Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

Good morning

2012-12-12 | 風景

 

待望の寒気がやってきた。

四国地方山間部にも大雪を降らせるこの冬一番の寒気の南下。

Kさんと待ち合わせて、粉雪の舞う石鎚表参道成就社を午後一時半出発。

ロープウェイ山上駅から成就社辺りまで30cm以上の積雪。

白石旅館のI さんの話では、この数日で一気に積もった様子。

日曜の今日は、すでに三人が入山したらしい。

さらさらの新雪のラッセルは体力を消耗する。先行する三人のトレースはありがたい。

出発時刻には、二人が下山してきたとKさんが成就社境内の人影を指す。

この時刻に山頂を踏んで降りてきたのなら、それほどの深い雪でもなさそうだ。

山門を抜けて真っ白の銀世界に足を踏み出す。

 

 

まっさらな雪面にトレースが、ずっと続く。

楽勝かと思っていると、やっぱり前社ヶ森手前から、さらに雪は深くなり時折踏み跡が途切れる。

夜明峠手前で、もう一人の入山者と出会った。

「上まで行きましたか?」と聞くと、

「とても雪が深くて行けなかった。二ノ鎖の鳥居までは辿り着けなかった」と答える。

その上、それから先はトレースは無く、誰も山上には達していないらしい。

そうすると成就社で見た二人は山頂を踏んでいなかったのか。

「今からだと暗くなりますよ」という言葉に

「この山は年中入っているから大丈夫ですよ」とせっかくの助言を受け流してしまった(汗)

彼の助言は正解だった。その後に、たっぷり思い知らされる。

 

 

トレースは一ノ鎖手前の小屋の斜面で途切れた。

吹き溜まりの斜面は、ずるずる腰まで埋もれる。

ピッケルを出して雪掻きを始める。

さらさらの蟻地獄のような雪を掻きだし踏み固め少しづつ前進。

吹き溜まりを脱出しても、さらに膝上の深い雪との格闘は延々と続く。

Kさんと交代しながらラッセル、ラッセル。

二ノ鎖手前で暗くなりヘッドランプを取り出す。

雪まみれになって弥山冬期避難小屋に辿り着いたのは、8時前というとっぷり日の暮れた時刻。

久しぶりのハードなラッセルに膝が上がらない。

とりあえず雪まみれの装備を解き、温かい飲み物でほっと人心地。

その夜はKさん持参のステーキや鍋料理をたっぷり御馳走になり身体の内側から温まる。

一晩中、吹き荒れる吹雪の音の止まぬ夜だった。

 

 

事前の天気予報から山上が晴れるのは月曜の夕方以降だろうと予想していた。

そのために三日分の食糧と水を担ぎ上げてきた。

ところが明方前にトイレに立ったKさんが「月が見えている」と云う。

5時半、私もトイレに戸外に出る。

空が抜けて星空が見える。その上、天狗岳が雲間からシルエットで浮かび上がっている。

慌てて小屋に戻りKさんに知らせる。

カメラ機材を揃え、ありったけの防寒着を着込む。

その朝、山上は氷点下13℃だった。

空を覆う雲が北の風に乗って引いてゆく。

眼下に西条の街灯りが見える。

次々雲が押し寄せ引いてゆく。

やがて黎明の色が東の空を染める頃、びっしり雪を纏った山上の銀世界が、その全貌を現わす。

期待感に胸がときめく。

岩黒山の上あたりに、ぽっと明かりが灯る。

押し寄せるガスが薔薇色に染まり、世界は一気に茜色の輝きに包まれる。

息を呑む美しさに身体が震える。

神々の舞い降りる光芒の朝だ。

「ヤッホー」

涙が滲んでくる。

最後はダイヤモンドダストの煌めきまで、わずか2時間ばかりの奇跡的な山上の朝だった。

その後は夕方まで、山上は再び乳白色のガスの底に沈んだ。

 

 

午後2時。天候の回復は、あんまり望めないが黄昏の光に染まる墓場尾根を期待して天狗尾根に踏み出す。

取り付きの鎖も雪に埋もれているので掘り出す。

尾根伝いも膝上の雪に埋もれ、ラッセルを強いられる。

岩場は風雪に凍りつき蝦の尻尾が張り付く。

12本爪のアイゼンとピッケルで足場を刻んでゆく。

南尖峰に辿り着くと面河方面の谷が透けている。

Kさんが慎重にザイルを張って、凍った岩場に支点を築く。

見下ろす柱状尾根が白く雪を被り、ガスの狭間から見え隠れする。

そして一瞬の雲間からの寸光が昏い背景から、輝く真っ白の墓場尾根の浮かび上がらせた。

その後、ガスが視界を閉ざし、黄昏の光が射すことはなかった。

 

 

翌朝も見渡す視界いっぱいに雲海の広がる山上は、光芒に包まれた。

お山の神様に何度も柏手(かしわで)を打ち、感謝を込めて山を下りた。

二日前のトレースは見事に降り続いた風雪に掻き消されていた。

お山からたくさんの授かり物を頂いた帰路は足取りも軽い。

成層圏まで抜けるような紺碧の空に映える真っ白な霧氷樹に何度も足を止めながら冬晴れの銀世界を下った。

 


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6 コメント

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Unknown (鬼城)
2012-12-12 18:04:57
素晴らしい写真、感動です。
この冬一番の冷え込みとか。
この異常寒波襲来でパウダースノーだったんですね。
それにしても山の神様がほほえんでくれたチャンスでしたね。
祈りか、心がけか!
引き返す勇気 (ランスケ)
2012-12-12 20:25:02
おっ、鬼城さん、鎌倉に行っていますね。
相変わらずフットワークの軽い行動派の鬼城さんです(笑)
鎌倉方面ということは奥さんと一緒にお孫さんに会いに行かれたのかな?

久しぶりのハードなラッセルでした。
その甲斐があって感動的な雪山の朝を迎えることが出来ました。
でも、この寒波、南アの仙丈岳や越後駒ヶ岳辺りで遭難事故が相次いでいますね。

実はブログには書きませんでしたが、下山中に雪山初心者の青年と出会い「このまま登ると5時の最終ロープウェイに間に合わないから」
と云って諦めて下山させました。
厳冬期の二の鎖から上は、別世界です。
どうか自分の技量や体力に合わせて途中で引き返す決断を忘れないでください。
やはり (misa)
2012-12-12 21:49:29
今日は5時間の超勤で明日朝3時に出ます
さて女神はほほ笑むか否かです
おそらく今年最後のチャンスかと・・・・
まだ観ぬ風景 (ランスケ)
2012-12-12 22:51:24
松山でも今日は初雪が降ったようです。
明日は朝から晴天の様子、山は面白そうですね。

さてmisaさんは、どちらへ行かれるのか?
あの伊吹山のような突き抜けた風景を期待しています。

私は、まだこの風景では満足していません。
まだ観ぬ光芒の朝を求めて、この冬いっぱい通い続けます。
こんばんは (いけぴー)
2012-12-12 23:54:23
慣れた人でも撤退せざるを得ないほどの雪なのに山を登りきってしまう。すごすぎます!

過酷だからこそ素晴らしい景色があるんですね。
お楽しみは、これから。 (ランスケ)
2012-12-13 12:16:33
今朝は松山方面からも、真っ白な石鎚の山並みが望めました。
イケピーさんも沸々と闘志を燃やしていることと思います(笑)

アドヴァイス通り、来島海峡の夕景に挑まれていますね。
今回の雪山も一面の雲海だと、どうしてもオーバー気味の露出となってしまいます。
朝夕の明暗差のある露光状態での撮影に対処できるようにカメラの操作に慣れてください。

確かにハードなラッセルでしたが、スノーシューが有れば、こんなに苦労することはなかった筈です。
まだ12月初めということで雪山の状態を甘くみていました。
それとKさんとも話していたことですが、石鎚は山上に冬期避難小屋があるので安心して強行突破できます。
これが他の山だと途中でビバークということになりますからね。
それと冬山で自分の安全を守るのは、やっぱり装備だと思います。
それなりの事前の準備を怠らないよう心がけましょう。

イケピーさん、12月下旬辺りから石鎚は本格的な厳冬期の雪山の相貌を見せてくれます。
仕事が一段落したらお楽しみに。

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