内容紹介
壁にぶつかってどうしようもなくなって……でも、いつだって朝は来る。
小さな島の、やすらぎの託児所 兼 民宿。九州北部にある人口300人の星母(ほしも)島。
そこで育った千尋は、1年前に戻ってきて、託児所を併設した民宿を営んでいた。
島には「母子岩」と呼ばれる名所があり、家族・子供・友達のこと……
悩みを抱えたひとびとがそのご利益を求めて訪れる。
千尋は島の人々とお客さんと触れ合いながら、自らの過去と今を深く見つめていく。
あなたのほんとうの願いは―― ただ願うだけでいいの?
江藤千尋。いい子、いい子、千尋はみんなの子どもだよ。
「モライゴ」『民宿 えとう』の貰い子。蔑みの意味ではなく、
だからかわいがってあげよう、というような愛のある空気に満ちていた。
「お前はね、この星母島のみんなの子どもなんだよ」
物心ついた頃から、島の大人たちのそんな言葉をよく耳にしていた。
九州北部の人口約300人の星母島で民宿兼託児所を営む千尋27歳。元ベビーシッター。
従業員は千尋にくっついて島に来た大野麦生。この、麦生がいい味出してます。発する言葉が刺さる。
千尋の養母で、民宿 えとうの前経営者:政子さん(67歳・KISSファンたぶん)が格好いい。
「千尋はあたしのもんだ!」と啖呵を切る場面、痺れたよ~♬
第一章 あなたのほんとうの願いは
「心が死んでいく音」リアルだ。
育児に疲れ果てた田所理津子が生後10か月の達樹を連れて星母島にやってくる。千尋:ニヒルな感じの人
麦生が釘を刺す「民宿の主に悩みを打ち明け、そこで厳しくもあたたかく含蓄のあるアドバイスをもらい、つかれた心が癒やされ、そして明日への新たな一歩を踏み出す、みたいな展開ですか?」
自分に都合の良い素敵な人生の物語の展開を夢見るのは自由ですけど、感情も事情もある他人に都合の良い役柄を押しつける人は、僕は大嫌いだな。
第二章 彼女が天使でなくなる日
愛花と母親の関係が強烈で。ここまでくると、毒母というよりもマインドコントロール。
ここでも麦生の言葉が刺さる。「変だけど、それがあの人たちの人生なんだよ」「どんなにがんばっても、行きずりの他人の人生を変えることはできないよ」
「はじめの一歩を踏み出せた人は、次の一歩も踏み出せるよ」次がいつになるかはわかんないけどね。
千尋の心の中でひっそり呼ぶだけにとどめる。「ババア」という単語はものすごく力強い。
今後二百年ぐらいしぶとく生き残りそうなたくましさに溢れている。
第三章 誰も信頼してはならない
こんなふうに思いつめて生きてきた千尋。
慣れてはいけない、いなくなる可能性はある。やさしさをあたりまえに享受しないように...。
民宿の客として島を訪れた、麻奈と絹の関係も第二章の母娘と同じく歪みまくっている。
本音をぶつけ合って別々に帰って行った。当然だよ。
千尋:タコデスネ。クソデスネ。
自分もまた、伝えるべき相手に伝えられていないことがたくさんあると気づいた千尋。
第四章 子どもが子どもを育てるつもりかい
陽太の母:まつり。一緒に育った千尋が大好き。
ここでも麦生の一言が刺さる。「親になったからって、とつぜん別人に生まれ変われるわけじゃないでしょ」
まつり「麦くんがただ千尋ちゃんを大好きなだけの、すこやかで阿呆な男でよかった」
第五章 虹
ついに三崎塔子との対戦。
「『みんな』がどうしてきたかは、わたしには関係ないです」
いくら言っても糠に釘状態。勝負を酒でと勝手に話を進める塔子。
ここで政子さんが体をはって(?!)阻止。ナギサさんもこっそり援護射撃。『虹』ねぇ・・。面白すぎます!
ラストが深い。まつりは天使じゃなくていい。天使などならせてはいけない。誰ひとり。