Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

世界文学の頂に挑む「カラマーゾフの兄弟」

2010-09-20 | 
 
 カートヴォネガットが、人生において知るべきことのほとんどが
 ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」に書かれている言い、
 村上春樹が、最も影響を受けた3冊の本として本作を挙げ、
 オーム真理教信者も「カラマーゾフの兄弟」を読んでいたら
 こんなことにならなかっただろうとインタヴューで発言したという。

 世界文学史上最も高い評価が定着したドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」。
 山に喩えるなら8000m級の巨峰、それもエヴェレストやK2のような傑出した頂。
 そして小林秀雄が「40、50歳を過ぎてから、もう一度読み返してほしい」と言った本作。
 やっと入院療養というこの機会に長大な物語の世界に取り掛かった。

 ロシア文学は中学生のときに「戦争と平和」で挫折して以来、敬遠していた(笑)
 唯一ソルジェニーツインの「イワン・デニーソヴィチの一日」は短いので読んだ。
 
 先入観は見事に覆された。面白いのだ。
 貪るように読み続けた。
 それでも読み始めてから読了まで八日間を要した。

 19世紀末、帝政ロシア末期社会主義革命が蜂起される前夜。
 そしてキリスト教世界における宗教的背景は正直理解を超える。
 文学史上語り尽くされた命題にはあえて触れない。
 またそれは、私には荷が重過ぎる。

 父殺しという永遠のテーマを物語の骨子としながら
 家族崩壊、幼児虐待、自己の欲望のみに邁進する人々という
 現代社会を予見するような救われない状況も描き語られる。
 そして、この物語は神との対話や克服できない心の闇、人としての在り方を
 語りながら、「寛容」を幾度も描く。
 
 それは物語の核といわれる「大審問官」という叙事詩にしても
 死期の迫ったゾシマ長老との対話にしても、甦ったキリストの接吻や
 ゾシマ長老の接吻という形で、挿話の最後にそっと添えられる。

 人間は形成する集団のなかで、率先して「利他的行動をする」という遺伝子を受け継いでいる
 という記述を最近読んだ生命科学の本の中に見い出した。

 父母の老いを見守り、父の死を間近で看取り、衰えゆく母に寄り添うなかで
 私自身も意識しないままに「生命の意味」を問い続けたように思う。
 年明け以降、手にとって読み続けた本は、そんな問いかけや記述に溢れていた。
 そして期せずして放送されたNHKスペシャルの
 宇宙の8割を形成するという謎の物質「ダークマター」と
 細胞を初期化するという「ips細胞」という夢の細胞の存在と発見は
 改めて生命の意味を深く私に問いかける番組だった。

 先日の検査で、潰瘍は順調に快癒へと向かっているようだ。
 今朝から食事も「全粥」へと変わった。
 私の退院も近そうだ。
 今治のKさん、カタックリさんお見舞いありがとうございました。
 確かに母は、お二人を認識したようです。

 

 
カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)
原 卓也
新潮社

 
カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)
原 卓也
新潮社

 
カラマーゾフの兄弟〈下〉 (新潮文庫)
原 卓也
新潮社


 
 
 

 

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