甘い人間

本★ときどき★パン

彼女が天使でなくなる日 寺地はるな

2020-08-31 22:29:59 | NetGalley


内容紹介
壁にぶつかってどうしようもなくなって……でも、いつだって朝は来る。
小さな島の、やすらぎの託児所 兼 民宿。九州北部にある人口300人の星母(ほしも)島。
そこで育った千尋は、1年前に戻ってきて、託児所を併設した民宿を営んでいた。
島には「母子岩」と呼ばれる名所があり、家族・子供・友達のこと……
悩みを抱えたひとびとがそのご利益を求めて訪れる。
千尋は島の人々とお客さんと触れ合いながら、自らの過去と今を深く見つめていく。
あなたのほんとうの願いは―― ただ願うだけでいいの?


江藤千尋。いい子、いい子、千尋はみんなの子どもだよ。
「モライゴ」『民宿 えとう』の貰い子。蔑みの意味ではなく、
だからかわいがってあげよう、というような愛のある空気に満ちていた。
「お前はね、この星母島のみんなの子どもなんだよ」
物心ついた頃から、島の大人たちのそんな言葉をよく耳にしていた。

九州北部の人口約300人の星母島で民宿兼託児所を営む千尋27歳。元ベビーシッター。
従業員は千尋にくっついて島に来た大野麦生。この、麦生がいい味出してます。発する言葉が刺さる。

千尋の養母で、民宿 えとうの前経営者:政子さん(67歳・KISSファンたぶん)が格好いい。
「千尋はあたしのもんだ!」と啖呵を切る場面、痺れたよ~♬

第一章 あなたのほんとうの願いは
「心が死んでいく音」リアルだ。
育児に疲れ果てた田所理津子が生後10か月の達樹を連れて星母島にやってくる。千尋:ニヒルな感じの人
麦生が釘を刺す「民宿の主に悩みを打ち明け、そこで厳しくもあたたかく含蓄のあるアドバイスをもらい、つかれた心が癒やされ、そして明日への新たな一歩を踏み出す、みたいな展開ですか?」
自分に都合の良い素敵な人生の物語の展開を夢見るのは自由ですけど、感情も事情もある他人に都合の良い役柄を押しつける人は、僕は大嫌いだな。

第二章 彼女が天使でなくなる日
愛花と母親の関係が強烈で。ここまでくると、毒母というよりもマインドコントロール。
ここでも麦生の言葉が刺さる。「変だけど、それがあの人たちの人生なんだよ」「どんなにがんばっても、行きずりの他人の人生を変えることはできないよ」
「はじめの一歩を踏み出せた人は、次の一歩も踏み出せるよ」次がいつになるかはわかんないけどね。

千尋の心の中でひっそり呼ぶだけにとどめる。「ババア」という単語はものすごく力強い。
今後二百年ぐらいしぶとく生き残りそうなたくましさに溢れている。

第三章 誰も信頼してはならない
こんなふうに思いつめて生きてきた千尋。
慣れてはいけない、いなくなる可能性はある。やさしさをあたりまえに享受しないように...。

民宿の客として島を訪れた、麻奈と絹の関係も第二章の母娘と同じく歪みまくっている。
本音をぶつけ合って別々に帰って行った。当然だよ。
千尋:タコデスネ。クソデスネ。
自分もまた、伝えるべき相手に伝えられていないことがたくさんあると気づいた千尋。

第四章 子どもが子どもを育てるつもりかい
陽太の母:まつり。一緒に育った千尋が大好き。
ここでも麦生の一言が刺さる。「親になったからって、とつぜん別人に生まれ変われるわけじゃないでしょ」

まつり「麦くんがただ千尋ちゃんを大好きなだけの、すこやかで阿呆な男でよかった」

第五章 虹
ついに三崎塔子との対戦。
「『みんな』がどうしてきたかは、わたしには関係ないです」
いくら言っても糠に釘状態。勝負を酒でと勝手に話を進める塔子。
ここで政子さんが体をはって(?!)阻止。ナギサさんもこっそり援護射撃。『虹』ねぇ・・。面白すぎます!

ラストが深い。まつりは天使じゃなくていい。天使などならせてはいけない。誰ひとり。





純喫茶パオーン 椰月美智子

2020-08-06 15:23:25 | NetGalley


表紙がかわいくてステキ。
5年生の来人の8年間が祖父の店「純喫茶パオーン」を舞台に描かれる3連作。
なんちゃって方言(ときには猫語!)を繰り出し、
嘘を見破る鏡をプレゼントするセンスやのっぺらぼうや立て籠もり強盗事件で見せる推理など、
各話ともおじいちゃんが暗躍? していい味出してる。
創業50年の方が店に箔がつくには笑った。
人質作戦はイマイチでした。

内容紹介
その昔ながらの喫茶店には なぜか不思議な事件と 個性的な人々が引き寄せられる。
店主の孫の「ぼく」が見た、 どこかとぼけて愛らしい 温かな日々と少しの謎。

創業50年(おおよそ)の喫茶店「純喫茶パオーン」。
トレイを持つ手がいつも小刻みに震えているのに、グラスにたっぷり、
表面張力ギリギリで運ぶ「おじいちゃんの特製ミルクセーキ」と、
どんなにお腹がいっぱいでも食べたくなっちゃう「おばあちゃんの魔法のナポリタン」が看板メニューだ。
その店主の孫である「ぼく」が小学5年・中学1年・大学1年の頃にそれぞれ出会う不思議な事件と、
人生のちょっとした真実。心地の好さに、きっとあなたも通いたくなる。

かきあげ家族 中島たい子

2020-08-02 12:48:35 | NetGalley


おもしろかった。
急転直下。この言葉が真っ先に思い浮かんだ家族ものちょっとドタバタの物語。

引退の言葉がちらつくようになったベテラン映画監督の中井戸八郎(69歳)。
この歳になって自分の父親が名監督だったと知る。
八郎が「おれは降りる! 親! ずっと逃げてきたが、正解だった。向いてないからなっ」
今さら何を言っているのやら...妻も子どもたちも、孫でさえ分かってるよ。

内容紹介
一番身近で一番わからない、一番大切な「家族」の話。
 コメディ映画監督の中井戸八郎は、新作映画の監督を降ろされてからスランプに陥っている。

そんななか、新潟で家庭を持つ長男の章雄が仕事を辞めて戻ってきた。
時を同じくして、トランスジェンダーの元三男、
現長女の美子が離婚して孫の吾郎を連れて出戻り。
家にはもともと引きこもりの次男・真太郎がおり、中井戸家は図らずも一家集結することに。
 
あるとき、映画プロデューサーの森が、中井戸が所有するはずの
“世界の黒川”と呼ばれる名監督の遺稿である脚本が、ネットオークションに出ていると告げる。
慌てた八郎は、家族の誰かがオークションに出したのではないか、と疑い、改めて家族一人ひとりと向き合ってみようとするが……

家で過ごす時間が増えた今、家族と向き合うのにぴったりの一冊!

おすすめコメント
知っているつもりの「家族」のこと。実は全然分かっていないのかも……
家にいる時間が増えて、そう感じた人も多いのではないでしょうか。
みんながみんな問題を抱えた中井戸家。今こそ家族と向き合うとき!