美しいが不便そのものの大自然の中、一日何十キロもひたすら歩いて郵便を届ける。
一回の配達にまる三日を要すと言うから相当の範囲なんだろう。一般的に郵便配達と言えば、自転車かバイクを使う。しかし、そんなもので渡れる場所ではなく、険しい崖を命懸けで登ったり、川に半身浸かりながら目的地へと急ぐ。
笠を被り、頑丈なリュックを背負い、水筒をぶら下げての移動。暑い日も寒い日も歩みは止むことはない。大雨や強風の日でもきっと休めないだろう。配達は一人でも、待っている人は多数。年と共に足を傷めた父は、まだ若い息子へと自分の生業を手渡して行く。最初はしぶしぶ従っていた息子も、父が配達先で見せる優しさや思いやりに打たれ、最後の仕事を果たす父に沢山の村人が集いねぎらう。
目の見えない独居のおばあさんに、孫息子から届いた手紙を渡す。中には紙幣も入っていて、おばあさんは指でお金を確認すると、慣れた手つきで胸元へと仕舞う。
そして、手紙を開いて父に読んでとねだる。
その手紙の内容は、大学進学とともに都会へ出た孫息子からの近況報告。父から息子にバトンが渡され、途中息子が読み上げるが、最初にこにこと嬉しそうに聞いていたおばあさんの顔が次第に曇る。父はその姿を背中で察し、息子にはしょるよう合図をする。孫息子の帰省を待ち続けるおばあさんの気持ちとは逆に都会での生活に家を忘れ、浮かれている孫息子の姿が短い手紙に現れている。
目の見えないおばあさんの姿は、アルプスの少女ハイジに出て来るペーターのおばあさんのようで胸が切なくなった。
配達の旅は続き、途中田んぼの畦道で美しい女性と出会い、恋に落ちたり、配達にお供する愛犬「次男坊」も村人のアイドルだったり、過酷な道のりを描く淡々とした描写の中、微笑ましいシーンも結構ある。
世継ぎ問題、後継者がなく商売が閉鎖されがちな現代。この寡黙な父は生粋の仕事人で昇格とか目立った功績が欲しいわけではなく、ひたすら村人の喜ぶ顔にやり甲斐を感じていたんだね。素晴らしい作品でした。