Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

雨の日に本のページをめくる。

2010-03-24 | 
 今日も雨が一日降っています。
 
 私は、けっこう雨の日が好きだ。
 春の雨は、新しい命を育む雨、芽生え萌ゆる草木を慈しむ雨。

 父の退院後、少しづつ生活のリズムが戻ってきた。
 母も心なしか表情に明るさが見え始め、簡単な意志の疎通も可能になった。

 今日は少し本の話をしましょう。
 しとしと軒を打つ雨音に耳を傾けながら本のページをめくる時間は
 抱えて来た一週間分の屈託(心の澱)をきれいに濾過して
 もう一度リセットしてくれるかもしれません?

 私は、いつも手元に数冊の本を置いている。
 頭をからっぽにしたい時、パラパラめくるには最適の本です。
 そのなかの一冊、川上弘美の書評集「大好きな本」朝日新聞社
 を紹介しましょう。

 朝日新聞読書欄の書評を担当していたときからのファンで、
 日曜版の読書欄に著者の名前を見い出すのが楽しみでした。
 梨木香歩の「家守綺譚」などは、その紹介文のあまりの面白さに
 紀伊国屋まで走った思い出があります。

 川上弘美に限らず作家の書いた読書案内は読み物として
 面白いものが多いようです。
 河出書房刊の世界文学全集を編集している池澤夏樹「読書癖」「海図と航海日誌」
 小川洋子の「博士の本棚」等々…(池澤夏樹は星野道夫や旅の話、イラクのこと等
 書きたいことが沢山あるので別の機会に触れます)

 彼ら彼女たちに共通しているのは、日常的に本を読み続ける
 根っからの本好きであることです。
 おそらく本好きが高じて作家になった幸福な人たちです(笑)
 本人が愛してやまない本を紹介しているのですから
 もう、それは春の日溜りのような幸せな本との時間です。

 ちょっと一部内容を抜粋します。
 ―堀江敏幸「熊の敷石」―

  堀江敏幸の、文章について。
 そこには、少し入りこみにくい。、
 水の中に入ってゆくときの 入りにくさに、似ているかもしれない。
 体に、さからう、動きづらくてもどかしい。
 けれども一度水の中に入ってしまえば、いつの間にか水にさからわず、
 体は反対に軽くなり、もどかしさは快楽にも似たものに変わってゆく。
 それが堀江敏幸の文章に入っていくときの感じ。
 (中略)
 堀江敏幸のつくる水の中には、こういう逸話がいくつも流れていて
 ぶつかると笑い出してしまう。
 水の中で笑うのは、苦しくて。
 また、哀しくて。また、うっとりして。
 ないまぜになっているから、そのまま水から上がりたくなくなってしまう。
 それが水の中で笑う感じ。
 だから堀江敏幸を読む歓(よろこ)び、について。
 水の中で静かに哀しんだり歌ったり笑ったり。
 そのときすでに水は水でなく、かといって空気でもなく、
 自在なものとなって、語り手の「私」と、水に入りこんだ読者のまわりを
 かこんでいる。それが堀江敏幸を読む、歓び。

 ちょっと抽象的で判りづらいかもしれませんが
 これほど堀江敏幸の文章を巧く表現したものを知らない。
 川上弘美は著作同様に夢とうつつの境をたゆたうような
 ゆるさで愛しい本たちへの想いをつづる。
 遂つい、そのゆる~い世界に惹き込まれて、
 気がつくと、そのゆるさに身を委ねて気持ち好くたゆたう自分がいる…

 もう一冊、小川洋子の「博士の本棚」新潮文庫。
 私の現在、もっともお気に入りの作家が小川洋子。
 「博士の愛した数式」で著者の「あらかじめ失われたものたち」の世界に
 触れた遅いファンですが、その透明感あふれる無垢なものたちの世界は美しい。
 「ブラフマンの埋葬」「ミーナの行進」短編集「海」(以上文庫化)
 そして最新作「猫を抱いて象と泳ぐ」。どれも切なく美しい物語。
 
 「博士の本棚」は川上弘美同様、本好きが高じて作家になった
 小川洋子の愛しい本たちの読書案内です。
 ポール オースター、吉田篤弘、レベッカ ブラウンにエリザベス ギルバート
 「巡礼者たち」…もう幸せな本との時間が蜜蝋のようにとろ~り溶け出しています。

 これでは私自身の彼女たちへのラブレターになってしまいました。
 春のやさしい雨音に耳を傾けながら「幸せな本との時間」に身を委ねましょう。

 さて来週は、父母を久し振りに連れ出して満開の桜の花を観に行こうか。



 



 

 

 
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ファミリーポートレート | トップ | 「石鎚山の四季」 compilatio... »

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事