓の佇まい。

天候の回復が見込めれば、数日を、ここと八甲田をセットにして

ゆっくり滞在したい場所。

 

奥入瀬から山を下った、十和田市の街路樹は、ナナカマドだった。

早くも赤く色づき始めている。

東北の自然が放つ色彩は、とても濃密な印象。

路傍に咲く、萩も葛も麒麟草もミズヒキも女郎花も、ススキさえ濃密な

自然本来の色味を放つような気がする。

私の東北に対する偏愛とも云えるフィルターが掛かっているせいかもしれないが?

 

正午過ぎの国道上の気温表示は21℃だった。

秋田から青森にかけて、ずっと最高気温が25℃以下の日が続く。

土地の人の話を聞くと、八月半ばを過ぎると、こんな天候なのだと云う。

日本列島は弧を描くように南北に長い。

四国では考えられないような冷たい夏に、気候風土の違いを実感していた。

雨の降り止まない空模様に、早くもめげて温泉宿を探していた。

でも今日は週末の土曜日、どこも満室で断られた。

野辺地郊外で、やっと宿を見つけた。

長期滞在者用の民宿で、泊り客の大半は六ヶ所村の核燃再処理関連のお仕事。

今はお盆休みなので、閑散としていた。

泊り客がいないので、お風呂に湯が張っていない。

シャワーだけでは、一日雨に打たれて冷えた身体が温まらない。

 

8/17 、下北方面一日曇天の予報が、またしても裏切られ雨降りだった。

今日は、むつ市経由で恐山から薬研渓谷の温泉つきキャンプサイトを目指す。

旅の折り返し点は目前だった。

雨も降ったり止んだりを繰り返していた。

海沿いに延びた一本道。

丘陵地帯を走る適度にアップダウンのある道は気持ち良かった。

風の強い丘陵地帯には風力発電の風車が林立する。

こんな風景の中で、ロードサイドストーリーをイメージする撮影を試みた。

(冒頭から4番目までの画像)

 

むつ市郊外、恐山手前のコンビニで今夜の食糧を仕入れ、山道に入った。

山に入ると、また雨が降り始めた。

霧が視界を閉ざし、雨足も強くなって来た。

東北の古い霊場である恐山への道は、狭くて急傾斜箇所も多かった。

恐山山門のゲートを潜ると、後3kmの表示。

午後3時半ころだったと思う。

夕方を思わせる薄暗い空模様だった。

しばらく行くと、やっと上り坂が終わり下りにかかる。

上り切った坂の向こうは、急傾斜に落ちていた。

ブレーキレバーに手を掛ける。

スカ、スカ…虚空をつかむように抵抗感がない。

カーブが目の前に迫ってくる。

前傾姿勢を取り、体重を乗せてブレーキレバーを握る。

掌に残る空しい感触に慄然とする。

最初のカーブは反射的に体重移動して、すり抜けたようだ。

制動が利かないため、どんどん加速がついて来る。

このままの状態で急傾斜の坂道を下り続ける、

その先に待っているリスクに立ちすくみそうだ。

また次のカーブが迫ってくる。

「止まってくれ」、そう強く念じた。

どーん衝撃が来て、荷物が路面を上滑りしてゆくのが見えた。

意識が戻った時には、道路上に呆然と佇んでいた。

「大丈夫ですか?」

対向車線から声が聞こえてきた。

恐山方面から上ってきた自転車旅の青年だった。

彼は、ずっと最後まで事故の事後処理の介助をしてくれた。

山中のため、携帯が繋がらない。

恐山方面は何もないので、むつ市に戻った方がいいだろうという結論になった。

何台か車を止めて交渉した。

弘前からやって来た家族連れが、むつ市までの同乗を引き受けてくれた。

名前も聞かなかった青年と車窓越しに別れの言葉を交わす。

最後まで親身になって心配してくれた彼の無償の善意を忘れない。

心から、ありがとう。

車に乗せてくれた弘前の家族も、

日曜日だったため、通行人に声をかけ、救急病院の場所を確認して、

その場所まで送り届けてくれた。

窮地に陥った時に、差し伸べられる

見も知らぬ人からの無償の善意ほど心に沁みるものはない。

28日間の旅の、かけがえのない宝物は、これだったかもしれない。

ありがとうございました。

 

診断の結果、右肩鎖骨骨折と右ひじ裂傷、小指の縫合で済んだ。

全身麻酔のため、手術には家族の同意が必要ということで、

処置をしてもらい4日間入院後、事故の事後処理を終え四国へ鉄道で帰還。

現在、松山市内の病院にて療養中です。

 

警察の事故検証によると縁石に乗り上げて自転車は止まったようです。

救急病院で同室だった地元の人の話では、この場所は事故多発地帯だったとか。

そして、この場所の先には、崖が待ち受けていたらしい(怖)

サイクルコンピュータに残った記録は、57kmというスピードを記していました。

 

救急病院最後の朝、雨上がりの恐山に架かる虹は、

なんだか、この旅の終わりを象徴するような over the rainbow でした。

 

8/15 走行距離、114.64km。

8/16 走行距離、85.62km。

8/17 走行距離、、65.97km。

 

28日間、全走行距離、2200kmを越える自転車旅でした。

 

 


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20 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
降りやまない雨 (misa)
2014-08-24 22:19:27
夕暮れの散歩道では虫の声・・・・・
夏の風に吹かれることなく季節は秋にバトンタッチされようとしています
読み終えて
ただただ手を合わせ神に感謝
Unknown (ひろぞう)
2014-08-24 22:29:12
何事が起こったのかとドキドキして読ませていただきましたが
松山に帰られて治療中とのこと、ホッと胸を撫で下ろしました。
ゆっくりと体を休め治療に専念してください。
お山でランスケさんに会えること楽しみにしています。
言葉足らずですみません。
                      ひろぞう

癒し難い病? (ランスケ)
2014-08-25 06:16:27
おはようございます。

ちょうど今、病室の窓から黒い雲間に黎明の朱が走り、
明けゆく石鎚の姿がシルエットで望めます。

この風景を見ると、帰って来たのだと実感します。

今年も天候不順の夏でした。
広島の惨禍は、最早他人事ではありません。
かつて経験したことのない…
という気象災害に対する言葉を、こう何度も聞くようになると。

私の怪我も、なんだか歳時記のように頻発しています。
注意散漫というよりも、もっと別の問題。

先日、ホッホさんが訪ねてきて、「無茶をする」と嗜めていました。
風景写真の頃から、自分の身体的限界を超えるような向こう側にある世界を、
見たいと何時も思っていました。
もう、これは私自身の癒し難い心の病かもしれません?

でも、この2年くらいで3度の事故は多過ぎるよね(汗)
それだけ身体能力が衰えたと云うことかな?
紅葉に間に合うか? (ランスケ)
2014-08-25 06:24:37
ひろぞうさん、ありがとうございます。

ブログを拝見すると、雨に祟られましたね。
雨天は事故が多いので、お互い気を付けましょう。

ギンヤンマのホバリング写真は、好いですね。
今度、会ったときに飛翔写真のテクニックを教えてください。

さぁ、秋の石鎚に間に合うでしょうか?
お見舞い申し上げます (鬼城)
2014-08-25 07:50:39
楽しみにしていた、ロードムービー的なサイクリングの旅、大変でしたね。
素晴らしい写真の数々が、旅の重さを語ってくれます。
今は養生在るのみ・・・
怪我が後を引かないように祈念しています。秋には紅葉の便りを聞くことが出来るようがんばってください。
ランスケさんの旅、もう一度、出発から読み、見直してみます。
旅の再開 (ランスケ)
2014-08-25 10:59:12
鬼城さん、ありがとうございます。

この病院は、ベッドの真正面の窓に石鎚が位置します。
今日は、日が高くなるに従って青空が広がり、石鎚から皿ヶ嶺連峰まで、
よく見晴らせます。

旅の挫折感から、ようやく立ち直れそうな感じです。
病院の看護師さんや先生から、
「怪我が治ったら、また旅を再開しますか?」と聞かれます。
正直、まだ、あのブレーキがまったく利かない恐怖感がありありと蘇ってきます。

街乗りは大丈夫だけど、自転車旅を再開するには、もう少し時間がかかりそう。

入院用に、また沢山、本を持って来ました。
ブログの更新は、本の紹介になりそうです。
Unknown (misa)
2014-08-25 17:04:40
自分の身体的限界を超えるような向こう側にある世界を、
見たい
癒し難い心の病かも?
この2年くらいで3度の事故,・・・・・・・・
正しくそれは私そのもですよ、1年で3度の骨折ですしね
お互い懲りない面々なのでしょう(笑)
同病相哀れむ (ランスケ)
2014-08-25 19:06:36
misaさん、同病相哀れむ、は哀しいですね。

お互いに、この程度で済んでいるは、運がいいのだか悪いのだか判断に苦しみます。

結局、私の撮りたかったロードムービースタイルの旅写真も中途半端な形で終わりました。
旅の後半は、被災地の人と風景を撮りたかった。
これは2年前の東北への旅で、やり残した課題でした。

でも、70年代に制作されたアメリカンニューシネマで繰り返し撮られたロードムービーを、
原形とするならば、この理不尽で唐突なエンディングは、
なんとも破滅的な着地点へのシンクロニシティを辿ったことか?
歳を重ねているのです (karina)
2014-08-25 19:48:06
ランスケさん こんばんは~

子供の頃は平気で登っていた高い木も今では怖くて登れない。自転車に乗って平気で行った小川の縁の狭い道も今ではバランスが取れなくなって怖くて自転車をついていく。
心は若くても身体は確実に老いていっているなと感じる今日この頃です。

一日も早く良くなって優しい色合いの写真を見せてください。
潜在的身体能力 (ランスケ)
2014-08-26 09:26:51
karinaさん、お久しぶりです。

昨夜は五階の病室で澄んだ虫の声が聴こえました。
もう間もなく九月、秋の気配ですね。

karinaさんの仰るように、確実に身体能力は衰えてゆきます。
それに委ねて穏やかに年を重ねる方が幸せなのかもしれません。

でもねkarinaさん、人が本来持っている身体能力を私たちは、
便利さや快適さに身を委ねて見失っていたのですよ。
その潜在的な身体能力は、ある程度鍛えれば目覚ましく伸びてゆきます。
人の心と身体は連動しています。
本来、人が持っているスケール感を取戻し、身体感覚を伴った空間移動を体験する日々は感動的ですよ。

結末は悲劇的でしたが、旅のときめき、苦難を乗り越えてた向こうに広がる世界、
これらは日常生活では得られない感覚や歓びだと思います。

karinaさんも、老いに身を任せないで、是非。

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