朝に目が覚めたはずなのに薄暗くて静かな部屋。カーテンを開くといつも飛び込んでくる光はなくて、暗い空がそこにあった。雨が降っている。音もなく降っている。秋の雨だ。
秋は切なく、美しく、楽しく、寂しい。雨は音もなく降って、記憶はグレースケールで、まるで昔の無声映画のよう。君との思い出も遠い昔のことのようで、どんな色をしていたのかはもうあまり覚えていない。
今日みたいな日はお気に入りのカフェでコーヒーを飲もうかと思い、身支度をはじめる。出掛けるのに半袖は頼りなくて、値札も取っていない、買ったばかりの長袖を着た。
駅までの道、新築に引っ越してきた五人家族。休みの日は笑い声が響いている。駐車スペースに並べられた自転車はまるで幸せのしるしのようで少し眩しい。私にはこない幸せ。
駅について電車を待つ。貨物列車が知らない誰かの大切な荷物を載せて通り過ぎていく。きっとあの中には誰かの希望とか、誰かの喜びとか、誰かへの優しさが詰まっているんだろう。
ふと君が恋しくなってホームのコンクリートに傘の先で君の名前を書いた。