父が亡くなってからしばらく、文字通り母は泣き暮らしていた。
子供の私に向かって「死にたい」と言うことも多くなった。
当時の母は完全に精神を病んでいたのだと思う。
しかし、当時は心療内科という存在すらなく、
また、気軽に精神科を受診できるような時代ではなかった。
母はひたすら、父を失った絶望と苦しみ、
将来への不安と闘わなければならなかった。
「ねぇ、みんなで死んじゃおうか?」
は?
何言ってるんだ、死んでどうなるの?
あんなにかわいい弟君も死ねって言うの?
溢れてくる感情を、7歳の私はまだ上手く言葉にできなかった。
ある時、
台所で母は泣きながら包丁を持ち出して、服の上から自分の腹に突き刺した。
私は恐怖のあまりに、叫び声をあげて裸足のまま庭に飛び出してその場から逃げてしまった。
庭で息を切らしてしゃがみ込み、足はガクガクと震えていた。
しばらくして台所に戻ってみると、
母はただ刺す仕草をしただけで無傷だった。
安堵というよりも、母に騙されたという怒りに近い気持ちが溢れてきた。
私の心はぐしゃぐしゃに押しつぶされていた。