雄一郎の半生
恐らくは、この頃だと思うが、母は
出稼ぎをやめて、近くの町の工場に
勤めていたようで、ここでまた妻子
のある上司と恋仲になり、挙句の
果てには、祖父母と弟のいる我が家に
その上司を引き入れ、一緒に住むように
なっていた。いつも、夕食時に
一升瓶を立てて酒を飲んでいた。
私はそんな男が大嫌いだった。
ある日、その男の妻と母がやってきた。
「お父さんを返してください」と
泣きながら男の妻は母と祖父母に懇願
していたことが、今も目に映っている。
その後も居座り続けた男は、ある日、
自宅の敷地に竹囲いを作るために、
裏の竹林で竹をさばいていた。
私たち兄弟は、なぜか、男に向かって
遠くから石を投げた。そして
「出ていけー、帰れー」と弟と言っていると
男が怒り追いかけてきた。そして胸倉を
掴まれ、「何するんだ、この坊主。」と
足で蹴飛ばされた。この事が祖父母の
怒りを買い、子供に手を上げるなんて
許せないと、この男はこの日から家には
居なくなった。後に母に「どうして石を
投げたんだい。」と尋ねられたが、
今でも当時の私としては、完璧な返事を
したものだと、自分で褒めている。
その返事はこうであった。
「お父さんになれるかテストをしたんだ」
であった。これを聞いた母は、返事が
出来なかった。
フィックションのような話ですが、
ここに、綴っていることは、全て事実です。
次回につづく