大手グルメサイトの営業だった。
『お時間?チョットだけ良いですか?』、う〜んあんまり良くないのよ、と逃げの態勢になる。
チョットだけ見て欲しいのてす!とタブレットを開く。
それは十二月の検索数と実際の売上のデータだった。無料プラン故に御社は幾らスクロールしても中々出てきません。
それなのに?この近隣地区の有料プランのお店の平均の5倍から6倍検索されてます。売上も同様……に突出して大きいのです。お客様はワザワザ御社の店名を入力して検索して訪問しているのです。
そこでです!!……。
有料にしたら?もっと売上效果が上がるって君は言うんでしょ?……。
そうです!!
あのね?上に掲載すれば露出度は高い。検索のし易さからもっとヒットして売上もアップするってか?
君達グルメサイトの最善最大の価値観は『露出頻度が高く』、『検索数がより多く』、『より多くの人が知っている店』が素晴らしい!という訳でしょう?……そうです!!
どうして?この店が扉を二重扉にして入り難くしてると思う?少々の度胸じゃ開けられないでしょ?恐々と開けてやっと入ったら?何?ここ?ってな雰囲気に驚かされる。『普通じゃない!』となる。
『食べ物』を売るなら?『量が多く売れること』が正義だとなる。
僕達、小規模店はそれだと勝てない。効率一辺倒なら?大規模な組織、資金を持つ相手を前に一気に敗北するしかない。
僕達は高単価の『食事』を売る事を宿命づけられているのです。モノじゃなくコト。
食べ物の物理的、量的なコスパじゃなく、五感全てに訴えかける(全体の雰囲気……内装、音楽、接客など)『付加価値の高いコトのサービス』を売らなきゃ生きて行けない。
するとね?『誰もが知ってる』、『誰にも好かれる』量的コスパが優れていることは逆に僕達に取ってはデメリットになるのだと……僕は言った。
100人の女全てに好かれてる男をあなたは『この人でなきゃダメ!』って選びますか?
『私だけが知っている魅力を持つ男』をあなたは選びませんか?
ワザワザ嫌われる事を選んでる訳じゃないけれど僕達の店は結果的に百人の人間の二、三人の人に好かれる存在にならなきゃ死を意味するのです。結果的に90%を超える人には知られないまんまか?嫌われる、少なくとも好かれることはないのです……と僕は言った。
『敢えて少数派を選んで』そこにエネルギーを集中して『好意を求める生き方』もあるってことなのです……。
より多くのものを、より安くして、より沢山売る世界もあれば……僕達の様にその価値観に背を向けなければ生きて行けない…世界もあるって事です……。
露出を避けているのは?自分から求めて『探してでも見付けてくれる人』を僕達は心待ちにしているからだ……と。
折角、熱意を以て訪ねてくれた貴女に申し訳ないが……ご希望には添えかねるのです。
彼女は『とても良い勉強になりました……』と言った。
皆が言うこと。皆が良いと思うことが必ずしも『正しく全てではない?』……というのは新発見、大発見でした……と。
データの読み方にも様々な条件を加味しないと駄目ですね……?という彼女に僕は言い加えた。
人の言ってる事を『ホント?って疑う事って大切だと思う』…。
『人の数に押し流されてるだけの考え方』って
聞く相手が別に貴女である必要は無いのだから……と。