君を認識したのは確か、入学して2か月は経った頃だった。授業の発表グループが同じになって、こんな人いたっけ?というくらいだった。発表の準備をしていくなかで君のことを少しずつ知っていった。
雨が降り続いた7月、暗い空に気分も自然と沈んで無意識のうちに不機嫌顔になってしまっていた。購買から出てきた君、雨宿りの屋根の下で嬉しそうに買ったばかりのアイスを食べていた。その日の夜は君のアイスを食べるときの笑顔が離れなかった。
セミが煩い8月はじめ、うだるような暑さに家を出たばかりなのにもう帰ろうかと考えていた。道の向こうで旅行の外国人に道案内をしていた君、英語は苦手って言っていたのに一生懸命に説明している。僕はいつの間にか書店で『英会話入門』を手に取っていた。
はじめての夏休み仲間で集まった8月おわり、みんなの輪から抜けて、君と話したくて君を探していた。息を潜めるように泣いていた君、きっと辛さをいつもそうやって覆い隠していたんだろう。これからは僕と分け合って欲しいと願った。
笑顔に、優しさに、涙に、気がつくたびに君のことが気になって、いつの間にか君のことばかりを考える僕になった。
君に僕の気持ちを伝えた9月秋。「恋」が「好き」が「特別」が分からないという君、そんな君さえ愛おしく思った。「少し考えたい」と言った君に期待してもいいのかなあ。
ねえ、ゆっくりでいいよ。歩くくらいの速度でいいよ。
小さい子どもが積み木をつみあげるみたいに、下手くそでもいい。不格好でもいい。ゆっくり、ゆっくり、ひとつずつつみあげていこう。
ゆっくりと、歩くような速度で僕と君、恋をしよう。