少年をテーマにした7編の短編小説「少年譜」(既刊)より「伊集院静--少年小説集」第1作目。
木内 達朗氏の美しい装画が豪華。
鍛冶屋の仕事に魅せられ、中学に行かずに鍛冶屋になる夢を持った少年:浩太を諭す場面が山場。
口べたな老職人が浩太に語る話が心を打つ。
小学校の担任:須藤の言葉「鍛冶屋は人間が最初に作った職業のひとつだ」
も印象に残った。加筆部分として、大人になった浩太は・・・。
折しも、鉄鋼業界再編の時期でタイムリーな面も。
内容紹介
鋼と火だけを相手に、人生の大半を過ごしてきた鍛冶職人の前に現れたのは、澄んだ瞳をした12歳の少年だった。
少年は、鍛冶屋になりたいから、仕事を見学させてほしいと言う。年老いた職人は少年のその純粋でひたむきな姿に心が動き見学を許した。
少年は、毎日訪れるようになり、職人も鍛冶のことを話してやり、二人は心を通わせていった。
職人は、少年が鍛冶屋になりたいというのは、子どもの気まぐれだと思っていた。
後日、少年の母親が訪れた。要件は、少年が中学校にいかずに鍛冶職人の修行をしたいと言い出したので、ここでは修行できないと説得してほしいということだった。
しかたなく承諾した職人だったが、自分は口べたなので、少年に話して説得できる自信がなかった。
話せば話すほど、少年は自分に裏切られたと思うに違いない。
職人は、考えた末、自分が親方から聞いたことを、当時と同じように山へ出かけて、少年に話してみることにした。
山を歩きながら、彼は鍛冶がいかに素晴らしい仕事であるかを少年に話した。
それは、説得とはまったく逆の話だったが … …。
年老いた鍛冶職人は少年を、いかに育てたのか? 子育てとは。人育てとは? 伊集院 静が贈る珠玉の短編小説!
「親方と神様」という中国山地で暮らす鍛冶屋の職人と、その仕事に憧れる少年の物語です。
伊集院 私自身が、子供の頃、鍛冶屋になりたかった。小学生のとき、鍛冶屋の仕事をずっと見ていて、学校に行かないことがあった(笑)。
また、聖書に出てくる職業に興味があります。鍛冶屋にしても、大工にしても、娼婦にしても、ずっとなくならないものですからね。
──鍛冶屋に憧れる少年に対して、親からの依頼もあって、親方はその夢を諦めるように諭します。
その不器用な諭し方にこの小説の魅力があると思いますが、この短篇も、単行本で大幅にラストを加筆なさっています。
伊集院 少年は、鉄鋼会社に就職して昭和の大合併を成し遂げ、「鉄の番人」と呼ばれるようになります。
その男が飛行機に乗って、親方と歩いた山を眺めるシーンを加筆しました。
この小説集では「励め=生き続けろ」ということが結果として貫かれていて、加筆することでそのことが分かりやすくなったと思います。しかし、今までの私だったら、このような加筆はしなかった。あとは自由に考えてください、という姿勢だったのです。その典型が「トンネル」という作品です。
しかし、今は加筆部分が必要だと思う。「トンネル」と「少年譜」、「親方と神様」。この間に、私という人間の変化があると思っています。