甘い人間

本★ときどき★パン

共謀小説家 蛭田 亜紗子

2021-03-25 17:59:38 | NetGalley
「私たちは互いに利用しあって生きている」

尾崎紅葉と加藤籌子・小栗風葉夫妻
師紅葉が『金色夜叉』を未完のまま死ぬと、その続き『終編金色夜叉』を執筆した。

内容紹介と編集担当者コメント

その人は優しき伴侶か、おぞましい鬼か。実在の小説家夫妻を題材にした、衝撃的な愛の物語。
西洋化の波にもまれる明治時代。
小説家になりたいと願う17歳の宮島冬子は、当代きっての文学者・尾形柳後雄(ゆうごお)のもとで女中をしている。
同じ志で下宿する男弟子たちは次々と小説家として花開いていくのに、
女の冬子はまるで文壇から相手にされないどころか、指導者の柳後雄からの誘いを断れず彼の子を身籠もってしまう。

行き場がなくなり小説家の夢を砕かれそうになった冬子を救ったのは、弟子の一人・春明だった。
「あなたとおれで共謀しないか」と結婚を提案された冬子は、思惑がわからぬまま、春明の妻になることを決意する。
しかし、新鋭小説家の夫を支えながら、一人の無名の表現者として創作を続ける冬子に、
想像もしなかった壮絶な日々が待ち受けていた――。


社会の構造に抗いながら懸命に生きる冬子の選択を、ぜひ見届けて頂きたいです。
終章を読んだ時には、あまりの衝撃に涙が止まらず、しばらく呆然としてしまいました。
どんなに傷つき、憎み合うことがあろうと、
こんなにも美しい言葉をいつか誰かと交わせる日が来るのなら、私は一生人と関わり続けていたいと願います。
壮絶な旅路の果てに冬子が辿り着いたこの光景を、ぜひ読者のみなさまにも見て頂けたら幸いです。

【担当編集・田中】


感想
とても面白かった。
明治時代の作家先生の話か…。と、冒頭での苦手意識はあっという間になくなり、するする読んだ。
最後の方は衝撃も衝撃、さすが「共謀」小説家夫婦、お見事です。
「私たちは互いに利用しあって生きている」帯の惹句もいいし、文章も巧みで、新人とは思えない。

冬子が作家として成功するのかと思ったら、なかなかの策士ぶりで、
「内容紹介」に、実在の小説家夫婦を題材にしたと書いてあったので、「尾形柳後雄」→尾崎紅葉だなとか、
未完の作品は『金色夜叉』、ということは・・・など思い描いているうちに、話は次々に思わぬ方向に展開され、
衝撃的でありながらも、何だか納得、いい夫婦じゃないかと最後はしみじみしました。
実在人物をモデルにした小説は時間に沿って出来事をたどるだけで終わってしまうものが多いですが、
夫の小説家と「共謀」する文才のある妻、二人の設定とその後の関係がとてもよくて、良作だと思います。